北の大地

ゆきまる

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ウスケシ

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村人が浜で気を失っているセイを見つける。
コタンA[おい。人が倒れてるぞ。]

騒がしい声に薄目を開けるセイ。
コタンB「早くミナ様の所に連れて行け。」

視界がだんだん閉じてくる。

〇ミナのチセの中(12時ごろ)/1456年7月

ガバッと起き上がるセイ。

辺りをキョロキョロする。
セイ「ここはどこだ。」

壁に飾ってあるアイヌの伝統的な服を見つめる。

布団(熊の革)をどかして、壁に飾ってある服の方に近づく。
セイ「レラの家にあった服と似てる…。」

部屋を開けるミナ。
ミナ「起きていたのか。(OFF)」

ミナの方をじっと見て警戒するセイ。

笑顔で近づくミナ。
ミナ「そんな警戒するな。取って食ったり、毛皮にしたりはしない」

  驚いた表情でミナを見つめる。

  机にお水を置くミナ。
ミナ「よく眠れたか?」

  うなずくセイ。
セイ「お陰様で」

安堵の表情を浮かべるミナ。
ミナ「そうだ。君に3人ウェンカムイ(悪霊)が憑いていたから
   祓っておいたよ。」
セイ「え?」
シャナ「ミナ様。患者様がいらっしゃいました(OFF)」

部屋の前に立つシャナ。
ミナ「わかった。すぐ向かう」

お辞儀をして部屋を去るシャナ。
セイ「お前は医者なのか?」
ミナ「医者と言えばそうだが…。知りたかったら私について来るといい。」

部屋を出るミナ。

お水を一気に飲んでミナの後を追うセイ。

〇ミナの部屋の隣の医務室

骨折して右足首が異様に曲がってる子供Aが足を伸ばし座っている。

骨折した部分が紫色に腫れ上がって、血だらけの足。

心配そうに見つめる母A。

子供Aの前に座るミナ。

ミナの後ろで見つめるセイ。
母A「木に登っていたら足を滑らせてしまって。」
ミナ「あぁ。これはひどいね。」

泣くのを我慢する子供A。
子供A「痛い…。(苦しそうに)」
ミナ「すぐに治してやるから、少しだけ我慢するんだ。」

骨折した部分に片手を添えるミナ。

目をつむり黙る。

骨折した部分の徐々に腫れが治おり、元の形に戻る。

驚くセイ。

骨折した部分が完全に治る。

目を開け、手を引込めるミナ。
ミナ「終わったよ。足を動かしてみな。」

恐る恐る足首を動かす子供A。
子供A「痛くない…。痛くないです。」

嬉しそうに足首を動かす。

母A「ああ。ミナ様。ありがとうございます。」

拝みながら頭を下げる母A。
子供A「ミナ様。ありがとうございます!」

笑顔で頭を下げる子供A。
ミナ「今度は気をつけるんだ」

子供Aの頭を撫でる。

ニッコリ笑う子供A。

〇チセの外

ミナに手を振る子供A。

頭を下げて家へと向かう親子たち。

手を振り返すミナ。

ミナ「シャナ。この後皆をチセの集めて、セイの紹介をしようと思うんだ。」
シャナ「今、コシャマイン様たちはユク(鹿)狩りに言っておりますので、
    帰ってきたら、お伝えいたします」
ミナ「よろしく頼んだ」
________________________________
〇ミナの部屋

部屋に入るミナとセイ。

床に座るミナ。
ミナ「座って話そうではないか。」

床に座るセイ。

辺りをキョロキョロするセイ。

珍しい数々の装飾品。
ミナ「珍しいか?」
セイ「この模様の服は親友の家にあった」
ミナ「ほう。それは珍しい」
セイ「親友の父がウスケシという地域に住んでいたと聞いた」
ミナ「ウスケシはここのことだが」
セイ「…。そうか。辿り着けたのか」
ミナ「でも珍しいな。そっちに住むものはあまりないのだが」

 黙るセイ。
セイ「さっきの治療、凄い力だな。奇跡だな」
ミナ「…。」

爆笑するミナ。
ミナ「奇跡か…。そんなことはない。ちゃんと代償はある」
セイ「代償…」

自分を指さすミナ。
ミナ「それは、力を使うたびに自分の身体が衰えていくことだ」
セイ「…」
ミナ「私の右耳は聞こえない。左目はもう視えない」
セイ「そんな代償を払ってまでもなぜ治療をするんだ」
ミナ「…少し昔話をしようか」

