4 / 14
天使の誕生
しおりを挟む
それから数ヵ月後。
エンベルの門近く。1つの家で産声が上がった。
その甲高い声音を聞いた途端、カルミアは安心して意識を手放した。横合いから誰かが声を掛けてくれているのは分かっていたけれど。ひどい安堵と、疲労でカルミアは数時間目を覚ますことが出来なかった。
次に目を覚ました時。すでに部屋の中は太陽の光に満たされていた。
「……ん」
「ああ、良かった。起きられたのね」
すぐ横から声が掛けられる。ぼやけた視界に映るその顔。数カ月の間親身になって支えてくれた女医─リネットだ。
「ミア。あなたの赤ちゃん──女の子よ」
赤ん坊を抱いているのはランネルだった。リネットに支えられ上半身を起こし、ランネルの手から赤ん坊を受け取る。ほんわかと柔らかい。小さな存在。目も開いていない。その顔立ちが誰に似ているのかもよく分からない。それでも、何者にも代えがたくこの子が大切だと思えた。
ずっと、ずっと願って来たダエルとの子。彼はもうカルミアの傍にはいないけれど。それでも彼との繋がりがここにある。それがとても尊いことのように思えて仕方がなかった。
カルミアの頬を涙が滑る。
こんなことを考えてはいけない。そう思うのに。もしここにダエルだいたら。彼はどんなに喜んでくれただろうか。彼は子供が好きだった。「いつかお前さんとの子が欲しい」と願ってくれていた。この子を見て、彼は何ていうだろう。どんな顔をするだろう。唯一確かなことは、カルミアと共に泣いてくれたであろうこと。
そんなことばかりが、頭に浮かぶ。
「名前はどうするんだ?」
リネットに問われて、カルミアはすでに考えていた名前を告げる「クロエ」と。
「いい名前ね……。クロエちゃん、これからいっぱい楽しいことが待っているわよ」
ランネルの声音に赤ん坊のクロエは、身体を揺らした。その様子があまりにも愛らしくて3人で顔を見合わせる。
「きっとミアに似てすっごい美人さんになるわよ。この町の男の子全員を虜にしちゃうくらいにね」
楽しげに言うランネルに、リネットは大真面目な顔をする。
「それは確かにな。ミアがこの街に来た時でさえ、騒ぎになったんだ。クロエが成長してミアのような美人に育ったら、これからこの街で骨肉の争いが繰り広げられることになりそうだ」
「リネットったら、大袈裟だわ」
苦笑を零すカルミアに、リネットは真顔で首を振る。
「なにをそんな呑気なことを言ってんだ、前から思っていたけど、ミアは自覚が足りない」
「そうよ、そうよ。あなたが私の花屋に来てくれるたびに、男共からあなたの名前を聞かれたもんよ。もちろん答えてなんかやんなかったけどね」
「……そう、だったの?」
「ええ!クロエが生まれるまではあなたの懸念になるようなことがあったら大変だから言わなかったけど。自覚が足りないんだもの。今注意しとくにこしたことはないわね。変な男が絡んできたらすぐに言うのよ」
あまりに2人が真剣な表情でいうので、カルミアはただ頷いた。自らの容姿は、確かに幼い頃住んでいた田舎町では突出して美しいと言われていた。カルミアはあまり容姿にこだわりなどなかった。ただ、ダエルにふさわしくあれるように内面を磨かなければと常々そう思っていたので。
それにダエルの周りにはカルミアよりはるかに美しい女達がいた。魔法使いや聖女、隣国の王女など、皆恐ろしく華やかな容姿で、ダエルに好意を寄せていた。
そういうわけで、カルミアは自らが美しいことなんてすっかり忘れてしまっていて、無自覚な行動をとることが多い。それをリネットとランネルが心配してくれているのだった。
「……ええ、分かったわ。気をつける」
頷くカルミアに、リネットとランネルはやっとのことでほっと安堵の息を吐いたのだった。
エンベルの門近く。1つの家で産声が上がった。
