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高校1年目
思惑(2)
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その日は、放課後に酷い通り雨が降り出していて、傘を持っていない俺は雨が通り過ぎるのを学校の玄関でスマホを弄りながら待っていた。
そんな時に着信でスマホが鳴り出し、画面に『大島』と表示された名前を見て少し驚いたが、電話に応答すると彼女は話があるので屋上の入り口前の階段踊り場まで来て欲しいと言う事だった。
特に理由も話の内容も聞いていないのに、内心は不安しかなかったのは、俺がこれまでの行いについて思い当たる節が頭の中で渦を巻くように様々と思い出していたからだ。
そして、なんて言われるのか、どのような事を言われるのか、脅されるのでは、そんな思いで足取りは非常に重かったが逃げることは出来ない、逃げたら全てを公の場にさらされる恐れがあるからだ。
俺の不安はこの後、見事に的中することになった。
「登藤君、この写真を見て欲しいんだけど、これは誰だかわかる?」
大島さんはボーリングで遊んでいた時と全く変わらない純粋な笑顔で俺にスマホの画面を見せてきた。
その顔からは全くの悪意が感じられないのだが、見せられたスマホの画面には俺が変装して依頼された通りに女性に声を掛けている姿だった。
俺は心臓に指先で押されているような何とも言えない圧力、大島さんがちょっと力を入れたら爪が刺さり出血死する恐れがあるような危うさに俺は黙って話を聞くしかなかった。
「これ、登藤君でしょ?変装して髪型やマスクで人相を変えているけど、身長とか顔の輪郭ですぐにわかったよ。でも、こんな事してて良いのかな?」
大島さんは全く顔色を変えずにいつも通り笑顔で問いかけてきたのが、阿部とは異なった不気味さを俺は感じていた。
普通の人とは全く違う反応、スマホに表示された内容について、彼女自身は全く嫌悪している訳ではなく、困っていたところに幸運にも欲しかったものを見つけたようなそんな感じだった。
「私は別に登藤君が何していようと、これを公のする気はないよ。でも私も困っていることがあってね。私の御願いを聞いてくれないかな。」
俺にはこの脅迫を受け入れる事しか出来ないので、無言で頷くことにした。
彼女が嬉しそうに御願いについて話し始めたが、俺はその顔から眼を逸らすことが出来なかったのは、彼女から滲み出る何か底知れない黒い部分だった。
「私の彼氏が瞳の事が気になるみたいなの、だから、登藤君の悪いお友達に瞳を引っかけて欲しいんだ。そうすれば、彼も瞳から興味が無くなると思うの、別に悪い話じゃないでしょ?」
彼女は自分が何を言っているのか理解しているのかわかっているのか怖くなるほど、表情を崩さないまま笑顔で俺に御願いしてきた。
大島さんと斑目さんは俺が知っている限り仲の良い友人で、穏やかではない御願いに俺は驚いていた。
「斑目さんは、その友達じゃないのか?そんなことして何とも思わないのか。」
「瞳は友達だよ、でも、私には彼が一番なの。瞳には悪いけど運悪く野犬に嚙まれたと思って、別に命までは取られる訳じゃないでしょ?瞳も傷つくかも知れないけど、そこは私が立ち直れるように友達として支えてあげれば良いと思うの。」
彼女から発せられる声のトーンや表情に全くの悪意が感じられないのが、不気味で思想が歪んでいるとしか思えないのと、俺はこんな人に弱みを握られたことに軽い眩暈がしてきた。
「じゃあ、後は宜しく、これから彼氏に会いに行ってくるから、何か決まったら連絡頂戴ね。」
彼女はそう言いながら俺の残して階段を降りていくのを見送ると、俺はスマホですぐさま阿部にメッセージを入れた。
阿部からの返信は”バイト後にいつものところで待っている”と短くもわかりやすい内容だった。
いつものラーメン屋で阿部と合流すると大島さんのことについて話をした。
化け物には化け物をぶつけるのが一番だと思った俺は、阿部に大島さんが俺達を脅迫していることを大袈裟に強調して話をしていた。
阿部は俺の話を黙って全部聞きながら唇を舌で舐めながら何か考えていたが、俺が話し終わる頃にはどうやら考えが固まったようだった。
「大島さんに、弱みを握られるのは良くないですね。斑目さんも場合によっては犠牲にしなくてはなりません。でも、良い方法が解決策が全く無い訳ではありません。」
