愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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2人

変化の兆し

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(な……んて、言ったの?)

君の顔が見たかった?

そんな馬鹿なこと、あるわけない。
あのガブリエルがこんな事を言うわけがない。

だってガブリエルはいつも無関心だったのだ。

どれだけ呼びかけても、会いに行っても、笑顔を向けても、その表情が変わることはなくて、婚約者であるのに目が合うことだって滅多になかった。

自らの運命を知る前は「それでも好きになってもらえるまで努力するべきだ」「いつかは絶対に好きになってもらうのだ」と意気込んでいたけれど、運命を知ってしまった後は、ガブリエルがマリエンヌ以外の人間を好きにならないのは当然のことなのだと悟り、絶望した。

この世界は、2人が結ばれるためにある世界なのだから仕方のないことなのだ、と。

諦めて世界が望む結末を迎えるまで、自分は2人に関わらずに生きていけばいい。

そうすればきっと自分にとっても悪い結末にはならないし、この世界も自分を目の敵にすることはないだろう、と。

そう、寝台の上で丸くなって自分に言い聞かせてきたというのに。

「……う、……っ……わあぁぁぁぁああああん」

ロメリアは抱え込んでいた毛布から顔を出して、赤子のように口を開けて大声で泣いた。

静かだった世界に、悲壮な泣き声が響き渡る。

今まで抑えてきたもの全てを吐き出すように。
心の中で暴れていた激情を捨てるみたいに。

ロメリアは泣き続けた。

悲しくて、怖かったのだ。

幼い頃から好きで好きで堪らなかった。ずっと抱いてきたこの恋情が物語のロメリアとして持つべき感情で、自分自身はガブリエルのことを好きではなかったのかもしれない。

そんな風に考えて、諦めきれたらどれだけ良かっただろう。そんな風に考えられたらきっと幸せだったのに。

すぐに、そうではないと分かってしまった。

不幸せな運命が待ち受けていると知っても、ガブリエルに対する気持ちは変わらなかった。否、変えられなかった。

どんなに頑張ってもガブリエルは絶対に好きになってはくれない。むしろ自分は嫌われる「べき」存在。

そのことがひたすらに悲しくて、同時に怖かった。

いつかこの気持ちが暴走して、物語のロメリアのように2人の邪魔をする存在になってしまうのかもしれない、と。

前世の記憶を持つ異分子である己も、いつかは物語を進める駒として消されるのかもしれない。そんな恐怖に怯えながら、自分だけが感情を持って、他は皆白く無垢な操り人形である世界にいるような。孤独をいつも感じていた。

だけど聞き間違いでなければ、ガブリエルは「君の顔が見たかった」と言った。

果たして物語のガブリエルは、ロメリアにこんな言葉をかけただろうか。
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