愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
63 / 79
2人

否定

しおりを挟む
絶句して、二の句が継げないでいるロメリアに、ガブリエルは畳み掛けるようなことはせず、答えを待って沈黙し続けた。


ただし、その腕は決してロメリアの身体を離そうとはしない。

彼が横暴な態度を取るのなら、もっと頑なな態度で拒めるのだが。どこか縋るような雰囲気さえ滲ませる彼の態度に、自分がどういう態度で彼に接するべきなのか、ロメリアは全く分からなくなってしまった。


「……顔を隠してあなたと会って、何を話すというのよ」

もっと何か言わなければならないこと、聞きたいこともあったはずなのに、口をついて出たのは素朴な問いかけ。
ガブリエルは真面目に考え込んで、しばらくしてから、静かに答えた。

「私には、君の好むような話が出来ない」
「……そうね。あなたは社交界のことも、まして宝飾品や流行のドレスなんかには興味も関心もないもの。知ってるわ」

肯定して頷くと、ロメリアを抱くガブリエルの力が僅かに強まる。

「……君を楽しませることもできないのに、君の声を聞いていたいと言ったら……君は呆れるか」
「……それは」

ロメリアは思わず言葉に詰まった。

ガブリエルが今言葉にしたことは、ずっと己が感じていたことだったから。

彼を楽しませる話題なんて1つも持ち合わせてはいないのに、必ず返ってくる相槌が嬉しくて、ロメリアは喋り続けていた。

(……まさか、彼が私と同じことを考えるなんて思わなかった)

ガブリエルは今まで人間的な感情を表情に出すことはなかったし、言葉で伝えてくることもなかった。

おそらく今、彼は彼なりに努力して、自分の考えていることを伝えようとしている。


だが、今さらそんな風にされても困るのだ。
愛おしいと思わされては困るのだ。


「……あなたは、いつも傍でうるさくしていた私が急に静かになったから、気を引かれているだけよ」

ガブリエルがそんな薄情な人間だなんて思っていない。

だけど彼は、自分自身のことにさえ興味がないから、人に言われてしまえば「そうかもしれない」と少しは考える。

それで十分だった。

ほんの少しでも「そうなのかもしれない」と思えば彼の行動には迷いが出る。迷いが出れば頑なな態度は崩れるだろう。少なくともこの腕の力を緩めるくらいはしてくれるはずだ。

そんなことを考えながら、ロメリアはブローチを握りしめてすぐに立ち上がれるように足に力を込める。

だが、予想に反して、ガブリエルの腕の力が緩まることはなく、むしろ一層強くなってしまった。

「違う」

 端的な否定の言葉。

ただ単に気を引かれているだけではないと、彼自身が否定したことに、ロメリアは息を呑む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】最後に貴方と。

たろ
恋愛
わたしの余命はあと半年。 貴方のために出来ることをしてわたしは死んでいきたい。 ただそれだけ。 愛する婚約者には好きな人がいる。二人のためにわたしは悪女になりこの世を去ろうと思います。 ◆病名がハッキリと出てしまいます。辛いと思われる方は読まないことをお勧めします ◆悲しい切ない話です。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」 二人は再び手を取り合うことができるのか……。 全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)

処理中です...