ミナ「元々私は、別のコタン…。村に住んでいたんだ。
   私の村は、他の村とも離れていて、川からも遠かったから私たち家族しか
   住んでいなかった。それでも、何不自由なく暮らしていた。
   でも、ある時アチャ…。父がカムイタシュム(天然痘)になった」
__________________________________
〇ミナの過去回想

〇ミナの昔住んでいたコタン/チセの中

  5歳のミナと母親が天然痘で伏せている父親の体を仙台蕪の
  煮汁で拭く。

  窓に行者ニンニクが掲げてある。
ミナ幼「アチャ…(泣きそうな顔)」
ミナ父「心配するな。大丈夫だ」
ミナ母「アチャは強いし、ミナが毎日看病してくれてるで、絶対負けないよ」
ミナ幼「…うん」
ミナN「それでも父の病状は治らなかった」

〇海/2か月後

ミナ父「行ってくるよ」

父を抱きしめるミナ。
ミナ父「すぐに戻ってくるよ。」
  
   うなずくミナ。
ミナ父「しばらくの間任せっきりにしてごめんな」
ミナ母「大丈夫。だからパコロカムイにみつからずに早く帰ってきて」

  うなずくミナ父。

  船を漕ぐミナ父を見つめる2人の後ろ姿。
ミナN「あれっきり父が帰ってくることはなかった。そしてほどなくして
    母もカムイタシュムで倒れた」
________________________________
〇ミナの昔住んでいたコタン

チセで寝込むミナ母。

  薬草をチセの中に運ぶミナ。

  半年後。

  母親の墓の前で手を合わせるミナ。

  薬草を集め、研究するミナ。

〇同/母親が死んで3年

  薬草を集めるミナ。

コシャマイン「こんな所で一人で暮らしているのか。(OFF)」

  振り向くミナ。

  コシャマインがミナのことを見下ろしている。
ミナ幼「アチャとハポ(お父さんとお母さん)は死にました」
コシャマイン「それは大変だったな」
ミナ幼「…」
  
   ミナの持っている薬草を見る。

コシャマイン「それは…」
ミナ幼「これは、ヨモギの葉とウドの根、蕗の根です。すりつぶして切り傷に
    塗ります」
コシャマイン「小さいのに、薬草にとても詳しいのだな」
ミナ幼「アチャがとても詳しかったので。あとは色んな薬草を使ってどんな効果があるか試したりしました」
コシャマイン「凄いな…。どうだ。私のコタンに来ないか。薬草に詳しかった
       アチャポ(おじさん)が死んでしまって。
       誰も薬草に関して教えて貰ってなかったから、困っていたんだ。
私と一緒に来れば君だけのチセも用意できるし、
食料の心配も要らない。
       それにそんなみすぼらしいルウンぺ(伝統衣装)だと亡くなった
       アチャもハポも君を守っているカムイも泣くだろう」

  自分のみすぼらしいルウンぺを見るミナ。
コシャマイン「どうかな?」

  うなずくミナ。
ミナ幼「行きます」

  満面の笑みを見せるコシャマイン。
コシャマイン「歓迎するよ」

  用意が終わり、ヌサ(御座)の前で祈るミナ。
ミナ幼「行ってきます」

  ミナが立ち上がると風が吹く。

  手を差し伸べるコシャマイン。

  その手を取り、二人で歩き始める。

〇回想終わり
________________________________
〇同

ミナ「あのまま一人で居ても、嫁にも行けないし、私だけじゃ狩りも
   できず、野垂れ死んでいたかもしれない。
   コシャマイン様とこの村の皆には暖かく迎え入れてくれて本当に感謝
   しているんだ。それにシャナもコシャマイン様に拾われた身なんだよ。」
セイ「その時からその力は使えていたのか?」
ミナ「いいや。この力は、この村でもカムイタシュムが流行った時に、
   薬草だけではどうもできず、死にかけていく村の皆を見て、
   助けたいって思ったら、使えるようになっていた。
   パコロカムイに打ち勝ったんだって皆喜んでくれたよ」
セイ「村の人はミナが代償を払っているって知っているのか?」
ミナ「知らないと思う。でも私もこの力を使うのは、重い病気や
重度の怪我にしか使ってない。だから、大丈夫だ」
セイ「…」
ミナ「そういえば名を聞いていなかったな」
セイ「聟(セイ)」
ミナ「セイ。よろしく。私はミナ。セイらの言葉で笑うという意味だ。
   私の笑顔が好きだったから、この名前を両親が付けてくれたんだ。」

