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第6章 家族になろう
第41話 新しい土地で再出発
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魔術師協会の本部を有する街、アコルセファム。
もっと近代的な街だと想像していた。が、実際は思った以上に古風な街並みだった。
目に入る家々が、どれもレンガ造りだったからだろう。またお店まで同じ造りをしているものだから、まるで隠れ家か何かに思えて仕方がなかった。
また背の低い家ばかりが並んでいるのも、その要因の一つだ。これは魔術師協会の本部があるからだと、サビーナ先生は言っていた。
本部という名称だが、その実態は研究塔に近く。常に魔法の研究をしているため、よく爆弾、もしくは魔法の一端が飛んでくるんだそうだ。
そのため、背が高い建物だと被害が出てしまうことがあるため、皆、同じ高さに決められていた。魔術師協会が町全体に結界を張る、というただそれだけの利点のために。
つまりこの街にとって魔術師協会は、有り難いのか迷惑なのか、分からない存在なのかもしれない。これからそこで働く身としては、前者であってくれればいいけれど。
「さぁ、ここが私たちの家よ」
サビーナ先生の案内の元、辿り着いたのは、例に洩れずレンガ造りの家。しかも、蔦が少しだけ絡まっているのが特徴だった。
鬱蒼とした草木に囲まれていた、ユベールの家とどこか似ている。暗に、そのような家を探してくれたのではないか、と思えるほどだった。
けれどユベールが気になったのは、そこではなかったらしい。
「私たち?」
「そうよ。まさかとは思うけれど、二人だけで暮らせるとでも思っていたの? ここアコルセファムで。魔術師協会の理事を努めている私が借りた家に、未成年の貴方たちが。保護者として看過できないわ。下手したら私の立場が悪くなってしまうもの」
「でも、前の街では未成年のユベールが一人暮らしをしていました。何が違うのでしょうか」
「街の制度が違いね。それとユベールくんの一人暮らしは、ちょっと事情があるのよ」
事情? と首を傾げると当の本人が答えてくれた。
「初めから僕一人で暮らしていたわけじゃないからさ。両親を亡くした後も、僕はあの家に居続けた。一応、一人で暮らせるだけの収入はあったし、ラシンナ商会のご主人やブリットさんの助力もあってできたことだったんだ。でも……」
「ここアコルセファムでは実績も信頼もない。あるのは私の伝手だけ。しかもリゼットは私の養女よ。二人だけで住ませるわけにはいかないの。分かって?」
「はい」
私は納得したけれど、ユベールはというと……不満げな顔を隠そうともしていなかった。
「でも、夜はいつものように帰るんですよね。ご自分の家に」
「えぇ。勿論、そのつもりよ。けれど、朝はこの家に戻るから……節度は慎みなさい」
「サビーナ先生……いくら何でもそれは……」
さすがに婚前交渉はしませんよ、と言いたかったができなかった。ユベールがご機嫌な顔を向けてきたからだ。
これで拒否するような発言をしたら、しばらくは拗ねてしまうかもしれない。
何せ、アコルセファムにくる道中、サビーナ先生がいない時のスキンシップが多くて、ちょっと困っていたのだ。
ヴィクトル様のお墓の前でキスをしたせいなのか。唇ではないけれど、髪や頬、額。さらに首にまで。まるで悪戯っ子のように、ユベールは私の反応を楽しんでいた。
当の私は、というと、嬉しい気持ちと戸惑う気持ちがせめぎ合って……どうしていいのか分からず、ただただその行為を受け入れていた。
なにせ今まで、これほどの好意を受けたことがなかったから。
ヴィクトル様のは……正直、今でもよく分からない。愛されていると知った後でも、そうだったんですか、程度で。逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「細かい話は、一先ず後にしましょう。今から中に入って荷物の搬入をしなければならないんだから。お喋りしている暇はないわよ」
「そうでした。サビーナさんはともかく、僕たちの寝床を確保しないと」
「ユベール、言い方!」
「え? そんなに間違っていないと思うけど」
さっきの話の後だけに、別の意味に聞こえてならなかった。だからなのか、ユベールが意味ありげに私を見る。
「こらこら、お喋りをしている暇はないって言わなかったかしら?」
もう一度、サビーナ先生は私たちを窘める。それもそのはず、現在の時間は正午を下回っているのだ。
転移魔法陣を利用して、ユベールの家からここ、アコルセファムの家に家具を移動させても、半日で終わるかどうか。下手したら、夜までかかってしまうかもしれない。
いや、今日中に終わるかどうかも怪しいほどだった。それをサビーナ先生は危惧していたのだ。
何せ私たちは、ヴィクトル様のお墓を経由してアコルセファムに到着した身。以前の街を発ってから、すでに二週間は経過していた。
特に言われたわけではないが、外観が焼けた家を、いつまでも放置しておくわけにはいかないのが理由だった。
