都市伝説の兄妹は、いずれ最強の伝説になる

進藤 樹

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第三十七話 都市伝説の兄妹は、バーベキューを楽しむ

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 グラウンドの一角に、バーベキューセットが二つ並んでいる。その場に集まっているのは、生徒代表選抜試験小隊の面々とその従魔たち、そして顧問の鈴谷先生に、星埜一家の四人だ。

「それでは、僭越ながらボク、竜胆玲那が乾杯のご発声を取らせていただきます! 朔夜ちゃんの生存……とは言わないのか。背後霊継続と、重護くんの魔人化回避と誕生日、あとはー……業伎秀越逮捕と、なんだっけ、重護くんと朔夜ちゃんの生徒代表選抜試験小隊入隊と……そだそだ、時計塔再建決定を記念して――」

 すかさず小夏がツッコミを入れる。

「ぐっだぐだじゃないですか! 仕切り直しましょう⁉」
「とにかく今日は無礼講だぜッ、乾杯!」

 やけっぱちにウインクしてみせた玲那が、高らかとオレンジジュースの入ったグラスを掲げる。

「ふぉ~ん!」

 瞬間、誰もが気の抜けた笑顔でグラスをぶつけた。従魔まで声を揃えた乾杯の一声は、なんとも彼女たちらしいのんきな賑やかさに包まれている。

「無礼講ってことなら言わせてもらいますけど、いろいろ混ぜすぎですッ!」
「え~、せっかくだから全部お祝いしたいじゃん?」
「そのうち一つはお祝いじゃなくて損害なんですよ! 時計塔壊した張本人が言っていい項目じゃありません!」
「ちょっとこなっちゃん、全部ボクのせいにしないでくれる⁉ ボクらが到着した時には既にちょっと折れてたじゃん!」

 白熱する玲那と小夏の口論に、翡翠が白衣の袖を垂らした両手を掲げて仲裁に入る。

「二人、とも……今日、は。楽しく……しよ?」

 付き人のように後ろに控えるメタも、じゃきん、と両手の鎌を交差させた。

「「は~い」」

 これ以上続けても笑えなくなるだけだという自覚はあったのか、声を揃えて返事をし、それぞれおかしそうに口元を緩める。
 一方、バーベキューコンロの方では、早速金網の上に肉や野菜が敷き詰められていた。

「ロゼ、食べたいんですの? お熱いですわよ?」

 根っこをひらひらと焼きたての牛肉に向けるロゼに、結芽はふーふーと息を吹きかけてから肉を差し出した。ロゼは躊躇うことなく肉に根を巻き付け、楽しそうに花弁を揺らす。
 なかなか衝撃的な光景を遠巻きに眺めていた重護と朔夜が、仲良く箸を持つ手を止める。

「さすが食獣植物……焼いた肉も食えるのか……」
「すごい、一瞬でお肉が干からびちゃった……あれが捕食……」

 唖然と眺めている二人の元へ、葵が聖剣サニーフォースを持ってやってきた。

「星埜、サニーフォースが挨拶したいそうだ。悪いが少し会話相手になってやってもらえないだろうか」
「いいですよ。握ればいいんスよね」

 葵から聖剣サニーフォースを受け取ると、早速頭の中に老齢な女性の声が流れてきた。

〈汝には妾の声が聞こえるだろうか。聞こえるのならば返事をしてもらいたい〉
「聞こえてるっスよ、サニーフォースさん。はじめまして」
〈うむ。敬称は不要である。して、霊魔の娘というのはどこにおるのだろうか。そなたも聞こえているというならば返事をするとよい〉
「サニーフォースが朔夜とも話がしたいとさ。あと、呼び捨てが言いそうだ」

