小話まとめ(ファンタジー)

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2024

痛々しい男の話

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 特定の他人への思いを消したいというやつは、案外五万といるものでこの商売はよく儲かる。
 人間がいる限り、需要が途切れることなくあるのでありがたい話である。
 俺の店は本人が来て願わないと叶わないので、他の人間への被害はなく、安心安全な商売なのだ。

 その中でも俺の店には常連がいる。そろそろまた来るだろうと考えていると、店の玄関につけているベルが高い音を鳴らし、来客を知らせてきた。

 この国の輝ける太陽の王子がご来店された。

 本来、太陽というのは王を指す言葉で王子とは言え不敬に当たるのだが、当の王が王子を溺愛し、太陽の王子だなどと頭が湧いているから、こう呼ばれている。

 王子は他人にあまり興味がない俺でも知っているぐらい有名なやつだった。何せイケメンだから、新聞に良く乗った。

 新聞の見出しはこうだ。文武両道、眉目秀麗、太陽の如く輝く笑顔、我が王国の光‼︎

 初めてこの見出しを見た時はこの新聞社はもうダメだなと思った。王家に買収されたと。
 この新聞社、気に入ってたんだけどなとため息をついて購読を止めた。
 しばらく経ってから新聞社の社員に熱心な王子フリークがいたらしく布教活動に励んでいたのだと風の噂で聞いた。迷惑な話であった。個人でしろ。

 まあ、そんな王子が俺の店の常連になった訳があるわけで。よくある恋心ってやつだ。
 この店に来る中でも可愛い分類だと思うのだけれど、王子はいつも切羽詰まった表情でくる。今にもはち切れんばかりだ。

 毎回、同じ人間に恋をして諦めきれずにこの店にくる。
 王子という役割がこんなにも不憫だと思う日がくるなんて俺も今まで考えたことがなかった。

 隣の国の馬鹿王子は舞踏会で浮気相手をエスコートした挙句、その場で婚約破棄して幽閉されたので、うちの王子とは天と地の差があるが。
 あの時は阿呆だなと思ったが、その後、婚約破棄された令嬢が来て、恋心を消してほしいと頼みに来た時は可哀想だった。綺麗さっぱり無くしてやった。
 令嬢は、もっと早くこれば良かったわ、と笑顔で帰っていた。

 話を戻すが、うちの王子はなんと毎回一目惚れして苦しんだ挙句、来店する。惹かれずにいられないらしい。
 あまりにも来るので、人には好みがあるからしょうがないんじゃ、とか、時間が恋心をなくしてくれるかもよ、と言っても聞かない。

 俺は値段分の仕事をするだけであった。

 俺の店は、透明なビー玉に消したい想いを詰め込むという方法で商売をしている。
 こうすると、なんせビー玉に味が出る。人の想いというのは千差万別で輝きが異なりうっとりするからだ。

 王子は同じ相手に恋をしているはずなのに、毎回違う輝きのビー玉を作り上げた。
 ビー玉が発光したり、ピンクになったり、黒になったり、透明なままの時もある。黒でも薄い黒であったり、どす黒い色であった時は王子の情緒を心配したものだった。この色は相手に酷く執着したときのものだからだ。

 よくぞこの色をもちながら、この店まで来たなと拍手喝采を送りそうになった。王子の理性の大勝利である。

 何年経っても俺の店に来るやつなんて、今までいたことがなかったのに可哀想なやつだなと毎回思うが、王子はまたこの国の輝ける太陽になるためにこの店に来店して帰って行くのだった。
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