ニッコリ笑うミナ。
セイ「確かに。」
シャナ「ミナ様。皆様帰ってこられました」
ミナ「ありがとう。セイ。行こうか」
セイ「うん」
 
   部屋を出る二人。
___________________________________
〇コシャマインのチセ/夜

  コシャマインのチセの中に入るミナとセイ。
ミナ「コシャマイン様。お待たせいたしました」
  
   コシャマイン含め、村人全員が炉を囲む。
コシャマイン「おお。元気そうで良かった」
セイ「助けて頂き、ありがとうございました」

  お辞儀をするセイ。
コシャマイン「私は、コシャマイン。隣が私の妻のヒシルエ」
  
   微笑むヒシルエ。
コシャマイン「こっちが息子のウタリアン」
ウタリアン「ウアムキリアンナ」

   きょとんとするセイ。
ミナ「よろしくって」
セイ「よろしく」
コシャマイン「ここのコタンは、私たち一族と身寄りのない者と一緒に
       暮らしているんだ。セイも暫くの間ここにいると良い。
       なんならここでずっと過ごしても良いからな」
セイ「お氣遣いありがとうございます。皆さん。よろしくお願いします」

  皆に向かってお辞儀をするセイ。

  微笑む村人たち。
 窯で温めたウレハル(熊の足裏の肉)を器に入れ、セイに渡す
   コシャマイン。
コシャマイン「これは、歓迎の印だ」

  器を受け取るセイ。
セイ「いただきます」

  食べたことない美味しい味に目を開くセイ。
セイ「とっても美味しいです」
コシャマイン「今年仕留めた熊のここ(足裏を指さす)だ。
       三日三晩煮込み続けるんだ」
ミナ「ウレハルはね。珍しいお客に振る舞うご馳走なの。
   キムンカムイが授けてくださった今年一番おいしいお肉だよ」

  味わって食べるセイ。
コシャマイン「そうだ。ヒシルエとミナ。サロルンリムセを
       やってあげたらどうだ」
ミナ「それは名案ですね」
ヒシルエ「みんな。準備しましょうかね」

  女性陣(10人)が一斉に立ち、準備をする。

  キョロキョロするセイ。

  ヒシルエ含めた4人とミナを含めた6人に分かれる。

ヒシルエが鶴の声の真似をする(その他手拍子)。

ミナ達が二重に着たルウンぺを鶴の羽のように動かす。

ヒシルエ達が、歌い始める。

サロルンリムセを始める。

見入るセイ。

コシャマイン「どうだ?美しいだろ」
セイ「はい…。とっても」

  その後20秒ほどサロルンリムセを行い、フェードアウト。

〇同
  皆の笑い声。

  ご飯を食べながら笑い合う皆(お膳でもてなされている)。
コシャマイン「そういえば、セイは何でこんな所に来たんだ。」
セイ「死んだ親友の父がここから来たと聞いて、親友が見るはずだった景色を
   見たくて来ました」
コシャマイン「商いでくるシサㇺは多いが、セイみたいなシサㇺは珍しくてな。
       素敵な理由だな」
セイ「ありがとうございます。でも、本当は親友と来たかったです」
ミナ「…」
  
部屋の奥から取ってきたルウンペをセイに渡す。
コシャマイン「昨日完成したんだ。これを着なさい」

  受け取り、ルウンペを着るセイ。
コシャマイン「これでお前もアイヌだ」
セイ「ありがとうございます」
  
〇コシャマインのチセの外

コタン子供達「コシャマイン様たちアプンノシニヤン!(おやすみなさい)」
コシャマイン「アプンノモコロヤン。みんな」

  手を振りそれぞれのチセに帰るコタンの子供たち。
ミナ「コシャマイン様アプンノシニヤン」
コシャマイン「アプンノモコロヤン」
コシャマイン「セイ。アプンノモコロヤン」
セイ「アプンノモコロヤン?」

  笑うコシャマイン達。
ミナ「セイ。アプンノシニヤン!(こそっと)」
セイ「あっアプンノシニヤン」

   手を振ってミナのチセに戻るミナとセイ。

  止まって後ろを振り返るセイ。

  コシャマインがチセの横の檻で飼われている子熊を撫でている。

  熊を見て身震いするセイ
ミナ「セイ?」
セイ「なんでもない。」

〇ミナのチセ

ミナ「セイ。アプンノモコロヤン」
セイ「さっき僕がコシャマイン様に言った言葉」
ミナ「あー(笑)コシャマイン様くらいの年齢の方に言うと、
死んでくださいって意味になっちゃうの」

