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バンダルの地下迷宮
2
召喚士の館の地下室には薄明かりしかなく、淫臭が蒸れこもっていた。淫香は感じない。ただ熱がある。熱い。
床に描かれた魔法陣のほぼ中央に全裸の男がふたり、絡まり合って交わっている最中だ。
床に這い、息も絶え絶えによがっている男の肌は浅黒く、長めの髪も濃い茶色だ。ジェラルドが雇った召喚士で間違いない。
腰を振り、召喚士の胎を抉っている男は赤毛で、たくましい体つきをしている。こちらは見覚えがない。
「ほら、ね?」
イドル・リリーがイタズラした子猫のような顔でジェラルドを見上げた。
「気持ちよさそうですねえ」
ふふふ、と、イドル・リリーが笑った。
そのまま軽やかに浮き上がり、魔法陣の真上まで。そこで見えない玉座に腰掛け、足を組んだ。
抉られ、善がっている男が緩慢に顔を上げた。
「……ぁあ? ぃひいっあっ!」
召喚士が淫欲に染まって緩み切った顔を真っ青にして、耳障りに鳴いた。
「すっげー締まった! いいね、気持ちイイ? このへんはどう? あ、リリ様!」
召喚士の尻を攻めていた男も顔をあげた。
こちらはずっと楽しげだ。
「こんにちは、ズー。励んでいますね」
「はい! この人間、近頃のお得意様なんですよ」
「そうでしたか」
イドル・リリーは男の名を呼んだ。状況から見て、イドル・リリーの配下の淫魔なのだろう。とすれば、ズーはジェラルドの同輩、あるいは先輩と見なすべきである。
ジェラルドは魔王イドル・リリーの騎士だ。未だに名を受け取って貰えていないが、そこだけは譲れない。唯一の主はイドル・リリーだ。
「どうぞ続けて」
「はい! リリ様がご覧になってるよ。派手に気持ちよくなろうね」
淫魔ズーは召喚士の腰を掴んで引き寄せて、背にぴったりとくっついて言った。耳元で囁かれて感じたのか、召喚士が大袈裟なくらい震えた。床についていなければ倒れたかもしれない。体を支えているはずの肘も膝も壊れたみたいに揺れている。
相当気持ちいいらしい。
淫魔が腰を揺らし、小刻みに揺さぶりだした。前後に上下に、斜めに。その上、背から回した手指で、召喚士の胸も弄りだした。熟れた乳首は男にしては大粒だ。
近頃のジェラルドは乳首でも深く感じ入れるようになった。
ブドウの実を皮から出すように剥き出された先端に、一際感じるところがあるのだ。そこを舐めたり、吸われたり、指の腹で叩かれたりするとたまらなく善い。爪の先で抉られるのも。
ジェラルドは鼻から息を漏らして、こっそり唾を飲んだ。
淫魔が体を起こした。もちろん繋がったままだから、召喚士の体がよく見えるようになった。
背面から穿たれると奥の奥まで届くから、内腑全部が沸るように善い。腹の奥のほうにある善いところを擦られ、揺すぶられる悦は総毛立つほどに大きい。
召喚士の、項垂れたままの男根が涎を垂らしながらびくついた。勃たないまま極める悦がじわりと蘇る。
口の中が干上がりそうだ。
ジェラルドはぐっと歯を食いしばり、イドル・リリーのつま先を見つめた。
浮かんで座っているイドル・リリーのつま先が、ちょうどジェラルドの目の高さにある。わずかな砂埃もついていないサンダルと、整った足の爪。白く、滑らかな肌。
せめて、口に含んで舐め吸いたい。しゃぶりたい。ほっそりとした爪先、ジェラルドなら飲み込めそうなほどに細い。
そうしたら、この爪が喉にある、善いところを。
淫心が沸き立ち、煮える。
ジェラルドは下腹に力を入れて堪えた。そうすると、尻の中側にある男の泣きどころを圧することができて、頼りないながらも悦が得られる。腰が少し揺れた。
