TSしてないのにTSしたと言われる男の受難

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〈高2 :1学期〉

10.桐崎が引っ越してきた

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 デート後の3日間は大学病院へ改めて親に連れて行かれた。知らないうちに前に受けた病院や他の病院に連絡していて、詳しい検査が受けられるように整えられていた。
 検査内容は被るものもあったが、親の心配が少しでも晴れるのならばと再度受けた。

 本当はデートに行くのも心配だったそうだが、性別が変化し精神的にもダメージを受けただろうから少しでもリフレッシュしてほしいと思っていたらしい。桐崎とも前の電話のときに連絡先を伝えてたそうで、何かあれば連絡をと念押ししてたそう。

 病院で今のところ健康体と改めて太鼓判を押されたので、また学校に通うようになった。
 桐崎の顔を見ると、デートの時の自分が思い出され、自分のチョロさ加減に頭を抱え、時に叫び出したい衝動を抑えながら日々を過ごした。いや、自室では叫んだ。耐えきれない。耐えきれない。
 一年以上、友人として過ごしていた記憶がちゃんとあり、その時は恋愛関係になる予知なんてなかったはずなのに、今は何故か迫られてるってなんだ。

 学校ではまともにヤツの顔を見れなくて、「意識してくれた?」と嬉しそうに聞かれたり、「もっといっぱいキスしたいなあ」と甘えられたりした。よく、教室でそんなセリフ吐けるな。
 近くを通ったクラスメイトに3度見されて、「ファイト!」って応援されたときはトイレに逃げ込んだ。
 女から男になったと思われてるので、普段はバリアフリートイレに入るのに今日はテンパって男子トイレに入ったら、トイレに居た高橋に「やん、えっち」と言われ、表情筋が死んだ。

 去るも地獄残るも地獄とはこのことか。

「トイレの仕方分かんないんじゃない?教えよっか?」と続けて言われたが、高橋お前、俺が元々から男でよかったな。

 そして本日の土曜日、桐崎がうちに引っ越してきた。俺の隣の部屋である。

「本日からお世話になります」

 丁寧にうちの両親に頭を下げた桐崎。「実物の方がカッコいいわね」と感心する母。
 教室で顔を合わすのも気まずいのに、家に桐崎がいる。安住の地は無くなった。
 桐崎と目が合うと嬉しそうに微笑まれるが、バッと明後日の方を見てしまう。不味い。
 こちらの事情で桐崎に引っ越してきてもらった立場だし、ちゃんとおもてなしがしたいがどう振る舞えばいいか分からない。
 父は桐崎と俺の様子を見て何かあったのだと察した様子で云々うなづいていた。
 後から父にそっと部屋に呼び出され、「桐崎くんと一緒に暮らせそう?」と改めて聞かれたが、小さく頷くぐらいしかできなかった。

 その日の夜は出前の寿司を頼んだ。細やかな引っ越し祝いである。マグロ巻きが美味しかった。


***

 日曜日は細々とした足りないものを買い足しに、家族と桐崎とで行った。親は桐崎に何かプレゼントする気満々だったが、桐崎が断っていた。前から使ってるもので大丈夫だと。
 カーテンだけはサイズが合わなかったので、父が喜んでプレゼントしていた。いきなり引越しさせてしまったからと気にかけていたので、安心した様子であった。
 母からはニヤニヤしながらお揃いのマグカップがプレゼントされた。白地にクマの絵が描かれていた。この前のデートでクマの耳のカチューシャをつけていたことを思い出して顔が赤くなった。母はこれを狙っていたのかもしれない。

 家に帰ってから、桐崎はさっそくマグカップを使い始めた。「ふふ、ふふ、ふふふふ」と嬉しさが溢れ出してしまったように笑いながら飲んでるのを見て、少し気まずいような照れるような思いで俺もお揃いのマグカップでちびちびとお茶を飲んだ。

 翌日、親は外国に戻って行った。定期検診を欠かさないことと毎週連絡することを念押しされた。TS病のことも外国で情報収集してくれるらしい。自分がTS病だと信じきれないところがあったので申し訳ない気持ちになった。

