神子のピコタン

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パピコの物語 3

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隣人の男は、ダビという。

ダビは逃げていく二人組がすっかり見えなくなると、パピコを見た。
顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、体が震えて片手でうまく服が着られないようだ。

ダビはパピコに背を向けて、周りの様子をうかがうように斧を片手に立ち続けた。


(待っていてくれている・・・)


怖さと、感謝と、安心と。
時間はかかったがなんとか身なりを整えた。ようやく立ち上がると、ダビが振り返り、歩きはじめる。

林道にはダビの馬車がとまっていて、パピコの落とした籠が荷台に載っていた。荷台にパピコを乗せると、ゆっくりと家に向かう。


「お前の歩けない方の弟が、林の中にいるお前を急いでみつけろ、と言ってきた。」


ダビがそう言うと、パピコはびっくりした。


「ピコタンが、しゃべったの?」
「そうだ。」
「まさか・・・!」


ポコッスは面白い冗談を言って、みんなを笑わせてくれるが、ピコタンはいつもニコニコしているだけだった。笑い声や泣き声は聞いたことがあるが、言葉を発したことはない。こちらの言葉を理解しているから、耳は聞こえるんだなと思っていた。
ダビも表情には出さなかったが驚いて「お前、しゃべれたのか。」と言った。


パピコには、ダビが笑ったように見えた。
いつもは険しい顔で目をギョロつかせて威圧的だ。話しかけるのすら恐かったが、今日は大丈夫。


「ダビさん、助けてくれてありがとう。」
パピコは感謝の言葉を言えたが、またあの恐怖がよみがえって泣いてしまった。


ダビは、この不自由な娘が、これから先も男たちにいいようにされるような気がした。
まだ15、6才の子供だ。
傷痕のない右半分の顔はとても美しかった。柔らかな金色の髪に、初夏の光をあびた新緑のようなグリーンアイズ。
あまり外に出ない肌は透きとおるように白く、まろみをおびた乳房と太股、下生えはうっすらとしかなかった。


憐れに思う気持ちと、欲情している自分に憤る気持ち。ダビは、パピコの顔を見ないようにした。
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