カササギは雨の夜に啼く【R18】

紫紺

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第4章

6 陸の証言

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「そこからは、私が話しますよ。私の方が詳しい」

 俺は返事の代わりに頷いて見せた。さっき出したお茶を一口飲み、納屋は唇をすっと舐めた。
 納屋は仙台市在住だが、今日に限って東京に居たらしい。鬼塚からの電話が来てすぐに、待ち合わせて一緒に来たと説明した。

「陸が現れたのは、空が14歳の時です。父親に乱暴されているとき、ふいに現れた。これはカササギの証言ですが。陸本人からも話は聞けましたので、まあ、間違いはないでしょう」
「本人? 警察が陸本人と話をしたということですか?」
「ええ。『陸』は父親に襲われているとき、ビール瓶で殴ったんです」
「殴った……ようやく反撃したということですか? しかもカササギではなく陸が?」

 どの人格にも役割がある。陸は子供の頃、父親に殴られる可哀そうな子供だったはずだ。それがどうして、反撃したのだろうか。それに、犯されるのはカササギの役目のはず。こんなことを考えていると気分が悪くなるが仕方ない。

「まあ警察では当初、よりによってとんでもない出鱈目を言い出した。と辟易してたんですけどね。でも、少年だったし、虐待されていたのは明らか。頭ごなしに責められなかった」
「ビール瓶で殴られた父親はどうなったんですか……まさか」

 打ち所が悪ければ、そういうこともあるだろう。

「瓶は砕けましたが、そんな攻撃では死にません。激怒した父親ともつれあいになったんですが、結局割れた瓶で父親は怪我をして。酒飲んでると出血も酷いんですよ、血だらけになって倒れ、重症でした」

 包丁を振り回す『陸』の様子を思い出した。目は恐怖と怒りで完全に我を忘れ、この世のものとは思えぬ恐ろしさだった。
 鬼塚は俺に、『売春で補導された』なんて言ってたが、空は暴行もしくは殺人未遂で逮捕されていたんだ。

「結局、物音に気付いた隣人がパトカーを呼んだんですよ。隣人はずっと通報したいと思ってたようです。もちろん、空が親から虐待を受けてることをです。だから、まさか空が父親を殺そうとしたなんて思ってもみなかったようです」

 それでもその隣人は、『いつ起こっても不思議はなかったですね』と漏らしたと言う。この人が居なかったら、空は父親を殺していただろう。
 殺しても足りないくらいの糞親だが、殺人と未遂では大いに差がある。通報してくれたことに俺は心から感謝した。

「取り調べでは、しばらく『陸』が出ていました。最初はライオンのように咆哮してました」

『あの男を生かしておけるかっ! ついにやった! やってやった!』

 あの男。ついさっき、『陸』は言ってたな。『おまえはあの男じゃないのか』。つまり、俺を父親と思ったのか。

「ですが、時間が経ってくると落ち着いてきて、今度は打って変わって幼い子供のような話し方になりました」

『空が可哀そうで、助けてやったんだよ。僕はもう子供じゃないって……ずっと耐えてきたけど、反撃しなくちゃって思って』

 自分は空ではない。空のなかにずっといたけれど、少し前までは眠ったように息を顰めていた。カササギが自分の代わりに暴行を受けているのをじっと見ていたと言ったそうだ。


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