あがりそうになった息を詰めると、物欲しげに喉が鳴った。
「なるほど。大したものですねえ」
イドル・リリーが上機嫌に笑う。あぁ。
果てたらしい淫魔が、召喚士からゆっくり体を離した。
支えを失った召喚士は前のめりに床に突っ伏した。突きあがった尻、ぽっかりと開いた穴から濁った体液が溢れて滴っている。
「己が果てる力で淫魔の放った精を胎に貯め込む術法なんて、よく考えたものです」
優美に優雅に人間を見下ろし、魔王は続けた。
「まさか、わたしから上前をはねようっていう人間がいるとは思いませんでした。あなたは確か、『召喚士』様でしたっけね」
ジェラルドには魔術の素養はないから、イドル・リリーの言うことの詳細はわからない。だが、目の前の男が、イドル・リリーから何かを盗ったことだけは理解した。
ジェラルドは腰に提げている剣に手を掛けた。
「イドル様、御身に代わり下郎を処すお許しを」
「いけませんよ、騎士様」
イドル・リリーはジェラルドを見ないままで言った。
「この方は騎士様のお友達ですよね?」
「違います」
「あら。そうでしたか」
ふぅん、と首を傾げたイドル・リリーは、じっと召喚士を見下ろしている。金色の瞳がこちらを見てくれないことに焦れるが、今は我慢の時だ。
ジェラルドは剣から手を離さないまま、側に控えることにした。
まだ息が整わないでいる召喚士の体が浮きあがり、イドル・リリーの正面まで持ち上がった。魔王の権能なのだろう。召喚士は空中、何もないところに磔にされた格好だ。
「ど、どうか、お、お、ゆ、おゆるし……おゆるし、くだっ」
召喚士の声が中途で消えた。
「勝手に口を開かないで。あなたはわたしのモノを盗んだんですよ。他人のモノを勝手にもっていくのは罪ですよね? それとも、当世はそうでもない?」
「御身は何もお間違えではありません。その男は罪人です」
ジェラルドは静かに応えた。
いつの間にか、淫魔ズーはジェラルドの後ろにいた。控えて立つ姿は王に仕える者として大変好ましい。
この場で好ましくないのは召喚士だけだ。薄汚い人間め。
「面白い陣ですし、アーメイモが喜びそうな強欲ぶりです。これだから人間は面白くて」
召喚士の臍の下に魔法陣を浮き上がらせて笑うイドル・リリーは本当に楽しそうだ。
「対価に、あなたの名を貰うことにしましょうか」
薄い唇に笑みを浮かべたまま、魔王が言った。
召喚士が震えあがった。垂れた陰嚢が縮み上がるのが見えたのは、召喚士が磔刑のままだからだ。
「名乗りなさい」
イドル・リリーが指先を唇にあてた途端、召喚士が身悶えはじめた。
陰嚢は縮んだままなのに、男根が完全に勃ちあがっている。腰をひくつかせているが精はおろか、先走りの滑りも出ていない。
きっと、男の身の内側は快楽が荒れ狂っているのだろう。
うらやましくて吐きそうだになり、ジェラルドは歯を食いしばった。奥歯が軋む音がする。
だというのに、召喚士は涎と涙と鼻水を垂らしながら、首を横に振るばかりだ。
悪魔に名乗ってはいけない。名乗れば魂を奪われるから。ジェラルドにそう教えたのはこの召喚士だ。
実際、『魂を奪われる』というのがどういうことなのか、ジェラルドは知らない。イドル・リリーに絶対服従するようになるということなのなら、現状と何も変わらないし、魂を捧げることができるなら幸福でしかない。
ただひとつ、言えることがある。
イドル・リリーの命令を無視することは絶対に許されないということだ。
剣の柄を握り直したとき、魔王の金色の瞳がジェラルドを見た。
王の裁可を覆そうというのか。
視線に、そう問われた気がした。
ジェラルドは首を垂れ、その場に両膝を突いた。イドル・リリーが『いけません』と言ったのに逆らおうとしたのだ。
