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エピローグ
4 最後の面談
しおりを挟む――――俺の場合は、宗志とのことがあったから、真摯に向かい合おうとしてたんだ。この出会いは幸運だったというしかないな……。俺にとっても。
「母親と言えば、彼女、家を出た後、割とすぐに再婚してましてね。子供もいました。空にとっての異母弟ですが……しかも、名前が『陸』だったんです。
空の話から、弟ができたらそう名付けると言った名前。本当に名付けてたんですよ。なんか色々、考えさせられます」
「あ、ああ。その話はカササギから聞いています。空が自暴自棄になるのも仕方なかった。それで、あの怪物が出現したのだとしても」
「ご存じでしたか。やはりあなたは信用されてますね」
鬼塚の表情が少しだけ和らいだ。彼自身がいつこの話を聞いたのか、誰から聞いたのかは知らないが、やはり打ち明けてもらうには信頼関係が必要だったのだろう。
「先生は今現在も、彼女と連絡は取っているのでしょうか?」
「いえ、してませんよ。退院の報を最後に。彼女の方から、もう連絡してくれるなって言われましたから。戸籍ももう抜けてるし、彼女には彼女の家庭がある。仕方ないですよね」
「空にはなんと?」
「その通りのことを話しました。辛かったですが、彼も承諾していましたよ。
事件について、母親は必要最低限の協力はしたそうですから交換条件だったんでしょう。彼女の証言も、空が解離性同一性障害の疑いを証明するものでしたので、正式の精神鑑定が行われました」
母親は自分に責任があることを重々理解していたんだろう。空の起こした殺人未遂、もしくは暴行致傷。後悔はしただろうが、同時に今の生活を守るための防衛本能も働いた。
――――大人たちの身勝手なふるまいに、彼らは黙って従った。もう期待していなかったのだ。悔しくて悲しくて、それでもそれを受け入れるしかなかった。
どちらからともなく会話が途絶え、そこで面談は終わった。
「随分長かったね、タカ。ウトウトしちゃったよ」
診察室を出ると、カササギが待合室のソファーに横たえていた体を起こして出迎えた。
「あ、ああ。まあ、俺との面談は最後だろうから……今後のことも詳しく話してたんだ」
浮かない様子の俺を、しばし怪訝な顔をしていたカササギだが、やがて両方の口角をくいっと上げ俺の腕を取った。
「いいよ、もう。早く帰ろう。薬はもらったよ。飲む必要はないと思うけど」
「ああ、そうだな。ま、保険だ」
「先生もそんなこと言ってたな。どう? たまにはどっかで食事していかない?」
俺の腕に腕を絡め、駐車場へと足早に向かう。
「そうだな……じゃあ、トリニータに行ってピザでも食べるか」
「賛成っ! やったっ」
ぴょんと跳ね、俺の腕からすり抜けると一人車へと走っていく。俺はあいつのためにロックを外してやる。カササギの後姿に、もう悔しくて悲しいことは起こらないのだと伝えるように。
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