BLゲームの世界に転生!~って、あれ。もしかして僕は嫌われ者の闇属性!?~

七海咲良

文字の大きさ
16 / 29
第一章 家族編

10話 兄さまからお守りをもらっちゃった!

しおりを挟む
嫌われ要素がかなりあるので、苦手な方はこのお話を飛ばしてください。
___________________

 マリーは大食堂のドアを開けた後、端によって頭を下げた。僕はマリーの横を通って大食堂のなかに入るけど、物音が一切しない。なかに誰もいないというわけじゃなくて、すでにお父さまやお母さま、兄さまが静かに座って待っていた。大食堂には、ずんっと澱んだ空気が流れている……まるで葬儀場みたいだ。なんだか僕が着ているタキシードが、喪服であるかように錯覚してしまう。

「あら、遅かったわね?」
「あ、も、もうしわけありません……」

 目を細めてちらりとこっちを見たお母さまが、僕を見下した様子で話しかけてきた。僕はその視線の恐怖から耐えるように、握りこぶしにぎゅっと力をいれて返事をした。

「リリー、君が急に一緒に食べるといったのだから仕方ないだろう……あまり緊張させるな」
「あらあら、そうだったわね」
「……リュカ、座りなさい」

 お父さまに諭されてようやく気付いたとでもいうような反応をするお母さまを視界に入れながら、僕は大食堂にいた執事に促されて、ドアに1番近い席に座った。僕からななめ前の席には、兄さまが無表情で座っているのが見えた。
 僕の席の前にあるのは、成人用のフォークやナイフ。手が小さい僕には扱えない大きさだ。他の人にバレないように、僕の背後に待機しているマリーに目を向ける。マリーは僕が嫌がらせされていることに気付いているようだけど、動けない様子……しかたないよね。僕は膝の上に手を置いて、ズボンを掴んで耐えることにした。

「そういえば、あと1週間で魔法属性検査が行えるわね……楽しみにしているわ」

 お母さまは僕が恐怖から耐えている姿を楽しげに見つめた後、ご飯を食べ始めた。どうやら今日殺されるわけでは無いようだ。……だけど、安心はできない。僕は震える手を誰にも見られないように、膝の上でさっきよりも強く握りしめた。掴んでいるズボンが、ぎりぃと悲鳴をあげる。

 ずっと俯いていると、兄さまが表情を変えずに、だけど不安げな視線を僕に送っていることに気付いた。僕は大丈夫だよと伝えるために笑顔を作ろうとしたけど、恐怖で硬直してしまった頬の筋肉を上手く動かすことができず、まるで糸で吊り上げられたような引き攣った笑顔で返してしまった。
 ……こんな醜い笑顔を見て、きっと兄さまは失望しただろう。兄さまが今どんな表情をしているのか見たくなくて、僕はすぐに俯いた。





 そうやって食事に手をつけずに下を向いて耐えていると、いつの間にか周りからカトラリーの音がしなくなっていた。びくびくしながら顔をあげると、食堂にはもう誰もいない。使用人も、マリー以外はもう居ないようだ。マリーが「リュカ様……」と、遠慮気味に声をかけてくる。

 ……返事ができない。息は変わらずできているのに、喉が締まっていて言葉を発することができない。声を出そうとしても、出口のない息が胸に留まり続けて、ぐっと締まるように胸を痛めつけてくる。さっきまで普通だったはずの僕の呼吸はだんだん荒くなり、目が忙しなく動き出した。僕はいてもたってもいられず、椅子から転げ落ちるように降り、自分の部屋に向かって走り出した。
 ばたばたと走っていると、走り慣れていない僕の足はすぐにもつれる。何度も、何度も、手や膝が擦りむけるほどの勢いで転がってしまう。だけど、痛みは感じなかった。それよりも、今すぐ弾けそうなほど張り詰めている胸の方が痛い。

 転がったら立ち上がって、走って、また転げるという行為を繰り返す。ぜーはーと、さっきよりも息が荒れてきてしばらくしたとき、ようやく自分の部屋の前に着いた。開いているドアの隙間に体を滑らせて中に入る。僕はベッドに飛び込んで、掛け布団にくるまった。
 4さいの僕の走りはもちろん速くないから、マリーがすぐに僕の部屋に来た。さすがにノックをせずに部屋の中に入ってきて、「リュカ様……」と、再度遠慮気味に声をかけてくる。今はその声すら怖く感じ、掛け布団にくるまってベッドシーツにしがみつく僕の口からは「やだ、こわい」という言葉が漏れ出た。

 ……ようやく喉に詰まっていた声を出せた。けれど、漏れ出たのは言葉だけじゃなくて、涙もだった。滝のように流れでてくる涙がシーツを濡らしていく。僕の部屋には終わりのみえない嗚咽が響き渡っていた。





