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王都より隣国に近い街─エンベル。
カルミアはそこで暮すことになった。実際あの日乗った汽車が着いた駅からエンベルまでは馬車で1日はかかる。駅の近くではやはり物価も高く、家賃も入用になる。これからずっと暮らしていくのに、それでは心元ないので、1日かけて辻馬車で移動した。
街の門をくぐる前には田園風景が広がる。
カルミアはその門の近くに1つの小さな家を買った。家1つ買うのでも、ダエルが贈ってくれた宝石1つ変わらない値段だということに、カルミアは驚かされた。
ダエルが聖剣を引き抜くまで、ずっと田舎町にいたはずなのに。旅をする過程で金銭感覚が麻痺してしまったのだろう。それを嘆かわしいと思うと同時に、贅沢な暮らしにどっぷり浸る前に抜け出すことが出来てよかったと安心してもしている。
購入した家はそこそこに綺麗な家で、軽く淡いクリーム色の塗装もされていた。もっと人目のつかない場所で暮すことが出来れば良かったのだが、今お腹に赤ん坊のいる状態で、医者のいない田舎町で暮すのは相当に無理があった。
とにかく、今はちゃんと子供を産める環境を整えて、子供を産んだ後はどこか働き口を見つけないと。とそう考えていたカルミアだったが、意外に早くその働き口が見つかった。
「家の中で造花を組み立てるお仕事をお願いしたいの。それからドライフラワーをつめる箱の装飾も。これならお腹に赤ちゃんがいてもあんまり負担がかからないと思うんだけど、大丈夫かしら」
そう言って仕事をくれたのは汽車の終着駅で出会った洗練されたお洒落な男──ランネルだった。
彼はどこかで財布を落としたらしく辻馬車に乗る金がないと困っていたので、カルミアが乗る辻馬車の乗せた。礼をしたいと言う彼に、カルミアは初め断ったのだが押し切られてしまい、今に至る。
しかし彼と出会ったおかげで、カルミアはエンベルに辿り着けたし、そこで家も見つけられた。仕事も任せてくれるというので、本当に助かった。「ダエルと離れて正解だった」と神様に言われているようで少し悲しくもなってしまったけれど。
「ありがとう、ランネルさん。あなたに出会えてよかったわ」
「いやね、やめてよ。ランネルでいいわ」
「……じゃあ、私のこともミアと呼んで頂戴。本当の名前はカルミアだけど……愛称で呼んでくれると助かるわ」
カルミアのその含みのある口調に、ランネルは心得顔で「ええ、分かったわ」と気前よく頷いた。
「なんでも言って頂戴ね。明日は私の友達の伝手でお医者を紹介するわん。元気いっぱいの赤ちゃんが生まれてくれるといいわね」
「ええ」
部屋の窓から降り注ぐ陽光。まるで天から差し伸べられた手のようにそれはカルミアの腹部を照らした。
どうか、この子に幸を。
カルミアはそう願わずにはおれなかった。
カルミアはそこで暮すことになった。実際あの日乗った汽車が着いた駅からエンベルまでは馬車で1日はかかる。駅の近くではやはり物価も高く、家賃も入用になる。これからずっと暮らしていくのに、それでは心元ないので、1日かけて辻馬車で移動した。
街の門をくぐる前には田園風景が広がる。
カルミアはその門の近くに1つの小さな家を買った。家1つ買うのでも、ダエルが贈ってくれた宝石1つ変わらない値段だということに、カルミアは驚かされた。
ダエルが聖剣を引き抜くまで、ずっと田舎町にいたはずなのに。旅をする過程で金銭感覚が麻痺してしまったのだろう。それを嘆かわしいと思うと同時に、贅沢な暮らしにどっぷり浸る前に抜け出すことが出来てよかったと安心してもしている。
購入した家はそこそこに綺麗な家で、軽く淡いクリーム色の塗装もされていた。もっと人目のつかない場所で暮すことが出来れば良かったのだが、今お腹に赤ん坊のいる状態で、医者のいない田舎町で暮すのは相当に無理があった。
とにかく、今はちゃんと子供を産める環境を整えて、子供を産んだ後はどこか働き口を見つけないと。とそう考えていたカルミアだったが、意外に早くその働き口が見つかった。
「家の中で造花を組み立てるお仕事をお願いしたいの。それからドライフラワーをつめる箱の装飾も。これならお腹に赤ちゃんがいてもあんまり負担がかからないと思うんだけど、大丈夫かしら」
そう言って仕事をくれたのは汽車の終着駅で出会った洗練されたお洒落な男──ランネルだった。
彼はどこかで財布を落としたらしく辻馬車に乗る金がないと困っていたので、カルミアが乗る辻馬車の乗せた。礼をしたいと言う彼に、カルミアは初め断ったのだが押し切られてしまい、今に至る。
しかし彼と出会ったおかげで、カルミアはエンベルに辿り着けたし、そこで家も見つけられた。仕事も任せてくれるというので、本当に助かった。「ダエルと離れて正解だった」と神様に言われているようで少し悲しくもなってしまったけれど。
「ありがとう、ランネルさん。あなたに出会えてよかったわ」
「いやね、やめてよ。ランネルでいいわ」
「……じゃあ、私のこともミアと呼んで頂戴。本当の名前はカルミアだけど……愛称で呼んでくれると助かるわ」
カルミアのその含みのある口調に、ランネルは心得顔で「ええ、分かったわ」と気前よく頷いた。
「なんでも言って頂戴ね。明日は私の友達の伝手でお医者を紹介するわん。元気いっぱいの赤ちゃんが生まれてくれるといいわね」
「ええ」
部屋の窓から降り注ぐ陽光。まるで天から差し伸べられた手のようにそれはカルミアの腹部を照らした。
どうか、この子に幸を。
カルミアはそう願わずにはおれなかった。
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