婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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ライレルの馬祭り Ⅰ

思案

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「結局、誤魔化されてしまったわ」

溜息を交えて告げたミレーユに、エリーチェは心底不思議そうにしながら己の娘を凝視した。

「誤魔化す?」
「あのメイドは誰かに指示されてあの食器を落としたのです」
「まあ……」

エリーチェはおっとりとした仕草で口元に手を当てながら、何か考え込むように睫毛を伏せる。

「本当にそうだとしたら、私達を罠にかけようとしたのかしら?」

静かな声で導き出した答えを告げる母に、ミレーユはこくりと頷いた。

ミレーユが、つまりは公爵家が側妃側の人間であると噂を流すためにあのような茶番劇を繰り広げられたとはあまり考えたくはないが、あのユラの態度を見ると、どうしてもそうとしか思えなかった。

ミレーユがメイドを庇った時。ユラはまるで獲物が罠にかかったことを喜ぶような目をしていた。

それだけで「罠」であったと決めつけたくはないが、ミレーユにはそうとしか思えなかったのである。


「でも……例え、罠であったとしてもよ?あなたがあのメイドを庇うかどうかなんて分からないわよね」


そうなのだ。あのメイドがもし誰かに指示されて黒色の食器を割ったのだとして。
それをユラが罵るところまでが意図された流れだと考えても、ミレーユが間に割り込む確率は低かったはずだ。

だが実際、ミレーユはメイドを庇った。

その時ミレーユは、メイドが憐れだから庇ったのではなく、居丈高なあのユラが気に喰わなかったからあのメイドを庇ったのだ。

(……誰かに指示されていたのかしら)

ユラは最後、誰かに助けを求めるかのように視線を泳がせていた。

もしミレーユが居丈高なユラを気に入らず、メイドを庇うことまで予想出来るのだとしたら、相手は相当にミレーユを知っている人物か。あるいはミレーユがそういった人物であるという情報が得られる人物しかいない。

そしてその人物はこの場にいるのだ。

だが、皆目検討もつかない。

「まあ、今回は難を逃れたのだから良かったわ。だけど次からは目立ちたがりもほどほどにして、お母様の横に立っていなさいね」
「はい、お母様」

いつもいつも、相対する者がユラのように愚かであるわけではない。

愚者に対しては、対応出来ることがあっても。
賢者に対しては、ミレーユはただの箱入り娘で無知な公爵家の令嬢だ。

それを弁えなければならない。

ミレーユもそれはよく分かっていた。分かるほどには賢明だった。

「はい、お母様」

頷くと、エリーチェは微笑んで「それじゃあ、皆の挨拶を受けましょう。皆、こちらを見ているわ」と周囲に視線をやった。


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