花護り~天地には離れない二人~

桐夜 白

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第一花 二人の出会い

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「優しい歌声だな」
 
 
オランジュがそう言い、頬杖をついて二人を眺める。

赤のカトレアはきっとグラドールを、白いカトレアはレディノーラを例えているのだろうか
この歌には、どんな意味が込められているのだろうか?
ふと、興味が湧いてしまう。

オランジュがそう想い口を開こうとしたら、手を二拍手、柏手のように打つ音が聞こえた。
三人がソチラに目をやる。
ソコには険しそうではあるが優しい声色の女官が立っていた。
 
 
 
「さぁ、レディノーラ姫様、お着換えの時間ですよ。
ジャバラフスマの裏にお入りください。
本日の御召し物はこちらでございます」

「ばあや!
今行く!」
 
 
 
「なぁ、なんで双子なのに違う服を着てるんだ?
双子コーデとかしないのか?」

「ちょっと理由があってね」
「レディノーラのこと?」
「…え?」
「いや、アイツほっそいからフスマの裏で饅頭でも食わされながら着替えてんのかなって」

「っぷ、あはははははは!」

「えっ?!どうしたのお姉ちゃん!」

「レティーがフスマ裏で着替えながら饅頭食べさせられてるんじゃないか、ってオランジュが言い出したの!
はー!面白い!」

「食べないよ!ばあやが用意してくれた服が汚れちゃう!!」
 
 
 
グラドールとレディノーラのソレに、オランジュはふふと笑った。
どうやら、アイツが性別不明に想えたのは自分の勘違いかもしれない、なんて想いながら…。
 
 
 
「もう大丈夫ですよ、レディノーラ姫様。
ところで姫様、わたくしの言葉を覚えていますか?」

「はいはーい!良き手紙とは、人の心を救いあげるモノです」
 
 
 
グラドールが手を挙げて言い、初老の女官がうんうんと頷く。
 
 
 
「貴方のソノ気持ちを、私が表します。
そして届けてみせます。 
心は…、届くモノなんです」
 
 
 
レディノーラが歌うように紡ぐ。
ソレに初老の女官はうんうんと頷き、二人に拍手を送った。
 
 
 
「よく出来ました。
では課題はできてますね」

「「お互いがお互いを相手に両親に手紙を紡ぐ!」」
 
 
 
グラドールとレディノーラは年相応、六歳の子相応の動きで嬉しそうに自分達の机に行くと、引き出しからそれぞれ手紙を出して初老の女官に見せた。
 
 
 
「オランジェ・クライン・オスマントゥス王女様、コレが我が国の伝統の一つでございます。
人の気持ちをくみ取り、手紙として届けたい人に贈る。
始まりも終わりも無い。
言葉を、口で表すのは簡単ですが、手紙で表すのと同じくらい難しいのです。
ですので、相手を想い遣るひとつとして、我がグランディア皇羽國では盛んに行われてます」

「そういやあ馬車で飛んで来た時も、ポストマンが“今日の手紙だよ!”って言ってたな」

「うんうん」
 
 
初老の女官はソレを聞くと満足げに頷き、紫の羽と紫の衣を翻して、「それではこちらへ」と促した。



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