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第5章
6 ミッションインポッシブル
しおりを挟む鬼塚に言われるまでもなく、いい加減更新しなくてはと思っていた。背中を押されたわけじゃないが、メンバー様からのクレームには素直に応じるべきだろう。
つまりはこれ以上放置できず、この日、ようやくブログを更新した。またオフ会を考える時期だが、さてどうしたものか。
カササギの過激な行動が控えめになった今なら、あいつを連れて行くのはありだ。空ならなおのこと。オフ会となると丸一日家を空けるので、一人にしておくほうが心配だ。
このところ、それを理由に講演会を断っている。それもそろそろ再開しないと、俺のような仕事も結局は人気商売だ。忘れられるのは怖い。
投資を進めている身だが、実は相場での収入を当てにはしてない。そんなものに生活の基盤全てをかけてたら、とっくにホームレスだよ。
土日の夜は、俺がゆっくり出来る貴重な時間だ。ブログを更新してから、リビングで酒でも飲みながらぼんやり映画を眺めていた。映画はBGMに過ぎない。仕事のことや空、カササギのこと、色々ひっくるめて考え事をしていた。
「なに、その映画。この間も観てたじゃん」
「いいんだよ。流してるだけだから」
トム・クルーズ主演のミッションインポッシブル。俺のお気に入りはゴーストプロトコルだ。これかローグネイションのどちらかを観ることが多い。
「ふうん。でもオレもこれ好き」
カササギが冷蔵庫からジンジャーエールの瓶を取り出して、俺の横にぴょんと座った。
「なあ、おまえさ。俺のこと初めから知ってただろ。居酒屋の前で会うより前に。あの病院の雑誌で見たことがあったはずだ」
詰問口調ではない。あいつの顔をみたら聞きたくなった。夕食時は思いのほか美味しくできたカレーに感動し、完全に失念していたのだ。
「え? なんのこと?」
「しらばっくれてんじゃない。俺はね、おまえがあの日、あの店から俺が出てくるのも知ってたんじゃないかって思ってんだ」
カササギは瓶を口に付けたまま、目を丸くした。思わず吹き出しそうになったのを無理やり飲み込む。
「はあ? こりゃまた妄想激しいな、タカ」
呆れ顔で俺を見て、瓶をテーブルに置く。あいつのいつもの癖か、片膝を上げて両手で抱えた。
「そうかな。おまえたちにとって、一応の信用がおける後見人は必要不可欠なはずだ。人選を怠るとは思えないがな」
「へえ……」
カササギはそのままテレビ画面に視線を向ける。ちょうどトム演じるイーサンが、車ごと川の中に突っ込んだところだ。彼は上司の死体に発煙筒をつけて泳がせる。一斉に射撃される隙に仲間と反対側に泳いで逃げた。
――――このシーンは少し苦手だ。湖に落ちたときの息苦しさをどうしても思い出す。
「今は便利な時代だからな。スマホを持っていなくてもネカフェなんかでネットも使えたろ。俺のこともすぐ調べられたはずだ」
俺は画面から目を逸らし、正面を向くカササギに問いかける。あいつは細いが整えられた眉をぴくりと上げた。
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