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♥選ぶもの
33.夢の終わりと悪夢の始まり
しおりを挟むある日、民は蜂起した。
その日の詳細は今でも知られていない。
ただ残る事実は、その日のうちに城は燃え落ち、クランベール王国という国がこの世から消え去ったこと。
王国の中心に聳え立っていた白亜の王城は、陽に晒されて見事な輝きを放っていたと聞くが、その城は欠片もなく消えてしまった。
さてさてその後に幼い女王の行方は知れず。
城と共に焼け死んだと考えられてはいるものの、焼け落ちる前に誰かが逃がしていたのではないかという話も聞かれていた。
とはいえその可能性は低く。
城壁の欠片も残らなかった通り城の燃え方は異常で、当時城にいた者たちはすべて城と共に消え失せて、遺骨さえ発見されない状況だったのだから。
まっさらで何もない地に吹く風に、多くの民たちは今もなお涙を流しているのだとか。
こんなはずではなかった、と呟く声は今も虚しく風が攫っているらしい。
「それでもあいつは責任を感じちまっているんだろうな」
「それはどうかしらね」
王子が言うと、隣に寄り添っていた妃のキリムがすぐに疑問を呈した。
訝し気に眉を寄せた王子は、自身の妻にその本意を問う。
「あいつがそんな薄情な奴だと言うつもりか?」
「そうは言いませんわ。ただ殿下と同じお立場から気にしていらっしゃるかどうかは、分からないと思いましたの」
「俺と同じ立場だって?」
「では殿下はあの子のように、海を渡って遊んでいられて?」
得心したように王子は頷く。
妃の言い方はあれだが、確かにそうだ。
自分ならすぐにでも立ち上がっているだろう。
城が落ちて歓喜したクランベールの民は、直後に悪夢を見た。
これからは自分たちがこの国を正しく動かしていくのだと信じていたそれは、簡単に泡となり消えてしまったからだ。
実は蜂起した段階で、すでにクランベール王国はスピカートン王国の海軍に海上から包囲されていた。
その海にいた者たちは、城からの煙を見るや武装して上陸を果たし、あっという間に国中を制圧してしまったのである。
クランベール王国にも、まさか他国が国を奪いに来るという概念がなかったことは仇になった。
そのうえ民が蜂起して、その日は国中の警備が手薄になっていたのだ。
そうして初動が遅れ、すべては後の祭り。
国の重鎮たちは元より、蜂起の際に民を率いた統率力のある者もまた、王城と共に消え去っていた。
ばらばらに動いて、国の軍に勝てるわけがない。
そのうえ王家の魔力で成り立つ生活をしていた彼等は、扱う武器の多くもまた、その魔力なくして成り立たないものだった。
もはや誰もが抗う術を持たず、クランベール王国の民たちは、呆気なく隣国スピカートン王国の支配下に入ることになる。
そうして、今まで以上に苦しい生活が始まった。
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