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第18話 サインの値段
しおりを挟むショーンと友達になれたのが嬉しくて、なんだか疲れも吹っ飛んだ。歳も近いし、佐山もきっと喜ぶだろう。
「あ、粉もん屋、もう閉店か」
二人でわいわいしながら後片付けをしていると、佐山がやってきた。
「佐山、さっきの凄く良かったよ」
「ホントに。ボクも感動しました!」
「え? そう? そりゃあ、まあ自信はあったけどな」
なんて得意げに、でも安堵が入り混じった笑顔で佐山が応じる。この場で受け入れられたのは大きな成果だから、あいつも嬉しいんだろう。
「ショーン、もしよかったらサイン書くぞ?」
「本当ですかっ! 嬉しい。お願いします」
「まだここでは全くの無名だよ?」
ショーンは気を利かせて喜んでくれたみたい。僕が申し訳なさそうに言うと、首をぶんぶんと振る。
「いいえっ。ボクは先ほどの演奏を聞いて確信しました。すぐに世界的ミュージシャンになりますよ」
それは言い過ぎだ。もちろん嬉しいけど。
「お、さすが。耳がいいね」
佐山はショーンが差し出したサイン帳にペンを走らせる。ショーンはこの日、映画界の有名人が来ると知ってサイン帳を用意してたんだ。もちろん、ロバートやスティーブのサインはもらい済み。
「将来、俺のが一番高価になるからな」
「はいっ」
またそんなことを……でも、ま、僕も信じてるけどね。
「誰が一番高値だって? もしかしてリンか? リンなら分かる」
「はあ? また、この勘違い野郎がっ。倫は売りもんじゃねえよ」
ややこしい奴が参戦してきた。僕はショーンの腕を引っ張って部屋の中へと入る。
「ジェフのサインはもらった?」
「はい。先ほど焼きそば担当代わるときに。いいんですか? こっち来ちゃって」
ここでは、ジェフの方がはるかに有名人だ。サインもらってんならよかった。
「アホが移るから、ほっとけばいいんだ。僕もお腹空いたから何か食べるよ。ショーンもどう?」
「あ、じゃあ付き合います」
「もうため口でいいよ? 日本語でも英語でも」
残り物に過ぎない料理をこそこそと皿に取り分ける。自分ちなのに、なんだかな。でも、お開きまであと少しの辛抱だ。
そう言えば、今日はあの嫌な奴来てないな。後から何か言われたらいやだから、ちゃんと招待してたのに。
嫌な奴ってのは、例の佐山の前任者。名前だけの音楽総監督、ビルだ。あいつ、事あるごとに僕たちのやることに難癖付けてくるんだよな。
このまえスタジオに行かなかったときもムカつくメールしてきた、僕に。佐山のことは怖いみたい。笑っちゃうよ。
『日本の洋楽文化なんてモノマネだ』って言うのが口癖で、それをみんなの前で言うんだよね。でも佐山は全く意に介さない。
スケジュールをわざと教えなかったこともあったから、僕は毎日、スティーブやマイケルと確認してるんだよ。ほんと、妬みって怖い。
ビルと懇意のエンジニア、レイモンドも親分がいないんで今日は普通にしてたな。レイ個人は実力もあるし全然いい奴なんだ。ビルとはずっと一緒に仕事をしてきた仲だからやりにくいだろうなあ。
庭ではまだ佐山とジェフが何かやってる。バーベキューの早食い競争か。本当に懲りないな。
まさか勝者の賞品は僕じゃないだろうな。なら佐山は死んでも負けないだろうけど。ま、これはこれで余興代わりになって悪くないや。
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