国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

文字の大きさ
250 / 349
♥選ぶもの

33.夢の終わりと悪夢の始まり

しおりを挟む
 
 ある日、民は蜂起した。
 その日の詳細は今でも知られていない。

 ただ残る事実は、その日のうちに城は燃え落ち、クランベール王国という国がこの世から消え去ったこと。

 王国の中心に聳え立っていた白亜の王城は、陽に晒されて見事な輝きを放っていたと聞くが、その城は欠片もなく消えてしまった。

 さてさてその後に幼い女王の行方は知れず。

 城と共に焼け死んだと考えられてはいるものの、焼け落ちる前に誰かが逃がしていたのではないかという話も聞かれていた。
 とはいえその可能性は低く。
 城壁の欠片も残らなかった通り城の燃え方は異常で、当時城にいた者たちはすべて城と共に消え失せて、遺骨さえ発見されない状況だったのだから。

 まっさらで何もない地に吹く風に、多くの民たちは今もなお涙を流しているのだとか。
 こんなはずではなかった、と呟く声は今も虚しく風が攫っているらしい。

「それでもあいつは責任を感じちまっているんだろうな」

「それはどうかしらね」

 王子が言うと、隣に寄り添っていた妃のキリムがすぐに疑問を呈した。
 訝し気に眉を寄せた王子は、自身の妻にその本意を問う。

「あいつがそんな薄情な奴だと言うつもりか?」

「そうは言いませんわ。ただ殿下と同じお立場から気にしていらっしゃるかどうかは、分からないと思いましたの」

「俺と同じ立場だって?」

「では殿下はあの子のように、海を渡って遊んでいられて?」

 得心したように王子は頷く。

 妃の言い方はあれだが、確かにそうだ。
 自分ならすぐにでも立ち上がっているだろう。


 城が落ちて歓喜したクランベールの民は、直後に悪夢を見た。
 これからは自分たちがこの国を正しく動かしていくのだと信じていたそれは、簡単に泡となり消えてしまったからだ。

 実は蜂起した段階で、すでにクランベール王国はスピカートン王国の海軍に海上から包囲されていた。
 その海にいた者たちは、城からの煙を見るや武装して上陸を果たし、あっという間に国中を制圧してしまったのである。

 クランベール王国にも、まさか他国が国を奪いに来るという概念がなかったことは仇になった。
 そのうえ民が蜂起して、その日は国中の警備が手薄になっていたのだ。

 そうして初動が遅れ、すべては後の祭り。

 国の重鎮たちは元より、蜂起の際に民を率いた統率力のある者もまた、王城と共に消え去っていた。
 ばらばらに動いて、国の軍に勝てるわけがない。

 そのうえ王家の魔力で成り立つ生活をしていた彼等は、扱う武器の多くもまた、その魔力なくして成り立たないものだった。

 もはや誰もが抗う術を持たず、クランベール王国の民たちは、呆気なく隣国スピカートン王国の支配下に入ることになる。
 そうして、今まで以上に苦しい生活が始まった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い

雲乃琳雨
恋愛
 バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。  ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?  元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ“自分の居場所”を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

処理中です...