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ケイトについて 5

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「いるよ。女の子。とても、かわいいの。」
彼女の顔がおだやかになった。腐っても母親なのか。

くしゃくしゃの写真を見せてもらう。おばあちゃんに抱かれている小さな子供。
「1年間だけママにお願いしたの。通訳になりたいから。」
なるほど。だから彼女はクリスとも日本語でしゃべっていた。勉強家だ。
「ママにはすごい助けてもらってる。」彼女はしみじみ言った。


「他の国の言葉もしゃべれる?」と聞くと、
「もともと広東語はしゃべれる。フランス語と簡単な日常会話ならスペイン語も。」と答えた。

驚いた。ずいぶん優秀だ。俺なんか英語もうまくしゃべれないのに。
俺の感心した様子をみて、ケイトは気分を良くしたようだ。
「飲み物とってくる。」と言ってキッチンの方へいった。

しばらくして酒瓶を手に戻ってきた。
「・・・俺は酒は飲めない」
「知ってるよ。」
そう言ったくせに彼女は酒を口に含み、俺にキスをして口内にアルコールを流し込んだ。


結局、俺は彼女を受け入れた。
俺が服を脱いだときの、彼女のあの勝ち誇った顔。今思い出しても、まったく不愉快この上ない。

もういいか。彼氏よりも彼女の方が都合がいいし。対外的に隠す必要もない。それに期間限定だ。そう軽く考えていた。


ケイトは俺をあちこちのクラブに連れ回した。人に会うたびに「私の彼氏なの。」と紹介する。
紹介したあとは、たいてい俺を放置してどこかで誰かとしゃべっていた。
気を遣って俺に話しかけてくれる彼女の友人もいたが、もともと一人でぼんやりしている方が好きだから気にならない。
しかし、連日のクラブ通いにはうんざりしていた。

外に出ようとすると、数人が「ケイトがまだ戻ってきてないから。」と俺を引き止める。親衛隊かなにかか?うさんくさい。

セックスも面倒だった。ケイトは必ずポルノを観たがる。やたらとモノがでかい男のとか、白人女に黒人男とか、乱交ものとか。俺はだんだん白けてきて勃たなくなった。まともにしたのは最初の二回だけだ。
トレイシー・ローズとレオフォードは、ビデオを持ち帰りたいくらい気に入ったが。


一回だけ、ケイトが手料理をごちそうしてくれたことがあった。鶏肉とタマネギと人参、セロリやほうれん草が入ったシチュー。味はうまかったが、そのあと「金を貸してほしい。」と言い出した。

俺は家賃と学費を親に払ってもらっているアルバイト学生だ。金持ちではない。
「このままだと家賃が払えないの。」と彼女が言った。「給料をもらったらすぐ返すから。」慌てて言い足す。

そろそろ別れどきか・・・、そう思い彼女に3万円を渡す。


そうして俺は彼女と会うのをやめた。 
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