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第9章 聖夜
聖夜 8
「なあ、おまえが持ち帰った塁の遺書やタオル、どうしたんだ?」
「え? なんでそんなことを聞く?」
「猟奇的な僕としては、おまえの情報は何でも欲しいんだよ。心配するな、一事不再理って知ってるか?」
「なんだそれは。いや、どっかで聞いたことはあるな。ドラマで聞きかじっただけだから詳しくは知らんが。一つの判決が出たら同じ事件を裁かないとかいう? 確かそんなだったような」
「ああ、ははっ、よく知ってるじゃないか。そう……それだ。だから、おまえが例え塁を殺した犯人であっても、もう裁かれない」
「俺は犯人じゃないよ。まあいい、別に隠すこともない。それならアパートに帰ってすぐ燃やしたよ。わざわざ捲土重来のタオル使いやがって。あれ作るのに、どんだけ俺らの貴重な労働が、費やされてると思ってんだか!」
「なんだ。僕にくれたタオルじゃなかったのか」
穗隆は少し残念そうに首を振る。華山は驚いて、穗隆の顔を覗き込んだ。
「あんたにあげた? タオルあげたっけ」
「勝手に持ってったとも言うか。捲土重来のじゃなかったけど」
「そうだっけかな。だとしてもそれは関係ないよ。まさか、刑事に証拠のタオル渡すわけないだろう」
「それもそうだな」
穗隆は半身を起こし華山を見下ろす。
「おまえの勘は確かに鋭いようだな。僕はもう、おまえを離さないからな。次、逃げるなら命がけだと知っておけ。僕はいざとなったら、おまえの首だけだって愛せる」
「本気で猟奇的だな……。まるでサロメだ。なんだろ。4年前のあんたより、ずっと物言いが容赦なくて奔放だな。ちょっと意外な感じだ」
「え? そうか? まあ、一度死にかけたからな。開き直ったんだろ」
「ふうん、便利な言い訳だな」
華山は呆れて口にするが、穂隆のおどけた眼差しに潜む、妖しい光を見逃さなかった。そうだ。こいつは多分とんでもない奴なのだ。華山はネットの掲示板に書かれていた、あることないことを思い出す。
――――命がけというのも、まんざら嘘でもないかもな。
「あんたの全部をわかってるか、それはわからないが。覚悟はしてるさ。でも、それはあんたにもしてもらわないとな」
「どういう意味だよ」
華山は見下ろす穗隆の頬に、右手を添える。
「俺もあんたにぞっこんだ。あんたが暴れても壊れても、あんたの思い通りにしてやる。あんたは甘いお菓子のようで実は劇薬だ。俺は毒を食らわば皿までと、そう覚悟してここにいるんだ」
添えられた右手のひらに、穗隆は軽くキスをする。
「むしろ壊してくれと言ったろ。おまえに壊されるなら本望だ。僕は自分の欲望を抑えられない。おまえの言う通り確かに劇薬だな。皿でもなんでも構わない。おまえに食いつくしてもらうよ」
二人はしばらく、黙ってお互いを見つめた。どちらも視線を外すつもりはないようだ。そのうち華山が掴まれた手をするりと抜き、鳩尾のあたりに降ろした。
「けど飽きたからって、殺すのは無しな。俺は捨てられても恨んだりしないから」
「ははっ。心配するな。僕がおまえに飽きることは絶対にない。絶対に」
穗隆は華山の顎を持ち上げる。上を向いた少し厚めの唇を、おのれので塞いだ。華山を支配するように両手で顔を持ち、彼の全てを奪う勢いで吸い付いた。その腕を、華山は掴むが抵抗はしない。穗隆のされるがままになっていた。
「ふうう……もう気がすんだか? 腹が減った。あんた以外のものが食べたいんだけどな」
ようやく離れた唇、零れた涎を手の甲で拭う。
「気が済むことなんかないよ。永遠に……。でも、僕も腹が減った。今日のところはこれで勘弁してやるよ」
大きなため息をつき、華山は両手を上げて降参の仕草をした。
「お許しが出て良かったよ。じゃあ、朝飯食べに行こう。近くにモーニングの美味いところがあるんだ」
華山の提案に穗隆は頷く。誰に見られたところでもう何も問題はない。
身支度を整えた二人は、取り留めのない話に笑いを挟みながら、未だクリスマスの飾りが幅を利かせる街を歩いて行った。
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