俺は阿部に対して初めて敬愛の念を抱いた。
「まず、既成事実を作りましょう。今週中に登藤は斑目さんに恋人として付き合って欲しいと告白してください。」
俺は阿部に対して抱いていた敬愛が一瞬で消え去った。
「そんな顔しないで下さい、大島さんが気にしているのは彼氏の興味が斑目さんに向いていることです。なら、登藤が斑目さんの彼氏になれば万事解決です。それでなくても、登藤が告白したと言う事実があれば多少は時間稼ぎは出来そうですね。」
阿部が言いたいことはわかっているが、俺の中の何かがそれはいけないと警告を出していて、思考が止まっていた。
今の状況を考えれば、何もしないでいると大島さんは俺の秘密を公の場に出してしまうのは時間の問題で、藁にもすがる思いで阿部の提案を掴みたいところなのだが、藁を掴むのを躊躇しているのだ。
そんな俺の手を掴んで藁を握らせる様に阿部は助かる方法を提示してきた。
「時間を稼いでくれれば彼女に握られた弱みを何とかする方法を用意出来るかもしれません。考えてみてください、こんな悪いことをしている人は何かしら秘密を二つが三つあるはずです。こちらも弱みを握れば、それが抑止力として機能して、この問題も収束します。」
俺が掌にある藁を握れば助かるかも知れないと言うのに、その藁をすぐには握られなかった。
俺はこの後の話は、あまり頭に入って来なかったのだ。
俺は斑目さんを利用して阿部から有利な交渉を引き出そうとしていたのは確かだが、恋愛感情利用して騙すのような事はしないと無意識に思っていたのかもしれない。
それは純粋に俺が山城さんが好きだと言う思いに対しての、恐らく自尊心や誇りに近いものだと気がついたのは事が終わった後だった。
俺は大島さんに弱みを握られていて、それがもしかしたら明日にもばらされると言う不安を二日間しか我慢できなかった。
精神的に追い詰められていていた俺は決心を決めて、斑目さんに付き合って欲しいと告白する事を阿部に言うと、声色からわかるほど面白がっていた。
「いやぁ、良かったです。ではサクッと告白して来てください。罰ゲームだと思ってさらっと流せば何とかなりますよ。」
この場合、罰ゲームなのは斑目さんだろうと思いつつも、やるべきことをやる為に斑目さんを放課後、屋上入口前の踊り場に呼び出した。
俺は心臓を触れているような不安から逃げる為に、あの幻視が見えなくなることを怖れて人も騙す事も躊躇しなかった。
事情を知らない斑目さんは急に呼ばれたこともあって、機嫌が良くないのが見た感じでわかった。
「用事って何?今日は部活で忙しいから手短にお願い。」
その言葉通り、手短に直球で俺は告白をした。
「俺は君が好き、だから、付き合って下さい。」
その言葉に彼女は眉一つ動かくすことは無かったが、数秒間の静寂後に彼女は返事は全く良いのもではなかった。
「ごめんなさい、私は貴方ような人は恋人として見れないわ。」
俺の不安が心臓をまるで指で押さてつぶされそうになる、その苦しみから逃げる為にどうしてもここで引き下がるわけにはいかない。
「今はそれでも良い!君が恋人として見れるような人間になる。だから、俺を見ていて欲しい。」
咄嗟に出たこの言葉が彼女の心の端をかすめたのか、彼女は顔を逸らしていた。
「私、忙しいからもう戻るから。」
そう言うと彼女はその場を逃げるように急ぎ足で立ち去る後ろ姿を無心で眺めていた。
悲しくもなく、恥ずかしくもなく、何とも言えない虚しさが残った。
そのまま阿部といつものラーメン屋で合流すると、阿部は俺から一通り事情を聞くなり、何の確証があるのかわからないが自信満々にこう言った。
「まあ、これで規制事実は出来ました。後は私に任せてくれれば万事上手く行きますよ。」
阿部がこういう風な言い回しをするときはなんだかんだで、事が上手くいく事で俺の中では定評があった。
しかし、このなんだかんだと言う部分は問題であることが多い事も、定評であった。
「今回の件は大島さんに話したいと思います。」
阿部にも何か考えがあると俺は黙って阿部の話を聞いた。
「大島さんは彼氏が斑目さんに近づかないようにすればいいのであれば、大島さんにも登藤と斑目さんとの関係を明かして協力するのが良いじゃないかと私は思います。この話は登藤から大島さんに話をすると変に疑われるわけなので、私が大島さんに内緒で話をします。もちろん、大島さんが登藤に揺すりを掛けていることを知らない振りをしてです。」