 重護が隣に立つ朔夜に伝えると、朔夜もその手を聖剣サニーフォースの柄に触れた。

「はじめまして、サニーフォース。妹の朔夜です」
〈汝らの話は主から聞いている。これから共に戦うこともあるだろう、何卒よろしく頼む〉
「こちらこそよろしくな」
〈さっそくでなんだが、霊魔の少女よ。まずは汝の魔力を妾に教えてくれたまえ〉
「わたしの魔力を?」
〈左様。妾の光魔法はある程度対象を選別することが可能である。故に汝の魔力を理解しておくことで、広範囲攻撃の余波で汝を浄化する危険がなくなるのだ〉
「ほんと⁉ ぜひお願い! ハルピュイア戦で見た時は危うく成仏しかけたからね!」
〈どうやら妾は知らぬ間に汝を攻撃していたらしい。汝にはいずれなんらかの形で詫びることを約束しよう〉
「い、いや、そういう意味で言ったわけじゃ……と、とりあえず魔力だよね」

 朔夜が指先から魔力を流し込むと、すぐに聖剣サニーフォースから返事がきた。

〈汝の魔力は妾に把握された! これ以降、妾の魔法で傷つくことはないだろう!〉
「ひとまず一安心だな」

 重護と朔夜が頷きあうと、話が終わったと察した葵が手を伸ばしてくる。

「済んだようだな」
〈待ちたまえ主、妾はまだ霊魔の少女との大事な恋バナをしていない!〉
「あはは……ごめんねサニーフォース、わたし、そういうのよくわかんなくて……」

 一〇歳以降、ずっと重護の背後霊なのだ。浮いた話があるわけがない。

〈実体験でなくともかまわぬぞ、最近は少女漫画など読めるようになったからな〉
「へぇ~……。ん? どうやって?」

 朔夜が真顔で尋ねて、言われてみればと重護も首を傾げる。聖剣が漫画をどう読むというのだ……しかし聖剣サニーフォースより早く葵が口を挟む。

「い、今その話はいいだろうっ! 行くぞサニーフォース、コンロの火力が足らん!」
〈はたして妾の太陽魔法を着火道具と同等の扱いにして本当によいのだろうか。汝は今一度疑問に思うべきであ――〉

 顔を真っ赤にした葵が強引に聖剣サニーフォースを取り上げたため、重護の手から離れて意思が聞こえなくなってしまった。
 ずんずんと大股で歩いていく葵の後ろ姿を見ながら、朔夜がぽつりと呟く。

「刀城先輩、少女漫画読むんだ……なんか意外」

 重護は無意識にポケットをなでた。しまっている携帯端末の漫画アプリには、朔夜お気に入りの少女漫画が明日分の無料更新を待っている。

「まあ、従魔の影響で趣味が変わる主人だっているだろうよ」
「重護、朔夜、そろそろ野菜も焼けるわよ。お皿ちょうだい」

 美月に呼ばれて、重護と朔夜は紙皿を手渡した。美月がよそっていくカボチャやタマネギをじっと見つめて、朔夜がチラチラとあたりを見る。

「さっき引っこ抜いてた串ないかな。せっかくだから刺し直したい」

 元々、野菜や肉は串に刺さった状態で用意されていたのだが、火が通りにくいという理由で外しているのだ。その串のゴミは折りたたみテーブルのビニール袋にまとめられていた。

