TSしてないのにTSしたと言われる男の受難

文字の大きさ
12 / 16
〈高2 :1学期〉

12.吉沢と昼ご飯

しおりを挟む
 布団に潜った後、そのまま寝てしまったみたいで起きたのは夜中だった。パンツがカピカピで変に張り付く感じが嫌ですぐ履き替えた。
 グ~となるお腹とともにリビングに行くと、テーブルの上にメモが置いてあって、桐崎の字で『起こしたけどぐっすり寝てたから、ご飯は冷蔵庫に入れたよ。温かくして食べてね』と書いてあった。
 お前人にあんだけのことしといて平然としやがってこの野郎、となんとも言えない感じがしたが、ご飯を作ってくれたことには感謝しかなかった。

 冷蔵庫の中を見ると、ご飯とシャケとレタスが盛られたプレートが入ってた。横にコーンスープもある。
 今から全部食べるのはキツイかもと思い、ご飯は移し替えてお茶漬けにして、あとはシャケを少し食べた。美味しい。温かくしたコーンスープを飲むとまた眠くなってきて、サッとシャワーを浴びてから寝た。残りのご飯は明日の朝に食べることにした。


***

 朝起きると家に桐崎が居なかった。

 リビングに昨日とは違う新しいメモが置いてあって、桐崎の字で『おはよ。今日から朝練で先に行くね。寝顔可愛いね』と最後要らんことを書いたメモがあった。人の部屋に勝手に侵入するな。
 サッカー部の朝練自体、俺のことを心配して桐崎は最近行ったり行かなかったりしてたので、一昨日には明後日から朝練を毎日行くようになると聞いていたがホッとした。
 桐崎に好きなことを我慢させるのもサッカー部に迷惑をかけるのも申し訳なかったのだ。
 昨日はサッカー部でのチームメイト同士の仲の良さを見てホッとしたぐらいであった。

 昨日の残りのご飯とバナナやらなんやら食べつつ、学校に向かった。
 今日からは一人かあと思ってると、何だか寂しい感じがした。気のせい気のせいと思いたいけど、昨日までが濃厚すぎたせいだよなと考えているうちに昨日の夜のことまで思い出しそうになって顔を振った。思い出すな俺。

 教室に着くと、まだ桐崎は朝練が終わってないようで教室に来ていなかった。吉沢がこちらに気づき「おはよ~」と声をかけてきた。

「おはよ」
「桐崎は朝練?」
「そうだけど、なんか用事あったの?」
「ん~あのさ、今日お昼一緒に食べない?私と江本との2人で」
「んん?...いいけど」
「やったあ!桐崎いるとさ、めっちゃ牽制してくるからなかなか誘えなかったのよね」
「牽制??」
「ほら、江本に近づくなオーラというか」
「え、あいつそんなん出してんの」

 全く気づかなかった。あいつ何してんだ。

「気づいてなかったの??江本に好き好きオーラと他の人には江本に近づくなオーラを器用に使ってんのよあいつ」
「ヤバいやつだな」
「ヤバいわよ」

 最終的に桐崎がヤバいやつだと判明したところで、本人が登場した。

「江本~~おはよ~~あ~可愛い~~」
「おはよ桐崎。ヤバいな」

 ついヤバい奴発言をしてしまった。でもヤバいぞお前。そんなこと言いながらサラッと人のこと抱きしめるな。挨拶でハグの文化は日本にないだろうが。
 なんか昨日のことがあるので、また目を合わせられなくなるかと思ってたけど、吉沢に流されたのか普通に喋れるわ。

「ほら~~言った通りでしょ。というか、江本以外は眼中にないってか~~!??透明人間になった気分。悪戯するぞ」
「おはよ吉沢」
「ほら見て江本。これがこいつの本性よ」

 はぁ、と吉沢が態とらしく嘆きつつ顔を振った後、思い出したように桐崎の方を見た。

「あ、桐崎、今日の昼は江本借りるから!」
「は?」
「怖い怖い。でもこっちは桐崎対策はしてきた!!」

 桐崎対策とは??吉沢が真面目な顔で変なことを言い出したので戸惑っていると、俺の写真を数枚サッと桐崎に見せた。俺が男なのでここ最近に撮った様子であった。おい、俺に無断で撮ってんじゃんこれ。授業中に寝かけた写真とか勘弁して。

