婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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恋人期間

晴れ渡る星の空

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それはまるで彼女の心を示すように、夕刻の夜気をはらんだ空気を払う。

(やっぱりまだ、肌寒いわね……)

ミレーユはふぅと浅く息を吐いた。

それと呼応するように、彼女の耳元を飾る金色のイヤリングがリンと涼やかな音を立ててほのかに揺れた。

愕然とするほどの美しさは元からミレーユの持っていたものだが、今は少しの憂い含み、悩ましい美しさが加わった。

彼女の止めた馬車の付近で様子を伺っていた貴族達は、自らも馬車を降りようとしていたところで、そんな彼女の美しさに目を奪われて危うく馬車から転がり落ちるところだった。

ミレーユはそんな彼らの方を見もせずに差し出された御者の手をとって1人、会場へ向かう。

王城入り口は白亜の大理石でできている。

膨らんだ袖口から冷たい空気が入り込んで、ミレーユはぶるりと背筋を震わせた。

入城すると、すぐにロイヤルブルーの絨毯が敷かれた大階段が見えてくる。

(はぁ……誰か抱き上げて上まで連れて行ってくれないかしら)

ミレーユは嘆息しながら、大階段の1番上を眺めた。


すると。


「まあ、まあ!ミレーユ様」


甘ったるいのにどこか意地の悪さを滲ませた声音が背後から聞こえてくる。

振り返ると、そこにはミレーユが毛嫌いしているシェルディ候爵令嬢と、その取り巻き達がいた。

彼女はミレーユと同様に目鼻立ちのくっきりとした愛らしい容貌をしている。髪は茶色混じりの金髪で、瞳は趣のある深緑だ。

社交界では3本の指に入る美人だが、ミレーユの大陸を駆け巡るほどの美称に比べると彼女の名声はこの国の社交界止まり。

そのことをシェルディは根に持っていた。

これでミレーユの性格がまるで聖女のように清らか、かつ、謙虚で優しいのであればシェルディも少しは敬意を払っていたかもしれない。

しかし残念ながら、ミレーユは謙虚とは程遠い性格、はっきり言って傲慢だ。

そのせいで、シェルディはますますミレーユのことが気に入らない。

故に今回のミレーユとアランの婚約破棄はシェルディのみならず、ミレーユを快く思っていない令嬢達にとっては、むしゃぶりつきたいほどに美味しい話だった。


そして今日この日、ここぞとばかりにミレーユの空を突き抜けるほどのプライドをボキボキに折ってやろうとシェルディのみならず他の令嬢たちも意気込んでいた。

「ごきげんよう、本日はお日柄もよく、ミレーユ様の日々の行いが大変よろしくていらっしゃるからでしょうねえ。絶好のパーティー日和ですわ!」

シェルディは清々しく言ってのけた。

しかしミレーユは何を考えているのかよく分からない表情のままでしばらく沈黙した後、ふと首を傾げた。

「あなた、わたくしに話しかけているの?」

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