国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♥選ぶもの

31.かつて東のある国でその王女は生まれた

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 その王女が即位したのは、一歳に満たないときだった。
 彼女を産んだ前女王は産後に悪化した体調が戻らずに亡くなってしまったのである。

 当時その国は王家の存続の危機にあった。
 王家の血が薄まっている傍系の者たちはいくらか存在していたが、直系と呼べる王族はもうこの生まれたばかりの王女一人となっていたのだ。

 国はすでに迷走を始めていた。

 王家の強い魔力を民たちが特別視するように築かれてきた国だ。
 あらゆるところに王家の魔力を用いた技術が溢れ、それで国民の生活が成り立っていたのである。

 だから傍系の強い魔力を有しない者たちでは、王位に相応しくなかった。

 王女は生まれた瞬間から、いや、そうではない。
 母である先代女王の腹に居たときから、その強い魔力に王家の存続と国の繁栄という期待を重ねられていた。

 本来ならば先代女王にあと二、三人の子を産んで欲しかったところであるが。
 亡くなってしまったからには仕方がない。

 残る王女を大事に育て、成人した暁には急ぎ結婚させて次代を多く産んで貰おう。

 これは王家に長く仕える者たちの、それから王家の傍系にある者たちの、一致した希望であり正義であり信念であった。
 王国会議でもそう決めたはずであったのに……。

 王女は女王に即位したが、赤ん坊であるからには、実際の政は宰相や大臣たちが執り行った。
 しかし女王には、赤ん坊のときから仕事を与えられていたのである。
 それは他の誰にも代行出来ないものだった。

 王国の存続に魔力は必須だ。
 だがその魔力を提供出来る者が当時は幼い女王しかいなかった。

 傍系の者たちも僅かには魔力を提供出来たが、とても国民の生活を支えられるようなものではなく。
 王家と関係ない魔術師も存在していたが、王国で開発されて使用されていた魔道具はすべて王家の特殊な魔力を必要としていたのだ。

 だから幼い女王は、その身に宿る多くの魔力を国のためと称して定期的に吸い取られた。

 女王の発育が良くないと気付いた者たちはいた。
 だが意見した者たちは、もやは王家の承認なく宰相や大臣を名乗り続ける者たちによって排除されていく。

 本来ならば、年に一度、王家から拝命されてその任に就けるのに。
 彼らは継続して同じ立場を自ら望み、その席に座り続けた。

「まだ女王は幼いから」

 その一言で王国の権力は限られし者たちに集中してしまった。
 
 後になって王国の崩壊のはじまりは、先代女王の崩御からだったと言われているが、彼らの腐敗した政こそが原因となったのではないかと言う人もいる。

 彼らは国民に不満の種を撒き過ぎていた。
 そして最も大事にしなければならない存在の信頼を得ていなかった。



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