癒やしを求めて生きてきただけなのだが

見崎志念

文字の大きさ
6 / 6

モコモコ狩りじゃ

しおりを挟む
「なんかずいぶんやる気さなってくれてるな」
「ご主人はモフモフとかモコモコってのが好きなんだ」
 そーだね。我が家には大量のぬいぐるみがいたからね。お前の届かないところに置かないと無残な姿にされるって御主人様も学習したんだよ。
 ひとつ訂正しておくと、俺は生き物全般大好きだからな?モコモコともふもふが特に好きというだけで、ツルツルもザラザラも最高である。

 目標であるモコモコへ向けて、期待感を膨らませつつ全力で道を進む。
 
 太ももほどまで伸びた草をかき分け、わざと邪魔をしているような角度に生えた枝をくぐり、狙ったように置いてあるとがった石を躱しつつ。
「ってなんだこれ! なんでこんな邪魔してくるの!?」
 自然にできたにしては悪意があるポジショニングが多すぎるんですけど!
「ああ、ここら辺はおらたちの狩場だはんで逃げねぇようにいろいろ置いてあるからしかたねぇんだ」
 俺の横で不自由なく進むゴブ助がそんなことを言ってくる。
「いや、だったら先に説明しようか。軽くボロボロだよ俺……」
 
 そこからは、結構順調だ。ゴブ助の案内の元、三分ほど歩き続けた所でゴブ助が身をかがめた。
 ジェスチャーで指示をしてきたので屈んでおく。
「あそこにいるのがモコモコだ」
 押し殺した声で説明して指をさした先にいたのは、筋骨隆々のやたらでかい牛みたいな顔の四足動物だった。

「ああ、ちょっと待とうか、ゴブ助」
「うがっ! 兄ちゃん頭掴まねぇでくれよ」
「いいから。あれが、なんだって?」
「だ、だから、モコモコ……あだだだ!」
「いやいや、おかしいだろー。モコモコだぞ? 名前がモコモコなんだぞ? そりゃ毛むくじゃらのかわいい生き物想像するでしょうが。あれ何!?」
「いや、モコモコ……だって、言ってらんだけど」

 またなんかゴブ助が言ってるけどちょっと今はどうでもいい。
 最も重要なのは俺が思い描いていたモコモコがこの場にいないことだ。

 ふわっとした感触がするであろう純白の毛に包まれた、保護欲をそそる相貌でこちらを見てくる生き物だと思ってはしゃいでたんだよ。

 なんだよあいつ、鼻息で草吹き飛んでるし。体の三分の一くらい顔だし。尋常じゃないくらい筋肉が発達してる。
 毛は確かにモサッとしてなかなか触り心地よさそうだけど。意外と目がクリッとしててかわいい。
 俺の中で完成されていたイメージがなければ、こいつも俺の癒してくれたことだろう。
 しかし、
「なんであれにモコモコなんて名前を付けたんだよ……。変な期待をしちゃったからあいつの癒し成分を心から楽しめないじゃないか……」

「よくわかんねぇけど、そろそろ手ば離してくれねぇがな……」
「ああ、すまん……。取り乱した」
 とりあえず、カーレッジを撫でて落ち着こう。
「ご主人、大丈夫?」
「ありがとうなぁ、カーレッジ。やっぱお前が一番だよー」
 こいつの毛並みやっぱ最高だなぁ……。食事も気にかけるようにしてたけど、こっちの世界だと難しそうだし、せめてブラッシングはしっかりやってやらないとなぁ。
 

「よし、落ち着いた」
「カーレッジには鎮静の加護でもあるんずな?」
 そう不思議そうな顔をするな、ゴブ助よ。そのうちお前も心の安定には癒しが必要なんだと気づくさ。

 じゃあ、まあ、元々の目的を果たすとするかね。
「あのモコモコもとい筋肉牛くんを狩るとしますか」

「キリッとした顔でいるところ申し訳ねぇが、モコモコが移動はじめたんで、追っかけねぇと逃がしちまうんだ」
「あ、はい」

 慣れているであろうゴブ助君についていこう。なったって素人ですから、俺。
 勘違いで手伝いに駆り出されてるだけで、基本的には部屋で癒しコレクションに囲まれて一日中ポワーンってしてるのが幸せな人間なんだよ。
 