 しばらくして僕が布団から頭を出すと、部屋からマリーの姿がなくなっていた。気が動転していて、まともな反応が返ってこないということを確認したマリーは、さすがに僕のことをそっとしておこうと思ったのだろう。僕の知らないうちに去っていたようだ。
 ……いや、マリーの「失礼しました」という声を僕が泣いていて聞いていなかっただけなのかもしれないけど。

 涙が止まったから状況を確認するために頭を出していたが、ずっと暗い掛け布団の中にいたから、部屋の明かりが眩しすぎるように感じる。僕は光から避けるように、もう一度掛け布団にくるまった状態になった。
 泣き疲れて目がヒリヒリする。そうやって、ぐずぐずと掛け布団の中に引きこもっていると、ドアが開く音がした。

 ノックがないということは家族の誰か……もしかしてお母さま?……やだ、やだよぅ。

 最悪の答えが思い浮かんでしまい、ぐぐっと身を固める。だけど、僕にかけられた声は酷く優しげな男の声だった。

「リュカ、兄様だよ。安心して」

 ギシリと僕のベッドに座る音がした。兄さまは、掛け布団にくるまっている僕を、ポンポンと安心させるように叩いてあやしてくれる。その手は、僕が赤ちゃんだったときに泣き止ませようと頑張って抱っこしてくれた、あの優しさを思い出させた。
 兄さまはもう僕のことなんて嫌いなのにどうして?という疑問とともに、止まったはずの涙がまた流れてくる。

 ひっく、ひっくと僕が泣いていると、兄さまは掛け布団をべりっと勢いよく剥がしてきた。僕の歪んだ視界が急に明るくなる。眩しくて泣きながら眉をしかめる僕を見た兄さまは、ふふっと笑い、僕を膝の上に置いて対面になるように座らせた。「大丈夫だよ」と言って、ぎゅーとしてくれる兄さま。……あったかい。僕は兄さまの肩に顔を押し付けて、ぐずぐずと泣き続けた。

 ずっとそうしていると、「このままじゃ兄さまのお洋服に僕の鼻水がついちゃう!」みたいなことを考える余裕がでてきた。兄さまにも僕が落ち着いてきたのがわかったようで、兄さまは抱きしめていた腕を外して、右のズボンのポケットから長いチェーンがついた小さな青色の巾着を取り出した。なんだろう?と僕が思っていると、兄さまは僕の首にそれをかけてきた。胸の前に巾着がきたから手にとってまじまじと観察する。
 僕の手でもちゃんと握ることができるから、神社のお守りくらいの大きさかな? ん~ほんとうになんだろう、これ。

「あの、兄さま……これは?」
「これはね、リュカのことを守ってくれるものだよ。絶対にどんなときでも、これを首から外してはいけないよ」
「……うん!」

 兄さまは目を鋭くさせて、真剣な表情で注意してくる。だけど声はやさしいまま。一瞬だけ、「え、なんで?」って思ったけど、僕を怖がらせないように気をつけながら話をする兄さまを見て、なんだか安心したからすぐに頷いた。僕の返事を聞いた兄さまは顔をほころばせ、勢いよく抱きしめてきた。

「わぷぷ!」
「ああ、本当にリュカはいい子だね。兄さまが絶対に守ってあげるから」

 ぎゅっと抱きしめてくる兄さま。ちょっと抱きしめる力が強くて息がしにくいけれど、兄さまからの愛情を全身で受け止めているようで安心する。恐怖で冷えていた僕の体が、兄さまの体温でじんわりと温まってくる。
 そうやってぬくぬくしていると、泣き疲れていたこともあって眠たくなってきた。僕がふわ~とあくびをしてから、こっくりと首を動かし始めたのを見て、兄さまは僕のまぶたにおまじないのように口付けた。

「僕のかわいいリュカ、安心してゆっくりおやすみ……兄様が助けてあげるからね」

 兄さまがそう言ったのを境に、僕は夢の世界に旅立った。


**********


 《ライト》の魔法を使って、人工的にゆるく照らされている廊下。そこに2人の男女が立っていた。

「リュカ様のご様子は……?」
「ああ、かなり酷かった……君の方はあいつの情報についてなにか得たか?」
「はい。リュカ様が闇属性だと判明すれば、秘密裏に処理する計画を立てているという情報を侍女から仕入れています」

 今まで表情を出さないように努めていた男の眉が、ぴくりと動いた。しかし、その眉はすぐに元に戻り、また無表情になる。だが、男は無表情でありながらも、その瞳からは炎のように激しい怒りが彼のなかで噴き上がっていると察することができた。

「なるほどな。こっちは予定通り渡せた。ただ、リュカはもう心を閉ざしているようだったし、お守りを常に持っていてくれるかわからないが……まあいい、お互い最善を尽くそう」

 そう言って、澄んだ声をした男は去っていった。メイドの服を着た女は、去った男に対して深く頭を下げ、見送った。彼女は、「決して怒らせてはいけない方の逆鱗に触れてしまったようだ」と、ありもしない同情をこの家の奥様に向けた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...