自分の思い上がった所業に怖気付いたし、消えてしまいたいほどの後悔に飲み込まれそうだった。
控えたジェラルドに笑み、イドル・リリーがまた召喚士に目をやった。召喚士は息も絶え絶えに悶えている。時々、白目を剥いているほどだ。
過ぎた快楽は苦痛になる。
今、イドル・リリーが召喚士に与えているのはそれだ。淫蕩の悦びではなく、罰。
その証拠に、召喚士の男根は真ん中から穂先のほうが大きく膨らみ、腫れ上がっている。幼子の腕くらいはありそうだ。何年も射精できずに苦しんだジェラルドでも至らなかった異様な形である。
あれは痛いに違いない。
「名乗り方もご存知でしょう?」
淫魔の王の声が、地下室に冷たく響く。
ひぃっと喉が潰れるような息を吸い、召喚士が口の端に泡を吹いた。
「わ、わが、名は、ク・ンクルマ、われ、の、すべ、て、を、実らぬ、麦、の、穂、いどる・りりー、さ、まに、ささげ、ます……っ!」
「受け取りましょう。ク・ンクルマ」
イドル・リリーが頷くと、召喚士の体が黒い光に覆われた。
そして絶叫。
引き裂かれんばかりの悲鳴は人間の声とは思えないほどの激しさだ。
が、ジェラルドの耳には、その声の中に少なくない喜悦が含まれているように聞こえた。
召喚士をズーに任せ、イドル・リリーは「帰りましょう」と言った。ジェラルドに否はない。
「騎士様にはご褒美をあげないと」
「私に、ですか?」
狭い小さな小屋としか言えない家に戻るなり、イドル・リリーが言った。さっさと迷いもなく寝台へ向かい、ジェラルドを手招きしてくれる。
褒美を貰うような覚えはないが、目の前にいるのは誘惑そのものだ。ジェラルドに逆らえるはずもない。腹の淫紋が疼いて震えている。
ジェラルドは寝台の側に両膝をつき、寝そべった魔王を見上げた。
薄い唇から舌先をちらりと見せたイドル・リリーは美しく、妖しい。まだ日もある頃だというのに、寝室は夜だ。輝いているのは、イドル・リリーの金色の瞳のみ。
「蕩けるように美味な精気でしたよ、騎士様。あなたは他の人間の欲にも淫心を煽られるのですね」
楽しげに言われ、ジェラルドは羞恥に顔が熱くなった。
召喚士が善がる様に焦れていたのに気付かれていたのだ!
「ああいうのがお好みでしたか? あれでは苦しいほうが勝りますよ? ……あなたは優しくされるほうが好きだと思っていたのですけれど」
「いいえ! 御身は何も間違っていません」
ジェラルドは寝台に手をつき、取りすがった。
「私は召喚士の痴態を目の当たりにして、御身に愛でられることばかり考えておりました」
「どのようなことを考えて?」
骨のような指先が伸びてきて、ジェラルドの手に触れた。
指をなぞり、指の股をくすぐられただけで、体に火がつきそうになる。
「イドル、様の、指を……舐めしゃぶることを」
「指ですか。こう?」
イドル・リリーが身を伸ばし、ジェラルドに顔を近づけ、指の腹で唇を撫でる。
「いいえ、足の指を。口いっぱいに頬張り、喉までお迎えすることを、考えておりました」
ジェラルドは指にくちづけ、主を見つめた。
己の目が媚びていることはわかっている。騎士にあるまじき媚態。だが止められない。イドル・リリーに触れられたいし、できれば、細い体を抱きしめたいと思うのだ。
イドル・リリーは体勢を変え、寝台に寝そべり直した。サンダルを脱ぎ捨てた爪先が、ジェラルドの目の前に差し出された。
「どうぞ。思うようになさって、騎士様」
「ありがたき幸せです、イドル様」
ジェラルドは真っ白なイドル・リリーの両足を手のひらに捧げるように持ち上げ、口付けし、両方の親指を口の中に迎え入れた。
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