治安の面でもそうだが、ラシンナ商会からしてみれば、風評被害を防ぐために、いち早く取り壊したいと思っているに違いない。
私たちは早速、家の中に入り、引っ越しの準備に取り掛かった。
もっと近代的な街だと想像していた。が、実際は思った以上に古風な街並みだった。
目に入る家々が、どれもレンガ造りだったからだろう。またお店まで同じ造りをしているものだから、まるで隠れ家か何かに思えて仕方がなかった。
また背の低い家ばかりが並んでいるのも、その要因の一つだ。これは魔術師協会の本部があるからだと、サビーナ先生は言っていた。
本部という名称だが、その実態は研究塔に近く。常に魔法の研究をしているため、よく爆弾、もしくは魔法の一端が飛んでくるんだそうだ。
そのため、背が高い建物だと被害が出てしまうことがあるため、皆、同じ高さに決められていた。魔術師協会が町全体に結界を張る、というただそれだけの利点のために。
つまりこの街にとって魔術師協会は、有り難いのか迷惑なのか、分からない存在なのかもしれない。これからそこで働く身としては、前者であってくれればいいけれど。
「さぁ、ここが私たちの家よ」
サビーナ先生の案内の元、辿り着いたのは、例に洩れずレンガ造りの家。しかも、蔦が少しだけ絡まっているのが特徴だった。
鬱蒼とした草木に囲まれていた、ユベールの家とどこか似ている。暗に、そのような家を探してくれたのではないか、と思えるほどだった。
けれどユベールが気になったのは、そこではなかったらしい。
「私たち?」
「そうよ。まさかとは思うけれど、二人だけで暮らせるとでも思っていたの? ここアコルセファムで。魔術師協会の理事を努めている私が借りた家に、未成年の貴方たちが。保護者として看過できないわ。下手したら私の立場が悪くなってしまうもの」
「でも、前の街では未成年のユベールが一人暮らしをしていました。何が違うのでしょうか」
「街の制度が違いね。それとユベールくんの一人暮らしは、ちょっと事情があるのよ」
事情? と首を傾げると当の本人が答えてくれた。
「初めから僕一人で暮らしていたわけじゃないからさ。両親を亡くした後も、僕はあの家に居続けた。一応、一人で暮らせるだけの収入はあったし、ラシンナ商会のご主人やブリットさんの助力もあってできたことだったんだ。でも……」
「ここアコルセファムでは実績も信頼もない。あるのは私の伝手だけ。しかもリゼットは私の養女よ。二人だけで住ませるわけにはいかないの。分かって?」
「はい」
私は納得したけれど、ユベールはというと……不満げな顔を隠そうともしていなかった。
「でも、夜はいつものように帰るんですよね。ご自分の家に」
「えぇ。勿論、そのつもりよ。けれど、朝はこの家に戻るから……節度は慎みなさい」
「サビーナ先生……いくら何でもそれは……」
さすがに婚前交渉はしませんよ、と言いたかったができなかった。ユベールがご機嫌な顔を向けてきたからだ。
これで拒否するような発言をしたら、しばらくは拗ねてしまうかもしれない。
何せ、アコルセファムにくる道中、サビーナ先生がいない時のスキンシップが多くて、ちょっと困っていたのだ。
ヴィクトル様のお墓の前でキスをしたせいなのか。唇ではないけれど、髪や頬、額。さらに首にまで。まるで悪戯っ子のように、ユベールは私の反応を楽しんでいた。
当の私は、というと、嬉しい気持ちと戸惑う気持ちがせめぎ合って……どうしていいのか分からず、ただただその行為を受け入れていた。
なにせ今まで、これほどの好意を受けたことがなかったから。
ヴィクトル様のは……正直、今でもよく分からない。愛されていると知った後でも、そうだったんですか、程度で。逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「細かい話は、一先ず後にしましょう。今から中に入って荷物の搬入をしなければならないんだから。お喋りしている暇はないわよ」
「そうでした。サビーナさんはともかく、僕たちの寝床を確保しないと」
「ユベール、言い方!」
「え? そんなに間違っていないと思うけど」
さっきの話の後だけに、別の意味に聞こえてならなかった。だからなのか、ユベールが意味ありげに私を見る。
「こらこら、お喋りをしている暇はないって言わなかったかしら?」
もう一度、サビーナ先生は私たちを窘める。それもそのはず、現在の時間は正午を下回っているのだ。
転移魔法陣を利用して、ユベールの家からここ、アコルセファムの家に家具を移動させても、半日で終わるかどうか。下手したら、夜までかかってしまうかもしれない。
いや、今日中に終わるかどうかも怪しいほどだった。それをサビーナ先生は危惧していたのだ。
何せ私たちは、ヴィクトル様のお墓を経由してアコルセファムに到着した身。以前の街を発ってから、すでに二週間は経過していた。
特に言われたわけではないが、外観が焼けた家を、いつまでも放置しておくわけにはいかないのが理由だった。
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