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♦一度目
22.婦人は心配する
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貯蔵庫の詳細な検分を役人らに任せ、イルハがシーラを連れて甲板に戻って来ると、遠慮して少し離れたところから様子を窺っていたリタは、堪らずに尋ねた。
シーラとイルハがどこにあろうと、その会話だけはよく耳を澄ませて聴いていたのだ。
「ねぇ、シーラちゃん。航海中は食事をどうしているの?」
「乾パンとか、缶詰とか。あとはナッツか、干した果物。干し肉を食べることもあるね。日持ちするものを沢山買い込んでおいて、それでお酒を飲むんだ」
すぐに言葉を返せなかったリタは、青白い顔でよろよろとイルハに近付くと、そっと耳打ちをした。
「坊ちゃま。シーラちゃんが旅立たれる前に、食料をたっぷりと持たせてもよろしいかしら?」
「私からもお願いしたいですね。なるべくそのまま食べられるものを」
「保存食なら得意分野だわ。それから坊ちゃま」
「リタ。ここでそのように呼ぶことは──」
「お洗濯のこともそうですし、お掃除のことも。それに一人だとしたら……」
リタ主導で二人が話し合う横で、シーラはうーんと両手を上げて再び伸びを見せていた。
シーラの話をしているというのに、一切の興味を示さない娘をその横目に映し、イルハはリタがどうしたら自分を真面に呼んでくれるのかと真剣に悩んだ。
「しかし本当に一人で船を動かせるのかねぇ」
小屋の中を検分し終え、疲れ切った顔で外の空気を吸いに来た一人の役人が呟く。
それはシーラを疑っているというよりも、素直な疑問であった。
大きな帆をこの小柄な娘が一人で動かす姿は誰だって容易に想像出来ない。
「動かしてみようか?」
まさか本人から答えを貰えるとは思っていなかった若い役人は、一人では返答が出来ず、すぐに上司の元へと飛んで行った。
その後、五人の役人は、下の貯蔵庫で無駄に相談する時間を経て、すべてはイルハへと委ねられる。
何のために彼らはそれなりに長い時間を掛けて話し合ったのか。
「シーラ、このまま堤防の内側を旋回していただけますか?」
完全に信用していなければ、出ない言葉だ。
シーラが悪い海賊であったなら、あるいはその海賊をこの小さな船のどこかに隠していたら、タークォンの役人を人質に取って、あるいは誘拐して、そのまま大海原へと旅立ってしまうかもしれない。
という懸念、やはり誰も持たなかった。
底抜けに明るい声で、シーラは言う。
「もちろん、いいよ!」
「あら。それなら私は降りた方がいいわね」
リタは船酔いをする体質だった。
タークォンには領海を巡る遊覧船があって、海上での食事を提供する船が日々いくつも出たが、リタは若い頃からこれが苦手だ。
シーラはすぐにリタの事情を察したようで、しかし笑顔で言い切る。
「大丈夫だよ、リタ。揺れないようにするから、安心して乗っていて!」
シーラの自信たっぷりの笑顔を見て、リタはまた簡単に折れてしまった。
リタとしても、この船をどうやって少女一人の手で動かすのかという問題には興味を持っていたが、しかし多くはシーラを甘やかしたいという深い愛情から来た対応である。
昨夜からの付き合いだというのに、リタはもう、シーラという娘を気に入り過ぎた。
シーラとイルハがどこにあろうと、その会話だけはよく耳を澄ませて聴いていたのだ。
「ねぇ、シーラちゃん。航海中は食事をどうしているの?」
「乾パンとか、缶詰とか。あとはナッツか、干した果物。干し肉を食べることもあるね。日持ちするものを沢山買い込んでおいて、それでお酒を飲むんだ」
すぐに言葉を返せなかったリタは、青白い顔でよろよろとイルハに近付くと、そっと耳打ちをした。
「坊ちゃま。シーラちゃんが旅立たれる前に、食料をたっぷりと持たせてもよろしいかしら?」
「私からもお願いしたいですね。なるべくそのまま食べられるものを」
「保存食なら得意分野だわ。それから坊ちゃま」
「リタ。ここでそのように呼ぶことは──」
「お洗濯のこともそうですし、お掃除のことも。それに一人だとしたら……」
リタ主導で二人が話し合う横で、シーラはうーんと両手を上げて再び伸びを見せていた。
シーラの話をしているというのに、一切の興味を示さない娘をその横目に映し、イルハはリタがどうしたら自分を真面に呼んでくれるのかと真剣に悩んだ。
「しかし本当に一人で船を動かせるのかねぇ」
小屋の中を検分し終え、疲れ切った顔で外の空気を吸いに来た一人の役人が呟く。
それはシーラを疑っているというよりも、素直な疑問であった。
大きな帆をこの小柄な娘が一人で動かす姿は誰だって容易に想像出来ない。
「動かしてみようか?」
まさか本人から答えを貰えるとは思っていなかった若い役人は、一人では返答が出来ず、すぐに上司の元へと飛んで行った。
その後、五人の役人は、下の貯蔵庫で無駄に相談する時間を経て、すべてはイルハへと委ねられる。
何のために彼らはそれなりに長い時間を掛けて話し合ったのか。
「シーラ、このまま堤防の内側を旋回していただけますか?」
完全に信用していなければ、出ない言葉だ。
シーラが悪い海賊であったなら、あるいはその海賊をこの小さな船のどこかに隠していたら、タークォンの役人を人質に取って、あるいは誘拐して、そのまま大海原へと旅立ってしまうかもしれない。
という懸念、やはり誰も持たなかった。
底抜けに明るい声で、シーラは言う。
「もちろん、いいよ!」
「あら。それなら私は降りた方がいいわね」
リタは船酔いをする体質だった。
タークォンには領海を巡る遊覧船があって、海上での食事を提供する船が日々いくつも出たが、リタは若い頃からこれが苦手だ。
シーラはすぐにリタの事情を察したようで、しかし笑顔で言い切る。
「大丈夫だよ、リタ。揺れないようにするから、安心して乗っていて!」
シーラの自信たっぷりの笑顔を見て、リタはまた簡単に折れてしまった。
リタとしても、この船をどうやって少女一人の手で動かすのかという問題には興味を持っていたが、しかし多くはシーラを甘やかしたいという深い愛情から来た対応である。
昨夜からの付き合いだというのに、リタはもう、シーラという娘を気に入り過ぎた。
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