くすくすと笑うミナ
セイ「…(頭を抱えながら)何てことを…」
ミナ「難しいよね(セイの頭を撫でる)」
セイ「…」

  赤面するセイ
ミナ「今日は楽しかった。最近シサㇺを警戒していたから、
   コシャマイン様がセイのことを気に入ってくれて良かったよ」
セイ「うん」
ミナ「アプンノモコロヤン。おやすみ」
セイ「おやすみ」

〇セイの部屋

  ルウンペを脱いで木で吊るす。

  床に寝る。

  ポケットからレラの形見を取り出し掲げてから胸に当てる。
セイ「レラ。ウスケシに来れたよ。ありがとう。そっちで元気にしてる?
   …。おやすみ。(小声で)」
ブラックアウト

〇コタン(朝9時頃)

  厠から出てくるセイ。
ウタリアン「セイ。(OFF)」

  狩りの道具一式を持ったウタリアンがセイを呼び止める。
セイ「えっと…」
ウタリアン「ウタリアンだよ。ウタリって呼んでくれ」
セイ「おはよう。ウタリ」
ウタリアン「一緒に狩りに行かないか?」
セイ「行きたい!」

  ニコッと笑い、弓と槍をセイに渡す。
ウタリアン「槍の先は毒が塗ってあるから気を付けて」
セイ「…」
ウタリアン「行こうか」

__________________________________
〇裾野付近

   木々をかき分けて登る2人。
  
  息が切れないセイ。
ウタリアン「セイ、息切れてないな」
セイ「少し疲れたけどね」
ウタリアン「もう少しだから」

  続けて登る2人。

  目印のあるところをウタリアンが通過。
ウタリアン「セイ、そこ仕掛けがあるから危ない…!」
セイ「え?」

  仕掛け矢が飛んでくる。

 くの字で避けるセイ。
ウタリアン「大丈夫か!」
セイ「…なんとか…」
ウタリアン「良かった…伝えるのが遅かったな。すまん」
セイ「ハハハ…」

  苦笑いをするセイ。

   再び登る2人。

〇同/鹿狩りスポット

ウタリアン「ここだ」

  足を止める2人。
ウタリアン「セイ。こっち」

  草むらに隠れ、息をひそめる二人(風下)。

  イパッケニ(鹿笛)を吹くウタリアン。

  しばらくすると、奥の方から雄鹿が、現れる。

  狙いを定めて、鹿の首に向かって矢を放つウタリアン。

  鹿を仕留める。
ウタリアン「…」

  鹿に近づき、弓を抜く。

  死んでいることを確認し、鹿を首に乗せる。
ウタリアン「次はセイ。ここにはもう鹿は来ないと思うから。こっち」

  別の場所に向かう二人。
  
   別の鹿スポットに到着(風下)。
ウタリアン「こっち」

  草むらに隠れる二人。
ウタリアン「セイ。これ吹いてみて」

  イパッケニ(鹿笛)を吹いてみるセイ。

  しばらくする角が顔面に下がった雄鹿が現れる。

  弓を構えるセイ。
ウタリアン「あれはダメだ。喰ったら體が溶ける」

   草むらから出て鹿を追い払う。
ウタリアン「残念だが、今日はこれくらいにしよう」

   山を下る二人。

〇コタンに近づいていく道中

ウタリアン「セイ(OFF)」

   歩みを止めるセイ。

  指を指すウタリアン。

  奥の方に白兎が草を食べている。
ウタリアン「いけるか?」
セイ「兎は得意」

  息を殺して兎に少しずつ近づくセイ。

  ある程度近づいて、弓を構えるセイ。

  兎の首元目掛けて弓を打つ。

  兎に弓が刺さる。
ウタリアン「セイ、すごいな!」

  兎から弓を引き抜く。
ウタリアン「大きいイセポだな。苦しまずに送れてやれてるし、
はじめてにしては上出来だ。」
セイ「ありがとう」

  微笑むウタリアン。
ウタリアン「帰ろうか」
__________________________________


〇コシャマインのコタン

  ミナたち女性陣が、貝包丁で粟や黍やヒエを採集している。
ウタリアン「おーい(OFF)」

   声のする方を振り返るミナ達。

  手を振るウタリアンと後ろを歩くセイ。
ミナ「ホシピアン(おかえり)」

  二人の方に走るミナ達 。
ウタリアン「見てくれ」

  セイが兎を見せる。
ミナ「大きい!」
ウタリアン「大きいエペッケ(兎)だろ」
ミナ「初めての狩りでエペッケ仕留めるなんて凄いなセイ」