ここで問題になるのは、大島さんが求めている最終結果である大島さんの彼氏が斑目さんを諦めただろう理由を作る事が出来るが、そこまでに至る過程が違う事については大島さんがどう思うかに言うところで、もし彼女が気に入らなければ何もかもが終ってしまうのだ。
「まぁまぁ、そこは私を信用して任せて頂きたいですね。」
俺はもう阿部に全てを任せて、上手くいくことを願いながらその日は阿部と別れた。
それから毎日、阿部に大島さんとの話について、どうなったか連絡をしているのだが、曖昧な返事しか返ってこないことに苛立っていた。
ここ数日で起こった大島さんに揺すられ、斑目さんには告白をすることになり、山城さんに対して罪悪感、稼ぎが少ないことに対する不安、そんな思いが心身に負荷をかけているせいか山城さんに心配させてしまっていた。
「登藤君、その、体調が悪そうですが大丈夫ですか?」
いつもの図書室で彼女にそう聞かれた時は、その場で空元気に大丈夫だと答えていたが正直、調子は全然良くない事はわかっていた。
とは言え、俺が出来ることはないことも十分理解しているし、変に動けば自分の首が締まるかも知れないこともわかっていたので、阿部から朗報が来ることを待ち続けるしかなかった。
それから更に三日後に阿部は俺をいつものラーメン屋に呼び出すと、阿部から大島さんとやり取りについてどうなったか話をされた。
「大島さんとの件、上手く行きましたよ。それと私が独自で調べていたところ、大島さんの秘密も握りましたから、これで登藤も安泰でしょうね。」
阿部はラーメンを啜りながら片手でスマホを弄り、俺のスマホに一枚の写真を送ってきた、その一枚の写真が大島さんの急所であることは見た瞬間にわかった。
その写真は彼女とある男性がホテルに入る瞬間を抑えていて、この男性が大島さんが話にでてくる彼氏だろうと察しがついた。
それもこの男に俺は会ったことがあり、美術部と生徒会を顧問をやっている武田先生だとすぐにわかった。
こんなものが世間に広まったら、武田先生はロクに外は歩けなくなるのだから、彼が好意をもっている大島さんとしては何としても世間には広ませたがらないだろう。
「武田先生と彼女がどういう関係なのか、まぁ、どうでも良い事なのですが、教員が生徒に手を出すことはどんな理由があると世間は許さないでしょうね。」
俺は軽蔑的な思いが過るかと思うとそうでもなかったのは、俺も武田先生と同じで誰かを騙しているからだろうか。
阿部は旨そうにラーメンを啜っているが、俺は手が止まってしまっていたのは、別にラーメンが不味い訳じゃなくいつもと何か違う違和感で手が止まっていた。
何よりもこれで俺の心配事が無くなると思っていたのに、胸がざわつく様な不安が漂っていた。
「どうしたんですか、食べないんですか?」
俺はその言葉に反応して、箸で麺を口に運んでいたが違和感が何なのか考えていたが、それを知らない阿部はこれからの事を話し始めていた。
「このネタを使って、大島さんに条件を付けて話しましょう。一つはお互い秘密を明かさない事、二つ目は登藤と斑目さんの中を取り持ってもらう様にして貰うのが一番でしょうね。大島さんも協力した方が利点があるんですから、断わらないでしょう。」
阿部は俺の顔で何か察したらしく、一回大きくため息を着くとこう言った。
「景気が悪い顔しないで下さい、こっちの運気まで吸い取られそうです。」
阿部がそう言ってくると言う事は、相当顔に出ているのだろう。
阿部にはわからないだろうが、毎日、色々と頭で考えては悩んでいたら気が滅入ってしまうのは当然でかも知れないが、阿部のように賢く生きる事が出来いれば苦労はしないと言ってやろうと思ったが、喉元あたりで言葉が止まっていた。
「登藤に私から一つ助言をしましょう。一度起こったことはやり直しは聞かないのです。どうせ登藤のことだから、山城さんと斑目さんに対しての不義な行動に罪悪感を感じているんでしょうが、もう起こってしまった事は受け入れてこれからどうするか考えるべきだと思いますよ。」
阿部のその言葉には頭では納得しているが、内心は受け入れがたいと言う思いを抱えていたのは俺自身が良くわかっていた。