「生肉刺さってた串だからな……やめとけ」
「でもわたし、お兄ちゃんの背後霊になってからお腹壊したことないよ?」
「いやそういう問題じゃねぇ」

 どうやら本気で串状にしたいらしい。念動魔法でも使う気だろうか、ビニール袋に手を向ける。そんな朔夜に、鈴谷が若草色の綺麗な串を一本差しだした。

「待て待て、これを使え。焼き加減を見るように用意しておいたものだから一本しかないが」
「わーい、ありがとうございます!」

 朔夜はご機嫌な様子でもらった串に焼けた野菜や肉を刺していく。念動魔法でやっているため、どこかマジックショー感覚だ。

「すみません鈴谷先生……」

 美月が肩を縮めて軽く頭を下げると、鈴谷は穏やかな笑みで応える。

「いえ、本来ならあれくらいが彼女の年頃らしい言動でしょうし」

 そう言って、鈴谷はもう一つのバーベキューコンロへと顔を向けた。

「我々の代もそうでしたが……まだまだ子供たちにも戦ってもらわなければならない時代は続きます。せめてこういう時間くらい、思う存分楽しんでほしいですから」

 小夏が包丁を握って魔獣用の生魚を捌いており、ダニエルがぶくぶくと口端に泡を浮かべて待ち遠しそうに見つめている。
 そこへ翡翠が話しかけ、小夏から生魚を一匹貰うとメタへと与えた。
 少し離れたところでは、大口を開けたシフォンへと、生肉を放り込む玲那がいる。
 そのそばにロゼと結芽がいるのは、コンロの炎に嫌気が差したからだろうか。結芽は広げたロゼの葉っぱに座ってのんびりと肉や野菜を味わっている。
 最年長の葵が一番テキパキと動いて、腰に下げた聖剣サニーフォースとお喋りしながら焼き肉奉行に熱中していた。

「おいみんなー、どんどん焼けるぞ、食べないのかー?」
「うわあ、ちょっと葵先輩焼くペース速すぎー! 重護くーん、朔夜ちゃーん、こっちおいでよ~! 一緒に食べよ~! てか焦げちゃうから手伝って~!」

 人数バランス的に、と、両親や鈴谷と同じコンロをつついていた重護たちに、上弦が生野菜や肉の乗ったパックを差し出す。

「行ってこい。いっぱい食え」
「ああ、サンキュ!」

 パックを受け取った重護はしかし、上弦がパックから手を離そうとしないことに気づいて目を丸くした。

「重護……誕生日、おめでとう」

 照れくさそうに告げる上弦に便乗して、美月もにこにことおめでとうを告げる。そこに鈴谷も追随した。

「そういえばさっき、竜胆がしれっと言っていたな……おめでとう」
「っ……! へへ、ありがとうございます!」

 今度こそ食材パックを持って玲那たちの方へ駆けていく重護と朔夜の背中を見送りながら、上弦が語る。

「思えば……あいつは、重護は、都市伝説の話を噂されるたびに、どこか寂しそうな顔を見せていました。それでも、朔夜のように理不尽な死は見過ごせないと、必死にあがいていたのを憶えています」

 鈴谷は黙って頷く。
 都市伝説として人々を魔獣の脅威から守っているのに、事情を知らない現場の抗魔官からは命を狙われ……事情を知っていて賞賛してくれる数少ない両親とその部下は皆、隠すべき真実のために嘘を強要する――。
 それでも孤独に負けることなく三年間頑張り続けることができたのは、重護の中に強い信念があったからに違いない。

「ですがこの間……業伎逮捕の直後。重護は言ってくれたんです――都市伝説、やっててよかった――と。……すごく、嬉しそうに」

 上弦は一呼吸置いて、空を見上げた。雲一つない晴れ空だ。
 鈴谷は思う。きっと、玲那たちとの出会いが、重護によい影響を与えてくれたのだろう。京魔高専の生徒の中でも、従魔契約者は彼女たちだけだ。竜鱗を飲んだ者にしかわからないなにかで、惹かれあっているのかもしれない。

「京魔高専に入学した以上、もう隠す必要はありません。彼が打ち立ててきた都市伝説は、いずれ歴史上の伝説になりますよ」

 鈴谷は歓声を上げる子供たちを見て微笑む。
 焼き上がった肉や野菜が朔夜の念動魔法で浮き上がり、重護の持ち込んだ新たな食材を葵が次々と網に放り込んでいく。それを見て笑いながらどんどん頬張っていく玲那たちは、今はまだあどけない年頃の子供たちだ。
 ――やがて、彼らが歴史を、伝説を築き上げていくのだろう。
 いや、もしかしたら、今この瞬間にも。
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