 学校への登校中、なんだか心がモヤモヤするなあと思っていたら桐崎に顔を覗き込まれた。

「どうかした?」
「ん?ああいや、何でもない」
「何でもないって顔じゃないけどなあ」

 桐崎に頬を両手で包まれてウリウリと捏ねられた。

「なぁにすんだ、離せ」
「ふふ、変顔しても可愛いんだから」
「おまぇがしてるんだろ」
「なになに?可愛くてごめんない??」
「......」

 桐崎の頭の沸いた発言を聞いたせいで、さっきまで考えてたことがどうでもよくなってきた。
 はぁ、とため息を吐くと、桐崎に「大丈夫だよ」と抱きしめられた。

「大丈夫、そばに居るよ」
「.....」
「江本が嫌って言ってもそばに居るよ」
「...何だそれ...ストーカーにはなるなよ」
「江本次第だなあ」
「怖い怖い」
「...江本、そばに居てくれないの?」

 子犬みたいなウルウルした顔でこちらを覗き込まれた。お前、そんな可愛い顔を何処で習ったんだ。桐崎の顔にたじろいだ俺を見て、桐崎は笑いを堪えるような顔をした。

「江本、俺の顔に弱いよね」
「確信犯かよ」
「真っ赤な顔になっちゃって可愛いね」
「うるさいぞ」
「自慢して回りたいぐらい可愛いけど、他に見せたくないから1時間目さぼろ?」
「馬鹿、また子犬みたいな顔しても無駄だ。行くぞ」

 えぇ~、と不満をこぼす桐崎の腕を掴んで学校の方へ向かった。なんで意味分からんことで積極的にサボろうとしてんだこいつ。

「せめて恋人繋ぎ」
「バカ、恥ずかしいだろ」
「へぇ、恥ずかしいんだ。照れちゃうの?可愛いね」
「照れるわけないだろ」
「ふ~ん、じゃ繋いでみせて?」
「その手にはのらんぞ」
「なら、腕組んじゃお~」
「あ、おい。動きにくいだろ」

 桐崎はご機嫌な様子で、ふふ~ん♪と鼻歌まで歌い出した。俺と桐崎が腕を組んでると、周囲から見ると体格差で中々滑稽な姿をしてるんじゃないかと想像がついた。

 ん~~、と悩みに悩んだが、桐崎の手を掴んで恋人繋ぎをした。
 嫌がってた俺が恋人繋ぎを自分からしたので、桐崎はすぐに揶揄ってくるかと思ったが、嬉しそうにこちらを見た後、ギュッと指に力を入れて、スマホで恋人繋ぎをしている手の写真を撮った。
 桐崎の予想外の行動に頭が疑問でいっぱいになっていると、先ほど撮った写真を見せられた。

「恋人繋ぎの記念~」
「なんだそれ、今までも何回もしてただろ」
「江本からだから」

 桐崎はハニカミつつ、写真の俺の手の部分にキスをした。

「わ、バカ、わ、バカ」
「写真にキスしただけだよ?」
「俺の手だろうが!!」
「スマホのトプ画にしよう~」
「するな!」
「ふふ、いっぱいキスするね」
「するなってば!」

 桐崎が俺の手を持ち上げたと思ったら、手の甲にキスされ驚いて固まってると、親指から小指まで順番にキスされた。

「全部俺のっていう予約」
「ふ、普通、薬指だけだろうが」
「俺、欲張りだから江本の全部が欲しいの」

 いっぱい好きになって、と頬にまでキスされて、どうしてこうなったと混乱と恥ずかしさに戦慄いてると、正門あたりで立っている先生から声をかけられた。

「おーい!遅刻ギリギリにイチャイチャするんじゃない!!急げ!!」

 先生に見られてたとか意識を失ってしまいたい。放心状態になってると、桐崎が「やば、急ご!」と俺を急かしながら引っ張っていく。

 お前がイチャイチャモードに何でか入ったからだろ桐崎、と内心ぶつくさ言いながらも急いだ。
 顔がまだ赤かったようで、教室でクラスメイトに「顔赤いよ?大丈夫??」と心配された。
 桐崎が平然とした顔で「俺とイチャイチャしてたから」と言うと、ニヤニヤとした顔で「朝からイチャイチャは程々にしろよ」と笑われた。

 桐崎の背中を無言で叩いてから、席に着いた。思いもよらない攻撃に少し咽せている桐崎はいい気味だ。

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