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♠国にあるもの
13.さらに泣いてしまった
しおりを挟むいつも王子の執務室や休憩室で待機している使用人らは、このとき数を減らしていた。
もっと多くの綺麗な布が必要だろうと取りに走った者。
汚れたと泣く娘を見て、婦人用の着替えを取りに向かった者。
落ち着くお茶の用意を急ぐ者。
と、様々な理由を持って、使用人らが部屋を辞していったからだ。
さすがよく訓練された王宮の使用人たちは、非常時の連携した対応も見事なものである。
だから、王子やイルハが立場上良くない発言を重ねたところで、彼らは上手くその心中を隠していた。
使用人として王宮で働くことが出来ている彼らは、プロ中のプロなのだ。
それでもどの者も泣き始めた娘に視線を注いでいて、彼らがこの非常事態に少なからず動揺していることも見て取れた。
普段の彼らなら客人に対して長く視線を向けるような無礼を行うことは決してない。
そんな風にして方々から見られているシーラは、先よりさらに泣いていた。
周囲の視線をずっと集めていることには、一切気付いていないのだろう。
「うっ。ぐす。イルハ。どうしよう?服が沢山汚れちゃったの。この汚れは落とせるのかな?」
つい先ほど戻ってきた使用人が包帯を巻いてくれたため、額を押さえる必要がなくなったイルハは、また違う布を受け取って、シーラの濡れた頬をトントンと優しく押さえていった。
ごしごしと拭わなかったことを、何故か場違いに感心した王子だ。
女慣れなど決してしていないイルハにここまで大事にされる女は、きっと生涯シーラだけとなる。と王子は思ったのだ。
今や王子はイルハの後方で腕を組み仁王立ちとなっていて、この場では何の役にも立たない存在に成り果てている。
だからと言って、イルハの分もと仕事をしてやる気は毛頭ない王子だから、この場に留まり、自分も大変なことをしているという顔をして、シーラとイルハの観察に努めているのだ。
「服なんて、汚れたらまた買えばいいのですよ。そんなことは気にしないでください」
にこりと微笑み、出来るだけ安心させるようにと穏やかな声で言ってみても、シーラは泣き止む素振りも見せない。それどころか、溢れる涙の量が増していくように感じられる。
興奮させない方がいいと、差し出がましいことながらと進言してきた使用人の考えに同意したイルハは、なんとかシーラを落ち着かせようと頭を撫でたり、手を握ったりしてみるのだが。
シーラの瞳からはボロボロと大粒の涙が余計に溢れてくるのだった。
これはどうしたものか。
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