 ゴブ助君の後ろを屈みながら歩いていたら、膝のあたりに何やら温かいものが当たる感触。視線を落とせば俺の横にひたっとくっつくカーレッジ。
 歩いてるときにくっつくのは何かしらのサインなんだけど、今の状況で腹が減ったとか頭をなでろと言ってくるようなあほな子ではないはず。何かしてほしいのか?
 あ、喋れるんだから聞けばいいのか。
「どーした?」
「ご主人、大丈夫だよ」
「?」
「カーレッジが、守るから」
 カーレッジは前をまっすぐ見つめたままそういった。
 この顔を見た記憶がある。ただ、相手はカーレッジではなかったけれど。
 強い信念を感じるその顔に、ひどく危なげなものを感じてしまう。
 
 でも、今こいつが欲しい言葉は、心配なんかじゃないだろうから。
「ああ、期待してるぜ。カーレッジ」
「任せて!」
 ああ、任せるよ。お前のご主人はすごく弱いんだからな。

「なぁだち。モコモコが止まった。狙うんだば今だ」
 ゴブ助は武器を構えながら俺らに目線だけを向けてくる。
 こうやって改めて見ると、あえて目をそらして説明せずにいたものを見ると、現実離れしているなぁとか気の抜けた感想しか出てこない。
 
 100センチないようなゴブリンが自分の背よりでかい大斧構えてるんだ。それも何ら苦も無く。
 どこにそんな力があるのかね、ゴブ助君。
 絶対敵にしたくないよ。

「んで、狙うってどうするの?」
「らぁがモコモコば追い込むはんで、ばしっとトドメさしてけ!」
「え、ゴブ助がとどめさす方が確実じゃないか?」
 そんなたいそうな武器持ってんだからゴブ助がやるもんだと思ってたわ。
「そ、そったこどねぇよ! こ、これ使うんだったら貸すから、兄ちゃんがやった方が確実だ!」
 ぶんぶんと斧を振り回すゴブ助だけど、目が泳いでいる。

「それにほら! 獲物追い込む方が大変なんだ! だはんで、らぁがやるって!」
 思うところがないではないけど、追い込み漁に知識がいるってのは納得だ。それに囮であれ追い込みであれ、俺にできるとも思えないからな。
「わかったよ、じゃあ、俺はどこで待ち伏せすればいいの?」
 
「あそこの木の上にいてけ。追い込めば音でわかると思う」
「了解。カーレッジはどうする?」
「そのまま傍にいてければ大丈夫だ。幸いこっちは風下だし、匂いでばれることはねぇど思う」
「わかった」

 ということで初めての木登りを意外と楽に成功させて待機中である。
 俺、木登りの才能があったらしい。ほとんど手間もかからずに上れたわ。都会にいたら気づかない才能だね!
 気づいてもそんなに使える才能じゃないけどね!

「ご主人、来た」
 一緒に木の上に待機していたカーレッジが鼻をひくつかせながら声をかけてきた。
 木が次々倒れていく光景がだんだんこっちに近づいているから見ててわかるんだけどね。

 つうか木をなぎ倒すってどんな力だよあの筋肉牛。あの突撃食らったら確実に死んでるよ。
 ああ、だからあいつ俺にこっち側させたのかな?
 確かに怖いもんなぁ。追ってるってことはあの突撃食らう心配はそんなないだろうし。

「んじゃあ、構えますかね」
 さっき渡された(木の上に本人が置いていった)ゴブ助の斧を持ち――、持ち上げ――。
「やべぇ、重すぎるだろうこれ」
 見た目以上に重量がある。なんだよこれ、なんでこんなん背負ってここまで歩いてこれたんだあいつ。
 何とか角度を変えることには成功したけど、これは持ち上げるとか無理だわ。
 
「ご主人! もうここにくる!」
 だろうね。おそらく筋肉牛の鳴き声だろう重低音が近づいてきているし、地震並みに揺れてるし。

 集中しよう。ここでミスったら確実に死ぬ。
 音がどんどん近づいてくる。
 タイミングは一回。
 音はどんどん近づいてくる。
 やるしかない。死ぬわけにはいかないから。
 目の前の茂みがなぎ倒されて姿が見えた。
 なり振りかまわない全力でこちらに進んでくる。
 まだだ。早すぎたら死ぬ。もう少し引き付けて、斧を手にもって。
 
 飛び降りる!

 ドンピシャだ! 首はこの位置で間違ってないはず。

 内蔵が浮き上がるような気持ち悪い感覚を無理やり抑え込む。
 しっかり柄を握りこむ! 首元へ、落とす! 
 手に響く肉を割る感触。次の瞬間には硬い感触が脳まで響いた。
 うわ、すげえ痛い。
 
 生暖かい感触が全身を包んでいるが、それどころじゃないくらい痛い。
 遠くでなんか声が聞こえるが、目を開ける余裕がない。
 あ、ちょっとこれは、意識が、飛ぶ……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...