【完結】嘘はBLの始まり

紫紺

文字の大きさ
42 / 82

TAKE 34 スキャンダル俳優

しおりを挟む

 現場がもっとピリピリしてるかと思ったら、全くそんなことはなくて、いつも以上に監督の機嫌は良かった。拍子抜けと言ってしまうのは不謹慎かな。

「ごめんなさいね。三條さん。驚いたでしょう?」

 享祐と話すまえに、つかつかと青木さんが僕のところへやってきた。言葉も態度も恐縮しているようだけど、表情は冷たく感じた。思い過ごしだろうか。

「いえ、僕の方は全くなんてことなくて……」

 昨日の撮影でも、全くその話は出なかった。みんな、あれがポッと出たガセネタだと思っているようだった。

「でも用心しないと、今後ゲイの相手役ばかりが来たら困るでしょう?」
「え? あ、はい……でも、どんな役でも僕は有難いです」

 色がついては困る。というのはあるかもだけど、僕にとって、それはまだ先の話だ。とにかく何でもやらせてもらう。それが現実だ。

「だからって、スキャンダル俳優になってはダメよ。貴方はウチの越前も気に入ってるんだから、自重してください」

 事務的な様子で言われてしまった。もしかしたら、青木さんは気付いているのかも。だから、僕に釘を刺しているのか。ホントのことを言いたくなったりしないように。

「何やってんだよ。青木、よそ様のスターに余計なこと言うなよ」

 青木さんにいじめられてるわけではないが、享祐が助け舟を出してくれた。ちょっとホッとする。

「越前君に言っても聞かないから。よそ様のスターだからこそ、迷惑かけられないでしょ」
「ああ? 全く信用無いな。伊織、監督が話あるって」
「え、はい。今行きます」

 僕は青木さんにぴょこんと頭を下げてから、享祐の後を追う。

「悪かったな、伊織。心配性が過ぎるんだよ、青木女史は」
「享祐のこと思って言ってるんだよ。僕のことも気にかけてくれてる」
「ああん? お人よしだな、伊織は。ま、そういうとこも好きだけど」

 後半は声を顰めた。耳が熱くなる。



 監督からは、今回の記事には過敏に反応しなくていいと言われた。
 この記事を逆手に取った方が賢い。という、ウチの社長と同じような意見だ。平然としていた方が、外野が勝手に騒いでくれて話題になると言うのだ。

「ところで、ホントのところはどうなんだい? 越前君がそっち系とは知らなかったが」

 なんて、小鼻をヒクヒクさせながら聞いてきた。完全に楽しんでる。

「それは、もちろん秘密です」

 今度は享祐が右側の口の端を上げ、さらりと応酬した。僕は後ろで苦笑いするのが精一杯。やっぱり、長いことこの世界で頑張ってる人は違うなと思う。

 ――――だからと言って、カミングアウトするのはまた別の問題なんだ。

 あの夜、享祐は僕が作っていた壁をいとも簡単に飛び越えてきてくれた。『役作り』なんて嘘は、もう止めないか。と言って。すぐ近く、手の届くところに享祐は来てくれたんだ。

 ――――だけど今は。また遠くに行ってしまった。そんな気になる。

「よし、第八話、シーン48。準備してっ」

 監督がスタッフ、キャストに声を掛けた。僕は頭を振り、頬をニ、三度叩く。一つ深呼吸をして、見慣れたセットへと足を進ませた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】かわいい彼氏

  *  ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは── ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑) 遥斗と涼真の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから飛べます! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

処理中です...