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TAKE 11 初デート
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ロビーで待っていると、鍔付きの黒いキャップを深めに被り、デニムのジャケットに皮パンツの享祐さんがエレベーターホールから歩いてきた。
黒のサングラスもかけてるので顔はよく確認できないけど、オーラが半端ない。大体スタイル良すぎるよ。
「待った?」
「いえ、僕も今来たところで」
僕はシャンプーハットみたいな帽子にトレーナーにデニム。役柄とほとんど変わらない。駿矢は僕に近い設定だから仕方ない。
相馬亮はいいとこのお坊ちゃまで跡取り。僕はコンビニでバイトする売れないモデルなんだよ。まあ共感するところは多いから演じやすい。
「じゃ、行こう」
「あの、どこ行くんですか?」
さっさとドアの方に行こうとする彼の背後で僕は尋ねた。
「俺に任せて。車で来てるんだ。まずはドライブだ。初デートっぽいだろ?」
サングラスの中の目は、細くなっているだろうか。魅力的な唇の右端をつっと上げにやりと笑う。また胸の奥で熱い何かがキュンと鳴った。
享祐さんの車は黒の欧州車。スタイリッシュなスポーツカーだ。マンションの駐車場で見かけたことがある。彼にピッタリの攻撃的な車だった。
僕は車を持ってない。住む所で無理してるんだから、車なんて手が出せないよ。
――――わあ、車高低っ。腰痛くないかな。
夜だからさすがにサングラスは外してる。横顔を盗み見ると長い睫毛が色っぽい。僕はそっとため息を吐いた。
緩やかなジャズが流れる車内。他愛のない話をしながら、車は高速に入った。テールランプが川のよう。ふと途切れる会話に、僕は不安になった。
――――でも、どうして僕を誘ったんだろうか。疲れてるだろうに。
はっ、まさか。僕はそこでハタと気が付いた。
僕の演技がまだまだなんだ。今はまだ二人の関係は始まったばかりだから、ぎこちなくてもおかしくない。
でも、これから駿矢と相馬はどんどん深みにはまっていく。駿矢も最初はパトロンみたいに考えていたのが、本気で好きになって溺れていくんだよ。
――――今の僕では、満足いく演技が出来ないと思ってるんだ。
僕の緊張を解くため、オファーがあった後すぐに訪ねて、脚本が上がった後も……。
――――予行練習したのも心配だったからだー!
僕は心の中で頭を抱え、パニックに陥った。僕の演技、そんなにマズイんだろうか。監督は何も言わないけど、もしかしたら享祐さんには愚痴っているのかもっ。
――――どうしようーっ。僕のせいでドラマが不発に終わったらっ!
「おい、伊織、どうした?」
自分でも気付かず、頭を振り回してしまった。いつの間にか高速を降りていて、心配そうな声が降ってきたのは、信号待ちの瞬間だった。
「すみません。何でもないです」
「そう? ならいいけど。さあ、もう着くぞ」
「はい」
もやもやとしたものを抱えながら僕は応じた。
やがて黒のスポーツカーは目的地に着いたのかわき道へと入っていく。樹々の中をしばらく進むと駐車場らしきものが見え、黒い塊は、その姿に似合わず静かに停められた。
「ここは?」
どこだろう。しばらくはカーブを曲がりながら山道を登っていた。車から降りて夜空を見上げると、満天の星が美しい。
「綺麗だ」
「だろ? 夜景もいいけど、星もいいよな」
ため息のように呟く僕の背後、享祐さんが近寄ってくる。
「行こう。部屋、取ってあるから」
「え……へ、へや?」
さっと肩に手を回された。駐車場は店の下に作られているので、階段の上にお店があるのはわかる。でも看板もないし、何が待ってるのか全く分からない。
――――ま、まさかラブホ?
