国を奪われた少女は、遠い海の向こうでエリート役人に捕まって溺愛される

春風由実

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♥選ぶもの

116.冗談から本気へ

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 これまでも海での話を沢山イルハに聞かせてきたシーラであったが。
 その話のどれもが、狙わずとも、シーラの船の異様な速さを語ることになる。

 もっとも近い国ライカルならば半日で着くとシーラは冗談でもなくそう言い切った。
 通常タークォンからは片道三日は掛かると言われている国だ。

 シーラを信用しているのでイルハは半信半疑にはならなかったものの、どんなものかという興味はずっと持っていた。

 それで何度もシーラを安心させようと、海に出るときには自分も船に乗るという話をしていたら。

 本当に乗る?
 行ってしまう?

 その場のノリみたいな気楽な会話のなかでなされたそれが、話しているうち本気に変わり。
 そしてライカルに行ってしまった。


 はじめは二人で行こうかと、それこそ新婚旅行の気分で考えていた二人だったけれど。
 数日だとしてテンをこのまま残していくのは良くないねという話になって、いつも世話をしてくれるリタやオルヴェにもたまには休暇を、そして気分転換の旅行を贈りたいね、という話題に移ろい。
 長旅でもないし平和な国と海域だからイルハの他に三人くらいなら船に乗せてもいいかなとシーラが許可したところで。

 レンスター家の全員で旅立つ計画はまとまった。

 決めてしまえば、イルハは迅速に動いた。
 王宮での仕事はすべて完璧に整え、王子に分からぬようにさっと海に出て行ったのだ。
 整えたはずの仕事で、何故か王子がいつも以上に仕事を抱えることになった件に関しては、それから予測していたか否かは別としてアルバーン・シュミットという男のイレギュラーな行動に関しては、イルハのあずかり知らぬところ、という結論である。

「俺にあえて言わなかったのは分かる。だがなんでこんな危うい時期に決行しやがったんだ?何かあって向こうにいる間に冬が来ちまったらどうする気だった?」

「それもあえてですね」

「……お前っ!」

 このときばかりは涼しい顔をして珈琲を味わう臣下に、本気で怒りを覚えた王子である。

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