しかし、状況に選択肢がなく、目の前にある伸びきったラーメンと同じで我慢して受け入れるしかなかった。
その後は阿部と別れて、家にベットに上で大島さんにスマホで、“明日、会って話がしたい”と言う旨をメッセージを送るとそのまま寝た。
そんな時に着信でスマホが鳴り出し、画面に『大島』と表示された名前を見て少し驚いたが、電話に応答すると彼女は話があるので屋上の入り口前の階段踊り場まで来て欲しいと言う事だった。
特に理由も話の内容も聞いていないのに、内心は不安しかなかったのは、俺がこれまでの行いについて思い当たる節が頭の中で渦を巻くように様々と思い出していたからだ。
そして、なんて言われるのか、どのような事を言われるのか、脅されるのでは、そんな思いで足取りは非常に重かったが逃げることは出来ない、逃げたら全てを公の場にさらされる恐れがあるからだ。
俺の不安はこの後、見事に的中することになった。
「登藤君、この写真を見て欲しいんだけど、これは誰だかわかる?」
大島さんはボーリングで遊んでいた時と全く変わらない純粋な笑顔で俺にスマホの画面を見せてきた。
その顔からは全くの悪意が感じられないのだが、見せられたスマホの画面には俺が変装して依頼された通りに女性に声を掛けている姿だった。
俺は心臓に指先で押されているような何とも言えない圧力、大島さんがちょっと力を入れたら爪が刺さり出血死する恐れがあるような危うさに俺は黙って話を聞くしかなかった。
「これ、登藤君でしょ?変装して髪型やマスクで人相を変えているけど、身長とか顔の輪郭ですぐにわかったよ。でも、こんな事してて良いのかな?」
大島さんは全く顔色を変えずにいつも通り笑顔で問いかけてきたのが、阿部とは異なった不気味さを俺は感じていた。
普通の人とは全く違う反応、スマホに表示された内容について、彼女自身は全く嫌悪している訳ではなく、困っていたところに幸運にも欲しかったものを見つけたようなそんな感じだった。
「私は別に登藤君が何していようと、これを公のする気はないよ。でも私も困っていることがあってね。私の御願いを聞いてくれないかな。」
俺にはこの脅迫を受け入れる事しか出来ないので、無言で頷くことにした。
彼女が嬉しそうに御願いについて話し始めたが、俺はその顔から眼を逸らすことが出来なかったのは、彼女から滲み出る何か底知れない黒い部分だった。
「私の彼氏が瞳の事が気になるみたいなの、だから、登藤君の悪いお友達に瞳を引っかけて欲しいんだ。そうすれば、彼も瞳から興味が無くなると思うの、別に悪い話じゃないでしょ?」
彼女は自分が何を言っているのか理解しているのかわかっているのか怖くなるほど、表情を崩さないまま笑顔で俺に御願いしてきた。
大島さんと斑目さんは俺が知っている限り仲の良い友人で、穏やかではない御願いに俺は驚いていた。
「斑目さんは、その友達じゃないのか?そんなことして何とも思わないのか。」
「瞳は友達だよ、でも、私には彼が一番なの。瞳には悪いけど運悪く野犬に嚙まれたと思って、別に命までは取られる訳じゃないでしょ?瞳も傷つくかも知れないけど、そこは私が立ち直れるように友達として支えてあげれば良いと思うの。」
彼女から発せられる声のトーンや表情に全くの悪意が感じられないのが、不気味で思想が歪んでいるとしか思えないのと、俺はこんな人に弱みを握られたことに軽い眩暈がしてきた。
「じゃあ、後は宜しく、これから彼氏に会いに行ってくるから、何か決まったら連絡頂戴ね。」
彼女はそう言いながら俺の残して階段を降りていくのを見送ると、俺はスマホですぐさま阿部にメッセージを入れた。
阿部からの返信は”バイト後にいつものところで待っている”と短くもわかりやすい内容だった。
いつものラーメン屋で阿部と合流すると大島さんのことについて話をした。
化け物には化け物をぶつけるのが一番だと思った俺は、阿部に大島さんが俺達を脅迫していることを大袈裟に強調して話をしていた。
阿部は俺の話を黙って全部聞きながら唇を舌で舐めながら何か考えていたが、俺が話し終わる頃にはどうやら考えが固まったようだった。
「大島さんに、弱みを握られるのは良くないですね。斑目さんも場合によっては犠牲にしなくてはなりません。でも、良い方法が解決策が全く無い訳ではありません。」
俺は阿部に対して初めて敬愛の念を抱いた。
