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第2部
第44話 イケメンの笑み
しおりを挟む移動はライブの前日。そのまま会場でリハーサルをする。佐山はサポートメンバーとともに、音響エンジニアさんたちと細かい打ち合わせをしている。
僕は楽屋や会場の非常口なんかをチェックしたり、ケータリングの手配をしたりと両方とも忙しく動いた。
「あ、もう花が届いてるんだ」
ロビーには、既に何本かのスタンド花が置かれていた。関東での祝い花は、レコード会社はもちろん、雑誌社やバンド仲間とか結構な数が並ぶけど、地方ではそうもいかない。だから、少しでもあれば嬉しいんだ。
「お、ダークソウルから来てんじゃん」
いつの間に佐山が来たのか、背後から声がした。
「あれ、休憩?」
「うん。俺の倫不足で」
何が僕不足だよ。でもまあいいか。自然と顔がにやけてしまった。
「ダークソウルって、何度かサポート入ったよね?」
まだソロになる前の話だ。
「そうそう。このバンド、名古屋を拠点に活動してんだよ。で、関東に来るときだけ俺にサポを頼んでた。嬉しいな。今日、来てくれんのかな」
東海地方でソロライブをする初めてだ。こんなところで、懐かしい名前を聞くことになった。やっぱり色んなところでライブをするのはいいな。
今回、北は仙台までだから、いつか北海道にも行きたい。あそこにも佐山を応援してくれる人たちがいるんだ。
「補充させろー」
佐山はおんぶお化けみたいに僕の背中から覆いかぶさってくる。ノースリーブのTシャツを着てるので、肩の筋肉が僕の頬に直接触れ、一挙に視界は狭く、息苦しくなった。
「ああ、もう、また」
僕の髪に頬ずりしているのがわかる。また匂いを嗅いでるんだよ。全く犬みたいだな。
「ううん、やっぱりあんたは最高だなあ。俺のやる気スイッチだ」
「やる気出たなら、リハに戻れ」
「えっ。冷たいお言葉」
「言うこときけよ。あの……あとはホテルに帰ってからで……」
「うふふんー。そうか? そうだなあ。今夜はどうしてやろうかな」
おい、またそんな危険なワードを。僕もなにかと想像しちゃうだろ。胸の前で組まれたあいつの腕。それに乗せていた両手につい力が入っちゃう。
「佐山さん。そろそろ始めようって稲田さんが……」
はっ! この声は!? 完全に弛緩していた体と気持ちに冷や水を掛けられたよう。全身が思わずぶるっと震えた。
「お、八神。わかったよ」
僕にかぶさってた佐山の腕がすっと軽くなる。振り向くと、そこには佐山に気のあるベーシスト、八神さんが立っていた。しかも、仏頂面と思いきや、満面笑顔なんだ。なんかムカつく!
「行ってくるな、倫」
佐山が僕を振り返る。僕はなんだかこのまま帰すのが癪に障った。
「佐山」
「なんだ?」
僕は素早く体を動かし、あいつの頬にちゅっとした。
「頑張って。また後でな」
「おおっ! 頑張る!」
僕のキスに分かりやすく興奮した佐山は、子供のような声で叫ぶと上機嫌でホールに戻っていく。その後を追いかける格好の八神さん。ちらりと僕の顔を見た。
「お疲れ様です」
これまたイケメンの笑みで返してきた。なんだよ、この余裕はっ。でも、僕は見逃さなかった。ちょっとだけ、頬を引くつかせていたことを。
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