177 / 349
♦海にあるもの
14.すぐに反省を忘れる王子様
しおりを挟む
「おい、どの辺だ?いねぇぞ」
なんとか現状を受け入れた王子は、用意された双眼鏡で窓の外を眺めてみるが、目当ての二人は見付からなかった。
その手に持つ王家の紋章入りの双眼鏡には、何かとてつもない過去が隠されている気がしてならない王子だが、今はとにかく考えないようにしている。
そうして双眼鏡の映す景色に集中するが、使い慣れていない王子には二人の姿を容易には探せない。
「それより殿下、人さらいではありませんよね?抱えられて、船に乗せられているのですが」
イルハも臣下としての態度は酷いもので、王子の言葉を無視して双眼鏡を覗いたままに問い掛けた。
「何だと!」
焦る王子は双眼鏡を覗きながら左右に顔を揺らしたが、まだ二人は見付からない。
そんな二人に、新たに近付く男があった。
ちょうど書類を持って入って来た男で、二人の背を見て固まっている。
ここは、王子の執務室で間違いないだろうか。
男は自問して首を捻った。その男にすぐに小さな声が掛かる。
どうぞ、書類はそちらに置いて行かれてください。ただ今、殿下は取り込み中ですので。後ほど、貴殿の訪問と書類の件はお伝えしておきます。
部屋付き侍従の一人に指示を出された男は、すぐに書類を置いて部屋を出て行った。
とりあえず彼の中でイルハの奇行は見ていないことになる。
王子ならあり得そうだが、イルハの行動としては信じられず。
忙しくて気が触れたかな、とさらに思った彼は、すべて忘れることにして、王宮の廊下を足早に進んでいった。
逃げたとも言える。
そのようにして知らず人を動揺させている男たちは、窓辺に並び立ってまだ双眼鏡を覗き込んでいた。
説明がなければ、不埒なことをしているように見えなくもない怪しさだ。
「くそ、見付からねぇぞ。双眼鏡ってやつはこんなにも使いにくいものなんだな」
「素早く動かすよりは、じっくり確認しながら場所を移動していった方が早く見つかりますよ。ちなみにもっと右側ですね。青い帆の船の上です」
「それを早く言え!どれ……青、青……あぁ、あれか。見付けたぜ」
しばらく男たちは無言で双眼鏡を眺めていたが。
「はしゃいでいるし、大丈夫そうじゃねぇか」
「ひとまずは安心しました」
シーラとテンは、知らぬ船の甲板を駆け回っていた。
傍らにいる男たちが、特に彼女たちを追い掛けるようなこともせず、自由にさせているからには問題ないのだろう。
王子が覗きをやめたのに、イルハはまだ双眼鏡を覗くことをやめず。
「あいつらが元気そうで何よりだが。改めて詫びておくぞ。今日はすまなかったな」
「いえ。本当に謝罪には及びませんよ。殿下にお願いした時点でいずれはこうなると思っていましたからね」
だから自身の責だとイルハは言っているのだが。
「はぁ?なんだって?」
王子は聞き捨てならないと不満そうに聞き返した。
自身の失態に責任を感じ悪いと思っていた気持ちも吹き飛んでいる。
「女性からの頼みを断れる殿下ではございませんでしょう」
「……俺をなんだと思っていやがるんだ?」
「断れましたか?」
「う……そうは言うが、お前なら断れていたのかよ」
「そうですね。断らずとも私ならば共に付いていきました」
イルハは本当に王子を責めてはいなかった。
だが王子は、臣下からねちねちと嫌味を言われ続けている気分である。
「それでよく俺に預けておいたな?今日は何かトラブルでも起きていたのか?」
「いえ。仕事が溜まっていただけです。……っ!」
しれっと嘘を吐いたイルハの息が、王子にも知れず止まった。
まさか。ありえない。
なんとか現状を受け入れた王子は、用意された双眼鏡で窓の外を眺めてみるが、目当ての二人は見付からなかった。
その手に持つ王家の紋章入りの双眼鏡には、何かとてつもない過去が隠されている気がしてならない王子だが、今はとにかく考えないようにしている。
そうして双眼鏡の映す景色に集中するが、使い慣れていない王子には二人の姿を容易には探せない。
「それより殿下、人さらいではありませんよね?抱えられて、船に乗せられているのですが」
イルハも臣下としての態度は酷いもので、王子の言葉を無視して双眼鏡を覗いたままに問い掛けた。
「何だと!」
焦る王子は双眼鏡を覗きながら左右に顔を揺らしたが、まだ二人は見付からない。
そんな二人に、新たに近付く男があった。
ちょうど書類を持って入って来た男で、二人の背を見て固まっている。
ここは、王子の執務室で間違いないだろうか。
男は自問して首を捻った。その男にすぐに小さな声が掛かる。
どうぞ、書類はそちらに置いて行かれてください。ただ今、殿下は取り込み中ですので。後ほど、貴殿の訪問と書類の件はお伝えしておきます。
部屋付き侍従の一人に指示を出された男は、すぐに書類を置いて部屋を出て行った。
とりあえず彼の中でイルハの奇行は見ていないことになる。
王子ならあり得そうだが、イルハの行動としては信じられず。
忙しくて気が触れたかな、とさらに思った彼は、すべて忘れることにして、王宮の廊下を足早に進んでいった。
逃げたとも言える。
そのようにして知らず人を動揺させている男たちは、窓辺に並び立ってまだ双眼鏡を覗き込んでいた。
説明がなければ、不埒なことをしているように見えなくもない怪しさだ。
「くそ、見付からねぇぞ。双眼鏡ってやつはこんなにも使いにくいものなんだな」
「素早く動かすよりは、じっくり確認しながら場所を移動していった方が早く見つかりますよ。ちなみにもっと右側ですね。青い帆の船の上です」
「それを早く言え!どれ……青、青……あぁ、あれか。見付けたぜ」
しばらく男たちは無言で双眼鏡を眺めていたが。
「はしゃいでいるし、大丈夫そうじゃねぇか」
「ひとまずは安心しました」
シーラとテンは、知らぬ船の甲板を駆け回っていた。
傍らにいる男たちが、特に彼女たちを追い掛けるようなこともせず、自由にさせているからには問題ないのだろう。
王子が覗きをやめたのに、イルハはまだ双眼鏡を覗くことをやめず。
「あいつらが元気そうで何よりだが。改めて詫びておくぞ。今日はすまなかったな」
「いえ。本当に謝罪には及びませんよ。殿下にお願いした時点でいずれはこうなると思っていましたからね」
だから自身の責だとイルハは言っているのだが。
「はぁ?なんだって?」
王子は聞き捨てならないと不満そうに聞き返した。
自身の失態に責任を感じ悪いと思っていた気持ちも吹き飛んでいる。
「女性からの頼みを断れる殿下ではございませんでしょう」
「……俺をなんだと思っていやがるんだ?」
「断れましたか?」
「う……そうは言うが、お前なら断れていたのかよ」
「そうですね。断らずとも私ならば共に付いていきました」
イルハは本当に王子を責めてはいなかった。
だが王子は、臣下からねちねちと嫌味を言われ続けている気分である。
「それでよく俺に預けておいたな?今日は何かトラブルでも起きていたのか?」
「いえ。仕事が溜まっていただけです。……っ!」
しれっと嘘を吐いたイルハの息が、王子にも知れず止まった。
まさか。ありえない。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる