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♥選ぶもの
42.可哀想な子どもではなかった
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「お願い、イルハ。悲しまないで」
シーラがそう言ったときには、イルハはもうすっかり優しい顔付きに戻っていた。
どうせもう責める相手はいないというのに。
シーラを不安にさせるような顔だけはしまいと決めて話を聞き出し始めたはずのイルハは、無意識に感情を露わにしていたことを恥じていた。
だから今も、シーラにはいつもの優しいイルハに見えているはずである。
ところがシーラはそれでも語りたかったようだ。
「私はあの頃も楽しく過ごしていたんだよ?可哀想な子どもではなかったんだからね?」
「えぇ、分かっています」
同意を得られ、にこっと力なく笑ったシーラはなお語った。
「外に出られなくて当たり前だったでしょう?だから何も悲しくなかったんだよ。それにみんながね、私はここにいるべきなんだって言っていたんだ。危ないから外には出られないんだよって教えてくれていたの。だから部屋にいることが嫌なこととは思わなかった」
イルハはそっとシーラの頭を撫でた。
するとシーラの笑みは段々と崩れていく。それでもシーラはなんとか笑おうとしていた。
いつもとは違う歪な笑い方にイルハの胸は痛んだけれど、今度のイルハはちゃんと隠せている。
「イルハと同じ言葉をね、あれから何度も聞かされたよ。あのお城はとても美しかったんだよって、遠くの国で教えて貰うことになるなんてね。だから今は、ちゃんと見ておけばよかったなぁって。それだけは後悔していることかな」
壊すつもりなんてなかった。
ただ優しかった人たちが、自分を庇って倒れたときに。
もう動かなくなったときに。
突然やって来たあの人たちが首と胴体を切り離そうとしたその瞬間に。
これ以上壊されて堪るかと、人のものに触るなと、初めて持つ強い負の感情に狼狽えた。
そしてその強い想いに誘発されて、目のまえが青紫色に変わっていく。
最初は何事か分からなかった。
けれども学んではいたから、これがそうかと理解は出来た。
しかし理解の先に解決策はない。
少女は魔力の使い方も知らなければ、これが止められるものかどうかも分からなかった。
こうならないために、定期的に魔力を吸い出してくれていて、それがしかも国や民のためになっている、そう教わっていただけなのだ。
いつも魔力を奪ってきた彼らだって、万が一にも魔力暴走が起こったところで、すぐに魔力を奪ってしまえばそれで済むと考えていた。
だから対策を教えなかったのである。
いつもならそれで済むはずのこと。
それが当時は出来なくなっていた。
それを出来る人間が、蜂起した民たちの手によって、ことごとく倒されていたのだ。
そうでもなければ、こんな城の奥深くにある女王の私室に、民が辿り着くはずもないだろう。
魔力暴走に驚いた民たちは、最初は少女をなんとか止めようと声を掛けたり、近付いたりしていたが。
やがてそれは無理だと分かるや、急いで逃げ出してしまった。
だから少女は、彼らがどうなったかを知らないまま。
シーラがそう言ったときには、イルハはもうすっかり優しい顔付きに戻っていた。
どうせもう責める相手はいないというのに。
シーラを不安にさせるような顔だけはしまいと決めて話を聞き出し始めたはずのイルハは、無意識に感情を露わにしていたことを恥じていた。
だから今も、シーラにはいつもの優しいイルハに見えているはずである。
ところがシーラはそれでも語りたかったようだ。
「私はあの頃も楽しく過ごしていたんだよ?可哀想な子どもではなかったんだからね?」
「えぇ、分かっています」
同意を得られ、にこっと力なく笑ったシーラはなお語った。
「外に出られなくて当たり前だったでしょう?だから何も悲しくなかったんだよ。それにみんながね、私はここにいるべきなんだって言っていたんだ。危ないから外には出られないんだよって教えてくれていたの。だから部屋にいることが嫌なこととは思わなかった」
イルハはそっとシーラの頭を撫でた。
するとシーラの笑みは段々と崩れていく。それでもシーラはなんとか笑おうとしていた。
いつもとは違う歪な笑い方にイルハの胸は痛んだけれど、今度のイルハはちゃんと隠せている。
「イルハと同じ言葉をね、あれから何度も聞かされたよ。あのお城はとても美しかったんだよって、遠くの国で教えて貰うことになるなんてね。だから今は、ちゃんと見ておけばよかったなぁって。それだけは後悔していることかな」
壊すつもりなんてなかった。
ただ優しかった人たちが、自分を庇って倒れたときに。
もう動かなくなったときに。
突然やって来たあの人たちが首と胴体を切り離そうとしたその瞬間に。
これ以上壊されて堪るかと、人のものに触るなと、初めて持つ強い負の感情に狼狽えた。
そしてその強い想いに誘発されて、目のまえが青紫色に変わっていく。
最初は何事か分からなかった。
けれども学んではいたから、これがそうかと理解は出来た。
しかし理解の先に解決策はない。
少女は魔力の使い方も知らなければ、これが止められるものかどうかも分からなかった。
こうならないために、定期的に魔力を吸い出してくれていて、それがしかも国や民のためになっている、そう教わっていただけなのだ。
いつも魔力を奪ってきた彼らだって、万が一にも魔力暴走が起こったところで、すぐに魔力を奪ってしまえばそれで済むと考えていた。
だから対策を教えなかったのである。
いつもならそれで済むはずのこと。
それが当時は出来なくなっていた。
それを出来る人間が、蜂起した民たちの手によって、ことごとく倒されていたのだ。
そうでもなければ、こんな城の奥深くにある女王の私室に、民が辿り着くはずもないだろう。
魔力暴走に驚いた民たちは、最初は少女をなんとか止めようと声を掛けたり、近付いたりしていたが。
やがてそれは無理だと分かるや、急いで逃げ出してしまった。
だから少女は、彼らがどうなったかを知らないまま。
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