【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ

文字の大きさ
8 / 10

史上最高の自殺

しおりを挟む
 その後も私はローレアから様々な嫌がらせを受けたが、その度にアレックスが現れて私を助けてくれた。

 まるで救世主のように。
 白馬に乗った王子様のように。

 颯爽と私を助けてくれるその姿に、私は自然と彼に惹かれてしまっているのを自覚してしまった。

 まあ、彼の突拍子もない行動にだけは、流石に惹かれないけど……。(この前なんて、いきなり「月で映像を撮るぞ!」とか言い出して、ワープ魔法の研究も並行してやり始めたから、慌てて止めたりした)

 しかし、そんな思いは一瞬だけ。
 私たちは研究に追われて、とてもじゃないけど余計なことを考えている暇はなくなる。
 もう研究は佳境に入っていて、既に魔法自体は完成していた。
 
 そして、彼と出会い10ヶ月が経ち、ついに学会に私たちが作り上げた魔法を発表した。

 結論から言おう。
 私たちの研究は……なんと本当にレイモンド賞を受賞してしまった。

 次の日には私たちは一躍学園――いや、世界中の時の人に。
 学園では盛大にセレモニーが開かれ、全校生徒の前で私たちは祝福された。

 ああ……、私を馬鹿にしてた人たちのあの人たちの顔といったら傑作ね。
 ぽかんと口を開けて呆然としていたわ。
 あんな間抜けな顔、今後の人生で見ることはないでしょう。
 研究者志望だったローレアなんて、とてつもなく悔しがってたわね。ふふふ。

 そして、いつものように私とアレックスは、夜の誰もいない学園に集まっていた。

 別に祝杯をあげる訳でもない。
 これから2人だけの人生の送別会を行うのだ。

「さて……ハンナ。あれはちゃんと持ってきたかい?」
「はい。勿論です」

 そういっては私は手に持っている紙をアレックスに渡す。
 彼はそれを読みながら、ふむふむと頷いた。

「……うん。わかりやすい。これなら誰がみても、君が何をされたのかわかるね。それに君にはレイモンド賞という爪痕を残したこともある。最高の遺書になってると思うよ」

 その言葉に私はほっと胸を撫で下ろす。
 安心した。彼が言うならきっと史上最高の遺書に出来上がっているに違いない。

「それじゃ……早速、自殺に取り掛かろうか」
「はい」

 そうして私は学園の大広場の真ん中に用意した椅子に座る。
 これから行う自殺の方法は、アレックスに安楽死の魔法を掛けてもらうことだ。

 流石に苦しみに苛まれながら死ぬのは嫌だった私は、彼の提案でそうすることにしたのである。

 ここで楽に死んで、そして次の朝に私は大広場で見つかって、大騒ぎになるって算段だ。

 アレックスは椅子に座った私をみて、少し寂しそうな顔をする。

「それじゃ魔法をかけるけど……、最後に言い残したいことはあるかい?」
「……特にないですわ。別に後悔なんてありませんもの」

 これは本音だ。
 別に私はこの彼の研究を手伝って爪痕さえ残せればいいと思っていた。
 それも達成し、最後にこれまでの平凡な人生において最後の輝きを世界に残せたことになんの後悔があるだろうか。

 私はやりきった。
 だからもう楽になりたい。
 楽しいと思った時はあった。
 正直、死ななくてもいいんじゃないかと思う時もあった。

 でも、実際研究が終わってしまうと、私は燃え尽きたようにぽっかりと心に穴が空いてしまったのである。
 だったらここで死んでしまうことで歴史に名を刻めるなら。
 私をいじめたヤツらに後悔をさせることが出来るなら。
 ここで人生に幕を下ろしてもいいんじゃないかって、素直にそう思ってしまったのだ。

 これは普通の人には理解されない感情だっていうのは、十分理解している。
 でも、私はもう燃え尽きて灰になったの。
 灰は片付けられて、土に埋められて処分されるべきなのよ。

 もう後悔はない。

 私の強い覚悟を感じとれたのか、アレックスはこくりと頷いて手を私の頭に置く。

「わかった。それじゃ、今から安楽死の魔法をかけるよ」
「はい。いつでもどうぞ」
「……うん。じゃあ、いくよ」

 そういってアレックスは深く深く深呼吸した。
 そして、頭に襲いかかってくる衝撃。
 それと同時に急に強烈な睡魔が私に襲いかかってきた。
 薄れゆく意識の中で、私はぼんやりと考える。

 ああ……、そういえば一つだけ嘘をついていたわ。
 私……後悔がないって言ってたけど、そんなことはないの。

 私の唯一の心残りはアレックス……あなたのことよ。
 もう誤魔化しようがないくらいに、私はあなたに惹かれてしまっていた。

 あなたの愚直なまでの真っ直ぐさ。
 あなたの他に類を見ない一生懸命さ。
 あなたの太陽のような暖かい笑顔。

 そのどれもが私を強く惹きつけてやまなかった。
 この気持ちを押し殺して死んでいくことだけが心残りかもしれない。

 でも、私はこの気持ちを伝える勇気は出なかった。
 なぜなら彼は研究馬鹿だから。
 彼と過ごしたこの10ヶ月間、彼は他の人間に本当に興味がないようだった。

 そんな彼に対して私が愛を叫んだとしても。
 それは彼を困惑させてしまうだけだろう。

 でも、そうね……どうせなら最後にちょっとだけ意地悪してやろうかしら。
 いつもネジが外れた言動に振り回されてきたお返しね。

 ――愛しています。

 私はそう口を動かした。
 ちゃんと言葉になっていたかわからない。
 もしかしたらキチンと伝わってないかもしれない。

 しかし、それでも……私は最期に言って……やったんだ……。
 ああ……これで……、ようやく……休める……。

 そうして私の意識はプツンと糸が途切れるように切れたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~

岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。 王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。

第一王子と見捨てられた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。 お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

元婚約者が修道院送りになった令嬢を呼び戻すとき

岡暁舟
恋愛
「もう一度やり直そう」 そんなに上手くいくのでしょうか???

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。

待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。 もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。

処理中です...