国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♦三度目

27.驚かせる男

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 気を取り直して、辺りを見渡したシーラは、またすぐにイルハへと視線を戻した。
 目が合う距離が近い。

 再会してからあれほど避けるような態度を取られたのは昨日で、それから和解し、なんやかんやと言われながら抱き締められたあとからは、やたらと近くにあるイルハに、シーラは何か想うところはないのだろうか。

 一向に不快さを示さず、それどころか背中に回された手や、あまりに近い視線に、喜んでいるのではないかと思わせるほどの笑顔で、シーラはイルハへと問い掛けるのだ。
 それがイルハの行動を助長させていくのだろう。

「王宮の中にも兵士さんが沢山いるんだね」

 廊下にて間隔を空けて規則的に並ぶ警備兵たちは、三人が現れるとイルハが驚くほどに同じ反応を示した。

 一様に目を見開いてシーラとテンを順に見詰め、それからイルハを見やるも、すぐに目を逸らしては、何かを確かめるようにシーラをもう一度凝視する。
 それから一度目を閉じ、再び開いたときには、何事もなかったかのように顔を引き締めて先からと同じようにその場所に立っているのだ。

 これには。
 もしや知らぬところで、自分に対しての特別な規律でも出来たのではあるまいか、とイルハも疑いたくなってくる。

 されどイルハにとって、今や統率された警備兵の反応などは、至極どうでもいいことだった。
 目の端で捉えた警備兵たちの顔はよく覚えておきながらも、シーラに向けて柔らかく微笑み、問われた質問に対して丁寧に言葉を返していく。

「王宮だからこそですよ。王族だけでなく、国の重鎮が常日頃から集まる場所ですからね」

「それならどうしてイルハの家には兵士さんがいないの?イルハだって大事な人でしょう?」

 シーラの質問は、今でもイルハをたびたび驚かせた。
 懐かしい感覚を思い起こしながらも、即答しかねたイルハは、嘘ではない事実を伝えることにする。

「……邸内に他人を入れることが苦手でして」

「えっ!」

 驚きでシーラの足が止まった。



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