国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♠国にあるもの

41.もう遠慮はしない

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 この夜の過ごし方は、シーラが怪我をしたあとから始まった。

 二人は手を繋いだ体勢のまま、よく話し、ときに歌い。
 音楽を演奏するときには手を離して。
 そしてまた終えると繋ぎ、笑い合い、お喋りを楽しむ。

 そんな夜をいくつも重ねていたら、イルハだって自ずと気付く。

 シーラは変わった。
 それは自分が変えたと思いたいイルハであったが、そうではないことにも気付いていた。

 今回タークォンに到着したときには、シーラは変わっていたからだ。


 会わなかった二年半の間にシーラに何が起きていたか。
 それはイルハがシーラから何度も聞き出したせいで、もはやシーラより詳しいのでは?というぐらいに、イルハはよく知ったことなのだけれど。

 心情に変化を与えたものが、そのどれか、あるいは別の何かなのか、イルハにはまだ分かっていなかった。
 話したそうにしながらも、まだシーラに迷いが見えたからだ。


 だからイルハは今夜も堂々と口説いていく。

「飛べるほどですか。それは困りましたね」

「例えで言ってみただけだよ?それでイルハは何が困るの?」

「私にとって誰より大切なあなたが、あまりに軽くなり、どこかに飛んで行ってしまったらと、心配になったのですよ」

「もう。変なことを言うんだから。私は飛ばないよぉ」

「あなたの魔術があれば、それも分からないでしょう?ですから今度こそ、ここでしっかりとあなたを捕まえておくことに決めました。このように」

 シーラが変わっているなら、こちらも遠慮はしない。

 イルハはそう決めていた。

 だけれどもまだ逃げ道を用意してあげる優しさはあって。
 冗談のように笑いながら、イルハはぎゅっと繋いだ手に力を込める。

 するとシーラは照れたような、困ったような、すぐにでも泣き出しそうな、ふにゃりとした弱弱しい曖昧な笑みを浮かべるのだった。

 繋いだ両手を引いて、イルハはシーラを抱きしめる。
 心臓の音を重ねた二人の夜は今日も長い──。



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