毒を食らわば皿までと【完結】

紫紺

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第9章 聖夜

聖夜 7


「一体、何が起きてたんだ? 穗隆、あんたは知ってるんだろう?」
「ああ? そんな話に興味あるのか?」
「当然だろう。俺はそのために4年も棒に振ったんだ。ま、今更メジャーに出るつもりはないけれど、あの頃、表舞台に立とうとしてたのは俺達だけじゃない。夢を追っていたバンドマンたちが、みんな、少なからず迷惑を被ったんだ」

 遺書により、塁殺しも彼の犯行と証明された。そう記事には書かれていた。だが、自分のことは何一つ触れられていない。遺書に自分のことは書いてなかったのか。
 華山は不信に思いながらも、少しずつ社会に顔を覗かせる。女の所から出て、アパートを借り、音楽界に少しずつ復帰する。昔の仲間に連絡を取り、芸名『K』として表舞台に戻ってきた。

「それでも、警察から何か言われることはなかった。親父に連絡して、捜索願を取り下げてもらった。俺は待ってた。あんたが現れるのを。連絡を取る必要はないだろうと思っていたよ。で? その遺書には何が書いてあったんだ?」

 華山は、穗隆が当然知っていると思い込んでいる。答えを促すよう、膝の上を見下ろした。
 事件が解決に至った時、穗隆はもう警察の人間でなかった。遺書の詳細は知るはずもない。穗隆はそう言って誤魔化すこともできた。

「そうだな。知りたいなら教えてやってもいい。お人好しの先輩が、全部教えてくれたからな。塁や犯人の一馬のことも」
「お、それは聞きたいな」
「でも、ただじゃ嫌だ」

 華山の膝の上で、穗隆は形の良い双眸に光を潜ませる。それを見た華山は、穗隆の頭を膝から荒っぽく落とした。

「ふざけんな。俺はセックスマシーンじゃない。もう無理だよ!」
「いてえなっ」

 穗隆はベッドの下に転がると、頭をさすりながら起き上がった。

「じゃあまた明日だ。少しずつ話してやるよ」
「なんだよそれは。千夜一夜物語かよ」

 華山はそう吐き捨てると、不貞腐れたように布団の中に体を入れた。

「それはいいな。では、僕はいくつもの物語を準備しよう。いつかは真実にたどり着くかもしれんぞ」
「いいよもう。絶対たどり着かない気がする」

 穗隆は布団を持ち上げ、華山の隣に潜り込む。

「ふふ、そうだな。そうかもな。でももう諦めろ。僕はもう、おまえを離すつもりはない。僕の寝物語を一生聞け」

 猫のように華山の腕の中に入り、勝ち誇った表情で見上げる。

「敵わんな、あんたには」

 仕方なさそうに華山は穗隆を受け入れ、額にキスをした。

「俺があんたの前から姿を消したのは、確かに事件のことがあったからだけど。その前に、俺の危機意識も働いたんだよ」
「危機意識?」
「そうだ。あんたの異常なほどの、俺に対する執着がな。少し恐ろしかった。猟奇的な匂いがぷんぷんしてたからな。ま、そういうことに関して、俺の勘は当たるんだ」
「ふうん」

 それがどうした。とでも言うように、穗隆は気のない返事をする。そうしながら、左手の人差し指を華山の体に滑らせる。くすぐったいのか少し体をくねらせ、その手を華山は掴まえた。

「やめろ……。でも、あんたがあの山道で気絶してるのを見た時。どこかで観念したというか。もう、あんたに呑まれてやってもいいかなと思ったんだ。全てが終わって、俺が無実と認められたら。あんたとまた会おうと決めたんだ」

 華山は掴んだ穗隆の手の甲にキスをする。弾力のある唇の感触が、穗隆の手に残った。




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