その甲高い声音を聞いた途端、カルミアは安心して意識を手放した。横合いから誰かが声を掛けてくれているのは分かっていたけれど。ひどい安堵と、疲労でカルミアは数時間目を覚ますことが出来なかった。
次に目を覚ました時。すでに部屋の中は太陽の光に満たされていた。
「……ん」
「ああ、良かった。起きられたのね」
すぐ横から声が掛けられる。ぼやけた視界に映るその顔。数カ月の間親身になって支えてくれた女医─リネットだ。
「ミア。あなたの赤ちゃん──女の子よ」
赤ん坊を抱いているのはランネルだった。リネットに支えられ上半身を起こし、ランネルの手から赤ん坊を受け取る。ほんわかと柔らかい。小さな存在。目も開いていない。その顔立ちが誰に似ているのかもよく分からない。それでも、何者にも代えがたくこの子が大切だと思えた。
ずっと、ずっと願って来たダエルとの子。彼はもうカルミアの傍にはいないけれど。それでも彼との繋がりがここにある。それがとても尊いことのように思えて仕方がなかった。
カルミアの頬を涙が滑る。
こんなことを考えてはいけない。そう思うのに。もしここにダエルだいたら。彼はどんなに喜んでくれただろうか。彼は子供が好きだった。「いつかお前さんとの子が欲しい」と願ってくれていた。この子を見て、彼は何ていうだろう。どんな顔をするだろう。唯一確かなことは、カルミアと共に泣いてくれたであろうこと。
そんなことばかりが、頭に浮かぶ。
「名前はどうするんだ?」
リネットに問われて、カルミアはすでに考えていた名前を告げる「クロエ」と。
「いい名前ね……。クロエちゃん、これからいっぱい楽しいことが待っているわよ」
ランネルの声音に赤ん坊のクロエは、身体を揺らした。その様子があまりにも愛らしくて3人で顔を見合わせる。
「きっとミアに似てすっごい美人さんになるわよ。この町の男の子全員を虜にしちゃうくらいにね」
楽しげに言うランネルに、リネットは大真面目な顔をする。
「それは確かにな。ミアがこの街に来た時でさえ、騒ぎになったんだ。クロエが成長してミアのような美人に育ったら、これからこの街で骨肉の争いが繰り広げられることになりそうだ」
「リネットったら、大袈裟だわ」
苦笑を零すカルミアに、リネットは真顔で首を振る。
「なにをそんな呑気なことを言ってんだ、前から思っていたけど、ミアは自覚が足りない」
「そうよ、そうよ。あなたが私の花屋に来てくれるたびに、男共からあなたの名前を聞かれたもんよ。もちろん答えてなんかやんなかったけどね」
「……そう、だったの?」
「ええ!クロエが生まれるまではあなたの懸念になるようなことがあったら大変だから言わなかったけど。自覚が足りないんだもの。今注意しとくにこしたことはないわね。変な男が絡んできたらすぐに言うのよ」
あまりに2人が真剣な表情でいうので、カルミアはただ頷いた。自らの容姿は、確かに幼い頃住んでいた田舎町では突出して美しいと言われていた。カルミアはあまり容姿にこだわりなどなかった。ただ、ダエルにふさわしくあれるように内面を磨かなければと常々そう思っていたので。
それにダエルの周りにはカルミアよりはるかに美しい女達がいた。魔法使いや聖女、隣国の王女など、皆恐ろしく華やかな容姿で、ダエルに好意を寄せていた。
そういうわけで、カルミアは自らが美しいことなんてすっかり忘れてしまっていて、無自覚な行動をとることが多い。それをリネットとランネルが心配してくれているのだった。
「……ええ、分かったわ。気をつける」
頷くカルミアに、リネットとランネルはやっとのことでほっと安堵の息を吐いたのだった。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
727
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる