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断罪

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「カルミア」

ダエルに呼ばれ、カルミアはゆっくりと立ち上がった。

「この男に何をされた?」

その問いかけは、つまりカルミアの答え方次第で、テンゼルの生死が決まるということだとその場の皆が理解した。

「私はまだ何もされていないわ。……でも、この街や他の街で文字の読めない若い子を騙して、自分の愛人にしたりしていると聞いたの。狡猾にも契約書を書かせて役人の目を誤魔化して。そして自らの進む道を妨げたいたいけな子供をなぶり殺し、役人に賄賂を渡して罪を逃れたとも」
「……ほお」
「それに、私の大切な友人に暴力を振るったわ」
「友人?」

問い返されて、カルミアは極めて静かに視線を送った。頬から血を流すリネットと、床に手を突き、肩で息をしているランネルがいる。

「そう。この街に住む時色々手伝ってくれた友人よ」
「ふむ……」

ダエルは少し考え込んだ後、背に控える1人の騎士に指示を飛ばす。

「まずはその契約書とやらを無効にしたいんだが」
「ダエル様の御心のままに」
「テンゼルに騙された人間を救い出すことに人員を割いてくれ。それからなぶり殺しにされたという子供の親族を見つけ出しなさい」
「はい」
「賄賂を受け取ったその役人は裁判にかけろ。以後、テンゼルに対する被害者への対応は真摯に行うこと」
「はい」
「まあ、こんなところか。カルミア、他に何か俺に出来ることは?」

問われて、カルミアはテンゼルへと目を向ける。テンゼルは目に見えて怯えていた。それこそ食べられる前の大きな牛よりも大袈裟なその様にカルミアは静かに首を振る。

「私が何かされたわけではないもの。被害者の皆さんの意見を聞いてから罪に問うべきね」

カルミアはダエルの目をまっすぐに見つめた。それに答えるようにダエルは不適に笑ってみせる。

「……分かった」

その場に漂っていた緊張が、緩んだ。ダエルが笑うことで緩んだその場の空気に、皆の呼吸が深くなる。騎士達は規律正しくカルミアに敬礼した後、テンゼルとその部下らしき男達を一気に拘束していった。

その様子を呆然と眺めるカルミアに、ダエルは「驚いたか?」と明るく笑ってみせた。その目元に濃い隈があることに気づいて、カルミアはそっと彼の頬に指先を滑らせる。

「ごめんなさい」
「どうして謝る。お前は謝るべきじゃない。俺が謝るべきだろう。こんな目に合わせたのは、もとを正せば俺のせいだ」

睫毛を伏せるダエルにカルミアはどう答えていいのか分からず視線を彷徨わせた。ふいにその視界に呆然とこちらを見つめるリネットとランネルの姿が映って、慌てる。

「いけない。リネットとランネルの手当をしないと」
「……治癒士を呼ぶように指示してある。2人の手当は任せても問題はないだろう」
「……そう」

それならば、任せるべきか。案の定すぐに治癒士は到着して2人の手当をし始めた。

「お前さんは怪我はないのか?」
「ないわ……って、あ!」
「なんだ、どうした」
「クロエが……」
「クロエ?」

そういえば、まだクロエのことをダエルに話していなかったことを思い出す。今、説明するべきか。いやその前にまずは家の中に帰って、クロエが1人で泣いていないか確認しなければ。

「とにかく、まずは家の中へ」

カルミアは、ダエルにクロエのことを話すと決めて彼を家の中へ招いた。
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