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加減について

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とう子さんの家にはじめて行ったその日は、クリスマスだった。

仕事はめちゃくちゃ忙しくて、当然休みではなかったが、一緒に寝たいとお願いしたら「うちくる?」と言われた。


ロフト付きワンルームで、予想してた通りキッチンは広め。忙しいなか無理を言ったのに、ごちそうを作ってくれていた。

ローテーブルに並べられたのはビーフシチューとサラダ、そして小さくて丸い色鮮やかな、おにぎり?寿司?

「手毬寿司って言うの。洋食と和食ごちゃ混ぜになっちゃってごめんね。うちでは、おもてなし料理っていつもこれで・・・」


しまった。
刺身が嫌いって言ってなかった・・・

社会人になって食えるようにはなったが、嫌いなことには変わりなく・・・

海老はボイルだから大丈夫。鯛と鮭?
ああっ!桜でんぶは食えねえ~、ピンクがゾッとする。
逃げ場は絹さやと玉子だな・・・

「よし君?」
「あっ、はい!」
「もしかして、苦手だった?」
「いや、感動して・・・。とう子さんは料理上手ですね」
「敬語になってるよ。」
「・・・・・・」
「あははっ、フランスパンもあるよ?ごま付きの。」
「・・・・・・両方たべる」
「無理しなくていいのに~。」

食べられる具材をピックアップして、残りは皿に飾る。

「でも、すごく綺麗だね」
「でしょ?着物の柄をイメージしてみたの。」
「くす玉みたいって思った」


ころころキラキラの向こうに、微笑む彼女。
酢飯はお酢がほんのり香る程度で、ビーフシチューともよく合った。


デザートはレアチーズケーキだった。
「クリスマスっぽくないんだけど・・・時間が無くて。簡単に作れるから。」と申し訳なさそうにしていたが、自分が過去に食べたケーキのなかで一番おいしかったと思う。
前のチョコパウンドケーキも甘さ控えめでよかった。彼女らしい素朴でやさしい味。
紅茶ポットを揃えているのも、彼女らしさを感じる。


「とう子さん、これ、クリスマスプレゼント」
そっとテーブルに置く。

「わあ!ありがとう!」


プレゼントはプラチナの華奢なネックレスにした。トップには小粒の・・・


「えっ・・・これ・・・」
「・・・うん、ダイヤ」


彼女が固まっている。うーん。
やり過ぎなのは、わかってる。
まだ付き合って2カ月だ。
あ~、また怯えた顔、なんで?


ジュエリーの勉強もしたことがある木屋町に相談したら「俺のはゴテゴテ宝石だから~。ティファニーとかがいんじゃね?」と言われ、アクセサリーも扱う生活雑貨店に勤めている女友達に相談したら「ダイヤ・・・?すごいね。(重くない?)」と微妙な顔された・・・。


俺は今まで、誰かに身につけるものをプレゼントしたことがない。

はじめてだから、記念にダイヤモンド・・・
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