セイ「兎は得意なんだ」

   褒められて照れるセイ。

  笑い合う皆。

〇同/食料保存チセ

  敷物の上に鹿を置くウタリアン。

  兎をその横に置くセイ。

  奥の方からイナウと酒を持ってきて供える。

  ぞろぞろとコタンの人達が集まってきて、お供え物を持ってくる。

  それぞれ座る。

  コシャマインがカムイノミをする(神に祈る)。

  終わって一斉に帰る。
コシャマイン「セイ。よくこんな大きいイセポ(兎)を獲れたな。
       初めてにしては上出来だ」

  セイの頭を撫でるコシャマイン。
セイ「ありがとうございます」

  チセを出るコシャマイン。
ウタリアン「はい(OFF)」

  セイにマキリ(小刀)を渡す。
ウタリアン「やったことあるか?」

   首を横に振るセイ。
ウタリアン「まずイセポ(兎)の解体からしよう」

  兎をつかむウタリアン。
ウタリアン「まずはここを(自分の首を指さし)マキリ(小刀)で切る」

  兎の首にマキリを入れ、切るセイ。

  血しぶきが上がる。
ウタリアン「切り方上手いな」
セイ「だいたい、どこを切ればいいかわかる」
ウタリアン「じゃあ次は皮を剥ごうか」

  解体して肉と皮に分けられた兎。
ウタリアン「次は鹿をやろう」

  鹿の角を切るセイ。
ウタリアン「鹿の角はあとでミナと所に持って行ってくれ。薬に使うんだ」
セイ「わかった」
ウタリアン「セイは、ここに来る前どういう生活をしていたんだ」
セイ「…物心ついた時には一人だったんだ。長く行き過ぎても
本当につまらない毎日で。だけど、レラって子に出会ってから、毎日が
本当に楽しかった。
毎日が色づいていた。レラといった場所、感じた感情、全部憶えている」

涙が流れるセイ。
セイ「ごめっ…」
ウタリアン「謝るな…。その子も幸せだな。セイにそんなに思われて」
セイ「…」
ウタリアン「辛いこと思い出させたよな。
      ここのコタンは親族がほとんどだから、シサㇺのコタンの生活に
      興味があって」
セイ「いや…久しぶりにレラとの思い出を思い出せて良かった」

  お互い微笑む二人。
セイ「そういえば、何でみんな日本語話せるの?」
ウタリアン「シサㇺとの交易が多いんだ。だから、小さい頃から日本語は
聞いていたし、交易でシサㇺと関わるようになって
自然と覚えていった」
セイ「そうなんだ。すごいな」

   笑い合う二人。

  ウタリアン、鹿肉を切る。
ウタリアン「はい。これ食べてみて」
セイ「う…。うん。いただきます。(こそっと)」
セイ「…!美味しい」
ウタリアン「だろ?シサムはあんまり肉を食べる習慣がないんだったよな」
セイ「うん…鹿は食べたことなかったから、今ので、すごい好きになった」
ウタリアン「それはよかった」

  笑い合う二人。

〇同/食料保存チセの外

ウタリアン「じゃあまたなあとで」
セイ「うん」

  お互いのチセに帰る。
_________________________________
〇ミナのチセ

セイ「ミナ~」

  返事がない。
セイ「ミナ~。鹿の角持ってきたけど…」

  奥の方で寝ているミナ。

  鹿の角を置く。

  少し寒そうにしているミナにルウンペを掛ける。

  頭を撫でる。

  自分の部屋に向かうセイ。

_________________________________
〇コシャマインのチセ(夜)

  食事の準備をしている村人たち
コタンC「あれ。ミナは?」
セイ「寝てます」
コタンD「そのまま寝かせてあげて」
セイ「…はい」

  囲炉裏を囲み、炉縁に食器を並べる。

  ヒシルエがみんなの食器をもらい、窯から食材を移す。
コシャマイン「ヒンナ(いただきます)」
皆「ヒンナ」

  ご飯を食べ始めるみんな。

  ご飯を食べるセイ。
セイ「…(考え込む)」
コシャマイン「その魚食べたことないだろ」
セイ「はい。はじめて食べます」
コシャマイン「これはシペといってカムイが我々に与えてくださった
       大切な魚なんだ。もうすぐ川に戻ってくる時期だから
       今回はセイも一緒に漁に行こうか」
セイ「はい。ぜひ」
ウタリアン「楽しみだな」
セイ「うん」

