【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
41 / 82

TAKE 33 嘘つき

しおりを挟む

「電話で焦ってしまってすみませんでした。社長に怒られちゃいました。おまえが慌ててどうするって」

 車で迎えに来てくれた東さんがハンドルを取りながら口を忙しく動かす。言葉とは裏腹に、まだ落ち着いてないのが手に取るようだ。

 地下の駐車場から事務所の車に乗って出ると、確かに芸能記者らしい人たちが数人いた。なかには普通の女性ファンっぽい人もいる。多分どちらも享祐目当てなんだろうな。

 幸い後部座席に低い姿勢で座っていたからか、普通のHV車だったからか、注目得る前に通り抜けることが出来た。

 ――――享祐は大丈夫だったかな。ベテランの青木さんがいるから上手くやると思うけど。

「こんなこと初めてで。でも、社長はこれをうまく利用すれば、視聴者数がまた上がるって言うんです。だから狼狽えるなって。確かにそうですよね」

 東さんはマネージャーになって3年目。僕が初めてついた俳優なんだ。年齢は僕より上だけど、この世界ではまだ若い方。
 こういうスキャンダル? 対応は慣れてなくても仕方ない。かく言う僕も、狼狽えた。

「そう……なのかな。社長が言うなら平気かな」
「平気ですよ。第一、何も悪いことしてないんですよ? 深夜まで一緒にお酒飲んでたって、二人とも成人なんだし」

 確かにそうだ。実際は、お酒飲んでただけじゃないけど。

 ――――それでも……悪いこと、間違ったことはしてない。だから……。

 隠さなくてもいいんだよ。本当は。でも、そうはいかないよね。

「越前さんの事務所から何か言われてない?」

 こんな記事を出されて、怒ってんじゃないかな。僕は東さんの言葉を待った。

「ああ。青木さんから謝罪されました」
「謝罪?」
「はい。迂闊な写真を撮られてしまって申し訳ないって。いくら親しい間柄でも、バスローブでウロウロしては誤解を生むって」
「ああ……」

 さすが青木さん。真っ当なご意見を……。享祐も同じ様なこと言ってたな。だから、今後は隙を見せてはいけないんだ。きっと。

「そんなこと。まさかホテルの廊下にいるなんて誰も思わないから……」

 僕は俯いて、小さくため息をついた。

「越前さんは……伊織さんのこと高く評価されてるから……きっとご自身でも『しまった』と思われてるんじゃないですかね」

 今度は随分と落ち着いた声になっている。どこか、探るような口ぶりだ。

「高く評価……。そうだね。仲良くしてもらって勿体ないほどだよ。あの夜も、越前さんが翌日のシーンで思い付いたことがあるって寄ってくれただけなんだ。つい話し込んで、遅くなってしまって」

 僕はつかなくてもいい嘘を並べる。それを東さんが求めている気がして。
 バックミラー越しに彼が僕をちらちらと見ている。僕は大げさにため息をついた。

「酔っ払って、僕はソファーで寝ちゃってさ。越前さんも多分寝てたんだと思うよ。だから、彼がいつ帰ったか知らないんだ」

 嘘と本当のことを織り交ぜて話す。バックミラーにはわざとらしく口角を上げる東さんがいた。

「大丈夫ですよ。お二人の気が合うのは願ったりなんです。だからドラマも凄く感動的だし。今回のこと、誰も非難してません。社長の言うとおり、乗っかればいいんですよっ」

 努めて明るく東さんが言った。それは多分本心だろう。たとえ僕がここでカミングアウトしたところで、それも無視するつもりだったはずだ。
 そんなこと、大事なことじゃない。彼らにとっては。

 ――――だけど、僕には大切なことなんだ。嘘なんか……つきたくない。



 その日は1日中、メンズ雑誌の写真撮りだった。
 カメラ目線でいくら微笑んでも、心のなかには黒いしこりがずっと居座って退くことはなかった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...