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第1章
1 完璧な夜
しおりを挟むどこからか聞こえる水音に、ふと目を覚ます。まだ酒が残っているのか、頭がやや重い。
――――なんだ、晴れてるじゃないか。
水音は雨かと思いきや、カーテンの向こうには真夏の太陽が朝からぎらついてやがる。ダブルベッドに目をやると、白いシーツが縒れて皺を作っている。
気持ちのいい寝息を立てていたカササギはいつの間にかいない。ベッドサイドには、あいつにしてはダサい? リュックが転がっていた。
――――ああ、カササギの奴、シャワーか。
あれから、俺は定宿にしているシティホテルの一室でカササギを抱いた。あいつは艶めかしく俺を誘い、慣れた仕草でリードした。
男を抱いたのは久しぶりだったが、十分すぎるほど満足できた。あいつの誘う目は麻薬のよう、絡める指も吸い付く唇も舌も、全て極上のスイーツのように甘かった。
ひとつだけ気になることはあったが、もしや拾い物だったかと思ったりもした。これから時々、自分のマンションに呼び出そうなんて、無謀な計画まで頭をもたげた。それほどに、完璧な一夜だった。
「カササギ? 早いな。もう起きたのか」
シャワーの音が止み、人が出てくる気配がした。ドアを閉める音、俺はベッドの上に裸のまま起き上がる。起き掛けにもう一回もありだよな、なんて思いながら。けれど……。
「あ……あの……」
「え? と、カササギ……だよな?」
バスルームから姿を現したのは、確かに昨夜会った男だ。だが、何故だろう。全くの別人にも見える。バスタオルを巻いて出てくるという予想に反し、カササギは服を着ていた。
昨夜と同じ紺色のシャツにデニムなのだが、きちんとボタンを留め、シャツをデニムにインしてる。そして、なによりも、怯えた様子で俺の目を見ようとしない。
――――こいつ、こんなに童顔だったかな。
「なんの真似だ。おまえ……」
「す、すみません。カササギがなにしたかわかってますが、僕はもう帰らないといけないんでっ」
カササギがなにしたか? 一体なに言ってるんだ。カササギは目を半ばつぶったままベッドまで走るとひったくるように自分のリュックを手に取った。
「待てよっ!」
「ひゃあああっ。許してくださいっ」
俺はあいつの腕をリュックごと引っ張った。俺の足元に転がるカササギ。何が何だかわからない。酔っぱらってたとも思えないし、これはなんの茶番だ。
「おまえ、どういうつもりだっ!」
全裸ですごむのもカッコ悪いが仕方ない。俺は足元のあいつの腕を取り、目の前でつるし上げた。
「あの、説明しますから、本当に、僕はカササギじゃないんです。あいつは、僕じゃないんです」
昨夜見た切れ長のクールビューティな双眸は、なぜかぱっちりした可愛い瞳に見える。声質もどこか違う。
でも、どう見ても、あいつだ。違和感はあるものの少なくとも他人じゃない。大体、入れ替わる必要もないだろうし……。
「わかった。とにかく、そこに座れ」
けれど、まずは話を聞いてみるか。どんな呆けた言い訳が出てくるのか、それも楽しみだ。
俺は応接セットのソファーを指さし、自分も遅ればせながら下着とガウンを纏って真迎えの椅子にドカリと座った。
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