「まず、既成事実を作りましょう。今週中に登藤は斑目さんに恋人として付き合って欲しいと告白してください。」
俺は阿部に対して抱いていた敬愛が一瞬で消え去った。
「そんな顔しないで下さい、大島さんが気にしているのは彼氏の興味が斑目さんに向いていることです。なら、登藤が斑目さんの彼氏になれば万事解決です。それでなくても、登藤が告白したと言う事実があれば多少は時間稼ぎは出来そうですね。」
阿部が言いたいことはわかっているが、俺の中の何かがそれはいけないと警告を出していて、思考が止まっていた。
今の状況を考えれば、何もしないでいると大島さんは俺の秘密を公の場に出してしまうのは時間の問題で、藁にもすがる思いで阿部の提案を掴みたいところなのだが、藁を掴むのを躊躇しているのだ。
そんな俺の手を掴んで藁を握らせる様に阿部は助かる方法を提示してきた。
「時間を稼いでくれれば彼女に握られた弱みを何とかする方法を用意出来るかもしれません。考えてみてください、こんな悪いことをしている人は何かしら秘密を二つが三つあるはずです。こちらも弱みを握れば、それが抑止力として機能して、この問題も収束します。」
俺が掌にある藁を握れば助かるかも知れないと言うのに、その藁をすぐには握られなかった。
俺はこの後の話は、あまり頭に入って来なかったのだ。
俺は斑目さんを利用して阿部から有利な交渉を引き出そうとしていたのは確かだが、恋愛感情利用して騙すのような事はしないと無意識に思っていたのかもしれない。
それは純粋に俺が山城さんが好きだと言う思いに対しての、恐らく自尊心や誇りに近いものだと気がついたのは事が終わった後だった。
俺は大島さんに弱みを握られていて、それがもしかしたら明日にもばらされると言う不安を二日間しか我慢できなかった。
精神的に追い詰められていていた俺は決心を決めて、斑目さんに付き合って欲しいと告白する事を阿部に言うと、声色からわかるほど面白がっていた。
「いやぁ、良かったです。ではサクッと告白して来てください。罰ゲームだと思ってさらっと流せば何とかなりますよ。」
この場合、罰ゲームなのは斑目さんだろうと思いつつも、やるべきことをやる為に斑目さんを放課後、屋上入口前の踊り場に呼び出した。
俺は心臓を触れているような不安から逃げる為に、あの幻視が見えなくなることを怖れて人も騙す事も躊躇しなかった。
事情を知らない斑目さんは急に呼ばれたこともあって、機嫌が良くないのが見た感じでわかった。
「用事って何?今日は部活で忙しいから手短にお願い。」
その言葉通り、手短に直球で俺は告白をした。
「俺は君が好き、だから、付き合って下さい。」
その言葉に彼女は眉一つ動かくすことは無かったが、数秒間の静寂後に彼女は返事は全く良いのもではなかった。
「ごめんなさい、私は貴方ような人は恋人として見れないわ。」
俺の不安が心臓をまるで指で押さてつぶされそうになる、その苦しみから逃げる為にどうしてもここで引き下がるわけにはいかない。
「今はそれでも良い!君が恋人として見れるような人間になる。だから、俺を見ていて欲しい。」
咄嗟に出たこの言葉が彼女の心の端をかすめたのか、彼女は顔を逸らしていた。
「私、忙しいからもう戻るから。」
そう言うと彼女はその場を逃げるように急ぎ足で立ち去る後ろ姿を無心で眺めていた。
悲しくもなく、恥ずかしくもなく、何とも言えない虚しさが残った。
そのまま阿部といつものラーメン屋で合流すると、阿部は俺から一通り事情を聞くなり、何の確証があるのかわからないが自信満々にこう言った。
「まあ、これで規制事実は出来ました。後は私に任せてくれれば万事上手く行きますよ。」
阿部がこういう風な言い回しをするときはなんだかんだで、事が上手くいく事で俺の中では定評があった。
しかし、このなんだかんだと言う部分は問題であることが多い事も、定評であった。
「今回の件は大島さんに話したいと思います。」
阿部にも何か考えがあると俺は黙って阿部の話を聞いた。
「大島さんは彼氏が斑目さんに近づかないようにすればいいのであれば、大島さんにも登藤と斑目さんとの関係を明かして協力するのが良いじゃないかと私は思います。この話は登藤から大島さんに話をすると変に疑われるわけなので、私が大島さんに内緒で話をします。もちろん、大島さんが登藤に揺すりを掛けていることを知らない振りをしてです。」