「これで成仏してね!桐崎!!」

 吉沢は桐崎の手にサッと写真を渡した後、逃げるように去って行った。
 吉沢は桐崎を悪霊かなんかかと思ってんのか。後、俺の写真はお札じゃない。
 桐崎はジッと写真を観察してる。怖い。何か言ってくれ。
 少し経ってから、へへ、と笑い写真を大事そうに懐に入れた。おい、やめろ。

「お昼寂しいけど楽しんできてね」
「賄賂を受け取るな」
「吉沢がせっかく成仏のために用意してくれたみたいだし?」
「お前は幽霊じゃないだろ」
「もし俺が霊なら江本の守護霊になっちゃうね?」
「俺以外、全方位攻撃型の悪霊になりそうだけど」
「俺、そんなに強そう??」

 話がマジで噛み合わない。朝から俺は何でこんなに疲れてるんだと思ってると、桐崎が手を繋いできた。

「話戻すけどさ、寂しいから明日からはまた俺と食べようね?」
「んんん、分かったよ」
「サッカー部に入ったのは俺の意志だけど、登下校が一緒にできないのも寂しい」
「でも今は家一緒だろ」
「それ自体はめちゃくちゃ嬉しい」

 偶々近くに居た丸刈り頭のクラスメイトから「???お前ら同棲してんの???」と聞かれた。なんでそんなピンポイントのところをしっかりと聞いてんだこいつ。

「住んでるよ~」
「え!?親公認??」
「そりゃもちろん」
「結婚式はいつ頃に??」
「高校卒業してからかなあ」
「早いですが、おめでとうございます」
「ありがとうございます」

 お互い丁寧にお辞儀する桐崎とクラスメイト。何してんだこいつら。横を通った別のクラスメイトが不思議そうな顔してるのに気づけ。2人の頭を叩き、この話はここで終わりだと思っていたが終わらなかった。

 どうやって隣のクラスまで話が届いたのか知らないが、3時間目の休憩時間に廊下を偶々すれ違った髙橋に「おめでとう!結婚式楽しみにしてる!!」と言われた。大声で言うなバカ。お前その上通る声してんだからな。
 高橋の発言のせいで廊下で多数の視線を浴びる目にあった、ちくしょう。

***

 朝食の時間になって吉沢に連れられて、中庭のベンチで食べることになった。
 吉沢が緊張している様子だったので話し始めるまで前にある小さな噴水を見ながらご飯を食べていると、決心がついた様子で話し始めた。

「あのさ、江本。なんていうかさ前に言ったことちゃんと伝え直したかったんだ」
「前に言ったこと?」

 吉沢は髪の毛を指先でクルクルしながら言葉を選ぶように言った。

「背が高くなったとか制服似合ってるって言ったの覚えてる?江本が一番混乱してるはずの時に私まで混乱してさ、あの時まっ先に言う言葉かって感じじゃん。あ、制服似合ってんのはホントね。でも、今思い出しても恥ずかしいぐらい碌なこと言えなかったなあって」
「そんなことないよ」
「そんなことあるよ」

 本当にそんなことないんだけどな。俺マジであの時は状況分からなくて、吉沢の言葉の意味が全く分かってなかったのが申し訳ないぐらいだ。
 そういえば、バタバタしててあの時のお礼、ちゃんと言えてなかったな。

「あのさ、あの時ちゃんと言うべきだったのに今更になってごめんな。吉沢、ありがとう。自分は味方だからって言ってくれて」
「それは、当たり前じゃん」
「当たり前じゃないだろ。みんなを混乱させたし、桐崎だって相当混乱してたよ」
「...そっか」
「そうだよ」

 吉沢はポロポロと涙を流し始めた。

「江本。私ね、江本のこと大事な友達だと思ってる。今の江本は前とちょっと雰囲気変わったよね。それならそれでさ、今の江本のこといっぱい知っていきたいし、私も日々バージョンアップしてるから江本にいっぱい知ってほしい」
「....ありがとう吉沢。これからもいっぱい喋ろうな」
「うんっ、うん」

 吉沢と女の時の俺は相当仲良かったのかもしれないな。俺の記憶の中の吉沢との関係でも友人だったが、ここまで想われるほどの関係じゃなかったと思う。
 女の時の俺に聞かせてやりたい言葉の数々に、空を見上げながら吉沢に気づかれないように小さくため息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...