こんな寂しい場所にそんなものがあるはずない。でもそんな冷静な判断は出来なかった。
肩を押されながら階段を昇る僕の心臓は、今にも胸を突き破ってきそうだった。
黒のサングラスもかけてるので顔はよく確認できないけど、オーラが半端ない。大体スタイル良すぎるよ。
「待った?」
「いえ、僕も今来たところで」
僕はシャンプーハットみたいな帽子にトレーナーにデニム。役柄とほとんど変わらない。駿矢は僕に近い設定だから仕方ない。
相馬亮はいいとこのお坊ちゃまで跡取り。僕はコンビニでバイトする売れないモデルなんだよ。まあ共感するところは多いから演じやすい。
「じゃ、行こう」
「あの、どこ行くんですか?」
さっさとドアの方に行こうとする彼の背後で僕は尋ねた。
「俺に任せて。車で来てるんだ。まずはドライブだ。初デートっぽいだろ?」
サングラスの中の目は、細くなっているだろうか。魅力的な唇の右端をつっと上げにやりと笑う。また胸の奥で熱い何かがキュンと鳴った。
享祐さんの車は黒の欧州車。スタイリッシュなスポーツカーだ。マンションの駐車場で見かけたことがある。彼にピッタリの攻撃的な車だった。
僕は車を持ってない。住む所で無理してるんだから、車なんて手が出せないよ。
――――わあ、車高低っ。腰痛くないかな。
夜だからさすがにサングラスは外してる。横顔を盗み見ると長い睫毛が色っぽい。僕はそっとため息を吐いた。
緩やかなジャズが流れる車内。他愛のない話をしながら、車は高速に入った。テールランプが川のよう。ふと途切れる会話に、僕は不安になった。
――――でも、どうして僕を誘ったんだろうか。疲れてるだろうに。
はっ、まさか。僕はそこでハタと気が付いた。
僕の演技がまだまだなんだ。今はまだ二人の関係は始まったばかりだから、ぎこちなくてもおかしくない。
でも、これから駿矢と相馬はどんどん深みにはまっていく。駿矢も最初はパトロンみたいに考えていたのが、本気で好きになって溺れていくんだよ。
――――今の僕では、満足いく演技が出来ないと思ってるんだ。
僕の緊張を解くため、オファーがあった後すぐに訪ねて、脚本が上がった後も……。
――――予行練習したのも心配だったからだー!
僕は心の中で頭を抱え、パニックに陥った。僕の演技、そんなにマズイんだろうか。監督は何も言わないけど、もしかしたら享祐さんには愚痴っているのかもっ。
――――どうしようーっ。僕のせいでドラマが不発に終わったらっ!
「おい、伊織、どうした?」
自分でも気付かず、頭を振り回してしまった。いつの間にか高速を降りていて、心配そうな声が降ってきたのは、信号待ちの瞬間だった。
「すみません。何でもないです」
「そう? ならいいけど。さあ、もう着くぞ」
「はい」
もやもやとしたものを抱えながら僕は応じた。
やがて黒のスポーツカーは目的地に着いたのかわき道へと入っていく。樹々の中をしばらく進むと駐車場らしきものが見え、黒い塊は、その姿に似合わず静かに停められた。
「ここは?」
どこだろう。しばらくはカーブを曲がりながら山道を登っていた。車から降りて夜空を見上げると、満天の星が美しい。
「綺麗だ」
「だろ? 夜景もいいけど、星もいいよな」
ため息のように呟く僕の背後、享祐さんが近寄ってくる。
「行こう。部屋、取ってあるから」
「え……へ、へや?」
さっと肩に手を回された。駐車場は店の下に作られているので、階段の上にお店があるのはわかる。でも看板もないし、何が待ってるのか全く分からない。
――――ま、まさかラブホ?
こんな寂しい場所にそんなものがあるはずない。でもそんな冷静な判断は出来なかった。
肩を押されながら階段を昇る僕の心臓は、今にも胸を突き破ってきそうだった。
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