【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ

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悪役令嬢は死んだ

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「……きて。ハン……きて」

 声が聞こえる。
 なんだろう。優しい声だ。
 聞き覚えのある声。

「起きて。ハンナ、起きて」

 私はその声の主が誰かと理解した瞬間、目が覚めた。
 アレックスだ。アレックスの声だ。

 目を開けると、そこには大勢の生徒たちが私たちを囲んでいた。
 生徒たちは私のことをいつもとは違う目で見ていた。
 嫌悪の目線ではない。好奇の目線に戻っている。

 そして、目の前にはなんだか怯えたような顔をしたローレアと、元婚約者のアーウィンが正座をしていた。

「ようやく起きたね。おはよう。気分はどうかな?」

 アレックスはそう言って私をいつもの優しい笑顔で私を見つめてくる。

 え……なんで私生きてるの……?
 死んだはずじゃ……ど、どうして?

 混乱する私をよそに、アレックスは前にいるローレアとアーウィンを睨むように表情を一変させる。
 それはこれまでに見た事のないような憤怒の表情だった。

「アーウィン・エディンガー! ローレア・シャローラ! お前たちは罪のない子爵令嬢をいじめ、事もあろうか勝手に理不尽な婚約破棄まで行った! その罪、この第3王子アレキサンダー・ユースティティアが王族の権限で裁かせてもらう!」

 アレックスはそういってバッと右手を前につきだす。
 その鋭い声色、仕草にひっ……! と怖気づく目の前の2人。

 なんだろう。なんだかこういうアレックスも凄くカッコよくて素敵だわ。

 ……じゃなくて、そんなことより。
 先程、アレックスが言った言葉になにやら信じられない言葉があったような……。

 えーっと、確か第3王子って言ってた……ん? 王子……?

 え、アレックスが王子!? ど、どういう事!?
 た、確かにアレックスはアレキサンダーの愛称だけど……、まさか王子の名前だなんて……!?

 え、それとも盛大な嘘なの? 違うの?
 ダメだ。全然、思考が働かない。
 現状が把握出来ないわ。

 混乱する私をよそに、目の前にいる2人は焦ったように声を上げる。

「ま、待ってください! その女はローレアを虐めていたんです! その罪をただ彼女に擦り付けているだけなんです!」
「そ、そうよ! 証言だってあるのよ! 王子はその女に騙されています!」
「ほう……、それはこれを見ても言えるかな?」

 彼はパチンと指を鳴らした。
 すると、ブォンという音と共にとある映像が大きく映し出された。

 これは……私たちが研究していた映像記憶魔法だ……。

 そして、そこにはローレアとその取り巻きたちが、私を囲んで魔法で攻撃している映像が映し出されていた。

『このっ! ガリ勉悪役令嬢の分際で! 私から1位を奪い取るなんて生意気よ!』

 明らかにこの映像は私を虐めている映像である。これは誰の目から見ても明らかだ。
 い、いつの間にこんな映像を……。

 映像を見た周りの生徒たちはざわざわと騒ぎ始める。

 それと同時にローレアはは青ざめた表情に。
 アーウィンは目を見開き、信じれないという顔でローレアを見つめた。

 その後もローレアが私を虐めている色々な映像が大広場中に流れていった。

 その間、ローレアもアーウィンも俯いたまま動かない。
 おそらくもう言い逃れが出来ないと観念したのだろう。

 そして、一通り虐めの映像が流し終わると、アレックスは厳しい目で2人を見つめる。

「さて……先程、お前たちは彼女に虐められていると言ったな? これを見ても、同じことがいえるか?」
「……申し訳ありませんでした」

 ローレアが震える声でそう言うと、アレックスは呆れたようにため息を吐いた。

「それを言うのは1年ほど遅いんじゃないか? 今更謝っても、もう遅い。言っておくが、彼女は遺書を書いて、自殺をしようとした程に追い詰められていたんだぞ」
「……」
「お前たちは貴族の令嬢を貶めようとした。その罪はとても重い。これから時期に処分がいい渡されるだろう」
「そ、そんな……」

 絶望に顔を歪ませる2人。
 それに対して、アレックスが「連れて行け」と言うと、周りの屈強な騎士たちが2人をどこかへ連れ去っていった。

 私はその成り行きを見つめ、ぽかんとしているとアレックスが私にひざまづいてくる。

「寝起きがけでいきなりすまないね。混乱させてしまったかな?」
「は、はい。正直なにがなにやら。そもそもなんで私が生きているのでしょう……」
「ははっ、そうだよね。じゃあ、説明するよ。簡単に言うとね、昨夜君にかけた魔法は安楽死の魔法じゃなかったんだ。安眠魔法なんだよね」
「……はい?」
「自殺の手助けなんてするはずがないじゃないか。それに自分勝手なことで悪いけど、君には死なれてもらっては困るんだ。だから僕は君が自殺する原因となったあの2人を処分する事にしたのさ」
「な、なるほど……。つまり、私が居なくなると研究の人手がまた減ってしまって、困るから自殺を止めたってことですか?」
「んー、いや……違うんだよ。僕が君を止めたのはね……君に惚れたからなんだ」
「……へ?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
 え、アレックスが……あの研究馬鹿のアレックスが私の事を好き?
 嘘でしょ? そんな……それじゃ、私と同じじゃ……。

「いや、本当はこんなこと言うつもりじゃなかったんだけどね。でも君がさ、昨日意識を失う前にあんなこと言うから」
「聞こえていたのですね……」
「うん。あの時は凄く嬉しかったよ。だから僕は今から君に大事なことを伝える。聞き漏らさないで聞いてくれる?」

 そう問いかけるアレックスに私はこくりと頷いた。頷くしか無かった。
 彼は私の頷きに満足そうな顔をして、深呼吸する。

「……いつも君に支えて貰っていた。君の手料理に。君の一生懸命さに。勇気を貰っていた」

 アレックスはぽつりぽつりと、大事そうに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「今まで研究を王家から逃げるための道具にしていた僕に、本当の意味で研究に本気にさせてくれた」

 ひざまづきながら私の手をとり、そして、私の目をじっと熱い眼差しで見つめてくる。

「そしてなにより。今まで誰も認めてくれなかった僕の生き様を……君だけは僕を認めてくれた。それが嬉しかった」

 その言葉に。
 その表情に。
 込み上げてくるこの思いに。

 私はどうしようもなく抗えなくて、涙を流してしまいそうで。

「君がいない生活なんてもう考えられない。愛しているハンナ。僕と婚約してくれないか?」

 ああ……私も……、私もどこで。
 その言葉を待っていたのかもしれない。
 いつからかわからないけど。
 ずっと、ずっと。

 死ぬなんて言葉で逃げ続けていたけど。
 私は……あなたに……。

「……はい。私なんかでよければ……よろしくお願いします」
 
 死んだのだ。
 昨日までの死のうとしていた自分が。
 これまでに虐められていた不遇な悪役令嬢は。

 綺麗さっぱり、亡くなったのだ。

 あなたのお陰で。
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