ここで問題になるのは、大島さんが求めている最終結果である大島さんの彼氏が斑目さんを諦めただろう理由を作る事が出来るが、そこまでに至る過程が違う事については大島さんがどう思うかに言うところで、もし彼女が気に入らなければ何もかもが終ってしまうのだ。
「まぁまぁ、そこは私を信用して任せて頂きたいですね。」
俺はもう阿部に全てを任せて、上手くいくことを願いながらその日は阿部と別れた。
それから毎日、阿部に大島さんとの話について、どうなったか連絡をしているのだが、曖昧な返事しか返ってこないことに苛立っていた。
ここ数日で起こった大島さんに揺すられ、斑目さんには告白をすることになり、山城さんに対して罪悪感、稼ぎが少ないことに対する不安、そんな思いが心身に負荷をかけているせいか山城さんに心配させてしまっていた。
「登藤君、その、体調が悪そうですが大丈夫ですか?」
いつもの図書室で彼女にそう聞かれた時は、その場で空元気に大丈夫だと答えていたが正直、調子は全然良くない事はわかっていた。
とは言え、俺が出来ることはないことも十分理解しているし、変に動けば自分の首が締まるかも知れないこともわかっていたので、阿部から朗報が来ることを待ち続けるしかなかった。
それから更に三日後に阿部は俺をいつものラーメン屋に呼び出すと、阿部から大島さんとやり取りについてどうなったか話をされた。
「大島さんとの件、上手く行きましたよ。それと私が独自で調べていたところ、大島さんの秘密も握りましたから、これで登藤も安泰でしょうね。」
阿部はラーメンを啜りながら片手でスマホを弄り、俺のスマホに一枚の写真を送ってきた、その一枚の写真が大島さんの急所であることは見た瞬間にわかった。
その写真は彼女とある男性がホテルに入る瞬間を抑えていて、この男性が大島さんが話にでてくる彼氏だろうと察しがついた。
それもこの男に俺は会ったことがあり、美術部と生徒会を顧問をやっている武田先生だとすぐにわかった。
こんなものが世間に広まったら、武田先生はロクに外は歩けなくなるのだから、彼が好意をもっている大島さんとしては何としても世間には広ませたがらないだろう。
「武田先生と彼女がどういう関係なのか、まぁ、どうでも良い事なのですが、教員が生徒に手を出すことはどんな理由があると世間は許さないでしょうね。」
俺は軽蔑的な思いが過るかと思うとそうでもなかったのは、俺も武田先生と同じで誰かを騙しているからだろうか。
阿部は旨そうにラーメンを啜っているが、俺は手が止まってしまっていたのは、別にラーメンが不味い訳じゃなくいつもと何か違う違和感で手が止まっていた。
何よりもこれで俺の心配事が無くなると思っていたのに、胸がざわつく様な不安が漂っていた。
「どうしたんですか、食べないんですか?」
俺はその言葉に反応して、箸で麺を口に運んでいたが違和感が何なのか考えていたが、それを知らない阿部はこれからの事を話し始めていた。
「このネタを使って、大島さんに条件を付けて話しましょう。一つはお互い秘密を明かさない事、二つ目は登藤と斑目さんの中を取り持ってもらう様にして貰うのが一番でしょうね。大島さんも協力した方が利点があるんですから、断わらないでしょう。」
阿部は俺の顔で何か察したらしく、一回大きくため息を着くとこう言った。
「景気が悪い顔しないで下さい、こっちの運気まで吸い取られそうです。」
阿部がそう言ってくると言う事は、相当顔に出ているのだろう。
阿部にはわからないだろうが、毎日、色々と頭で考えては悩んでいたら気が滅入ってしまうのは当然でかも知れないが、阿部のように賢く生きる事が出来いれば苦労はしないと言ってやろうと思ったが、喉元あたりで言葉が止まっていた。
「登藤に私から一つ助言をしましょう。一度起こったことはやり直しは聞かないのです。どうせ登藤のことだから、山城さんと斑目さんに対しての不義な行動に罪悪感を感じているんでしょうが、もう起こってしまった事は受け入れてこれからどうするか考えるべきだと思いますよ。」
阿部のその言葉には頭では納得しているが、内心は受け入れがたいと言う思いを抱えていたのは俺自身が良くわかっていた。
しかし、状況に選択肢がなく、目の前にある伸びきったラーメンと同じで我慢して受け入れるしかなかった。
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