  ご飯を食べながら。
コシャマイン「今日、ウカゥ・シラㇽのやつから聞いたが、またシサㇺとの
       揉め事があったらしい」
ヒシルエ「またですか…」
セイ「何か揉め事があったのですか?」
コシャマイン「…数か月前にウカゥ・シラㇽのコタンでシサㇺとマキリの
切れ味で口論になって、殺された者がいたんだ。その後から、
他のコタンでも、シサㇺとの口論が後を絶たなくなって、
交易でシサㇺが制限したりしてきたんだ。
我々に必要な鉄や儀式に使う物、沢山の物をシサㇺに
頼っている。
不平等な条件にも我慢せざるを得ないが、度々こういう
口論が起きるんだ」
セイ「…」
コシャマイン「シサㇺに対する不信感が高まっているから、他のコタンに
       行くことがあれば、セイ。注意するように」
セイ「はい」
ウタリアン「もし、用事があれば言ってくれれば一緒に行こう」
セイ「ありがとう。ウタリ…」
〇コシャマインチセの外

   ミナの食事をもって、外にでるセイ。

  檻の中の熊を撫でる。

  ミナのチセに向かう。

〇ミナのチセ

セイ「ミナ~。起きてる?」

   起き上がるミナ。
ミナ「ごめん…もう、みんなご飯食べた?」
セイ「うん。ミナの分。食べれる?」
ミナ「うん。ありがとう」

  ご飯をゆっくり食べるミナ。
セイ「大丈夫か?」
ミナ「時々あるの。寝てればすぐ治るんだけど」
セイ「力の代償か?」
ミナ「多分そうだと思う」
セイ「…」
ミナ「そんなに氣を落とさないで。大丈夫だから」
セイ「うん…」
ミナ「そうだ。一緒にユー(温泉)に入らない?」
セイ「ユー?」
ミナ「あれ?ユー(温泉)じゃないの?暖かい水に入るでしょ?」
セイ「…湯?」
ミナ「多分そう!近くに湯があるから一緒に行かない?」
セイ「いいね」
ミナ「よいっしょ。(よろける)おとと」
セイ「大丈夫か!(ミナを支える)」
ミナ「寝すぎたかも。行こうか」
セイ「でも、まずこれ食べて性をつけて」
ミナ「ありがとう」

  ご飯を食べるミナ
_________________________________

〇温泉

  温泉のそばに、イナウと酒を捧げるミナ。
ミナ「ワッカウㇱカムイ エンキㇷ゚ヌイケㇱ(水の神様 私を助けてください)

  モレゥを着て、温泉に入るミナ。
ミナ「セイ。そのテパ(褌)を着たまま入ってきて」

  持っている新品の褌に履き替えて温泉につかるセイ。
セイ「はぁぁぁぁ」
ミナ「気持ちいね」
セイ「うん」
ミナ「時々、氣分が良くない時に入りに来るの。ほら、湯って薬とも
言うんでしょ?」
セイ「まー確かにな」
ミナ「それに、ワッカウㇱカムイ(水の神様)に助けて貰ってる氣がするの」
セイ「その通りだな」

  空を見上げる2人。
ミナ「あ!ホヤウ!(竜)(さそり座を指さし)」
セイ「ホヤウ?」
ミナ「えーと…。シサㇺ達がカムイとして崇めてる…」

  がぉぉと竜のポーズをとるミナ。
セイ「獅子?」
ミナ「ううん」
セイ「麒麟?」
ミナ「違う氣がする」
セイ「龍?」
ミナ「そう!あそこが、目で、あそこからまっすぐ伸びてるのが胴で
   あそこら辺が手で」
セイ「うううん…わからない」
ミナ「そうか…あ!その下は、タマサイノチウゥ(首飾り座)だよ」

   脱いだルウンペの上にある首飾りをセイに見せる。
セイ「わからないかも」
ミナ「そっか…」

  残念という顔をするミナ。
セイ「ミナ星見るの好き?」
ミナ「うん。好き。セイは?」
セイ「あまり好きじゃなかったんだけど、親友と見た星は凄く綺麗で、
   今でも鮮明に憶えてる」
ミナ「そっか…私もその景色見てみたい」

  ミナの方を見るセイ。
セイ「いつか一緒にみよう。(空を見ながら)」
ミナ「うん…。見れるといいなぁ」

  空に流れ星が流れる。
___________________________________
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朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

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