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22.こちらに恋は溢れていないそうです
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従姉妹たちは二人とも早期の結婚を望んでおりました。
家のためにどこか余所の家へと嫁ぐ気でいたようです。
叔父さまは後継ぎを考えなくてよい立場でしたから、それでよかったのでしょう。
だからよく従姉妹たちは私に苦情を訴えていたのです。
どうも私が先だからという理由で家を上げて嫁ぎ先を探すことがままならなかったそうで、私は構わないと言っていたのですが、母が許さなかったのかもしれません。
そのたびに急ぎ母に伝え、お願いしてみると返していたのですが。
従姉妹たちはそれはいいと断りました。
それで苦情を言われましても、私とすれば一体どうすれば良いのやら、という感じでして……。
あの頃は私がこんな遠くに嫁ぐ未来はもちろん見えていませんでした。
領地に残り、父が見繕った相手と結婚し、弟を支えていく。漠然とそのような未来を描いたのです。
ちなみに弟にはずっと以前から婚約者がおります。
領内の分家筋の方ですが、何やら従姉妹たちが残念そうにしていたことには驚きました。
私には早く結婚しろと言うのに、アルの相手を決めるには早過ぎたんだそうです。
アルの将来がまとまっていた方が、家も領地も安泰だと思うのですが、従姉妹たちはそれは違うと憤っておりました。
それで急遽王命による私の結婚が決まりましたときには、今度こそ従姉妹たちは喜んでくれると思ったのですが。
ちょうど領地にいた二人は、ツンと上向きの同じ形をした鼻をさらに上にあげ、細い眉をきゅっと真ん中で結ぶように寄せていて、口を尖らせ現れたのです。
私は困惑しました。
だって彼女たち、突然私に立場を交換しなさいと言ってきたからです。
そのうえ相手は顔が分からないでしょうから、私の名で嫁いでもいいと言っていました。
国に叛意を示す行いを父が認めるわけはありませんし、そのような内容を語ることも不敬だと思ったのですが。
従姉妹たちは同じ言葉を繰り返して、聞く耳を持ちません。
侯爵様の想い人の存在について打ち明けられたのは、それからしばらくのことでした。
私を不憫に想い、二人は立場を変わってくれようとしたのでしょうか。
そういえば、最後にはまた二人が「王都には恋が溢れているのよ!ミシェルお姉さまも王都に立ち寄って行かれるとよろしいわ!」と強く訴えておりましたね。
ですから恋って溢れていていいものですの?
こちらに向かう途中に王都の側を通過するときには、どれほどのものか気になって仕方がなかったのですが。
でも旅行ではないので、立ち寄りませんでしたよ。王都の屋敷に泊まってもいいとは言われておりましたけれど、叔父さまたちのことをよく知りませんので、遠慮しておきました。
侯爵領ではどうなのでしょう?
「こちらでも恋は溢れているかしら?」
聞く気はなかったのですが。うっかりと呟いていたみたいです。
まぁ、とか。
これは大変ね、とか。
なんだか色々な声が聞こえてきました。
「溢れてはおりませんが、偏ったやたらと重たい恋を……いえ、一途に一人の方を想い続けていた人なら知っていますよ」
こら。辞めておきなさい。
と止める声も聞かれましたが、エレナは問います。
「幼い頃に恋に落ちて、その方と遠く離れても一人で勝手に想い続けて、手紙一通送れないくせに、ついに強引な手段を選び手に入れて、その割にうじうじと……奥様はこういう一途な方をどう思われますか?」
うじうじと……の先が気になりますが。
「ずっとお一人を想われているのでしたら、素敵なことだと思います」
一途であることは素晴らしいのではないでしょうか?
父も……いえ、弟も婚約者を大切にしていました。
「素敵だと言って頂けて良かったです。ねぇ、旦那様?」
旦那様?
「そろそろ用意が終わったかと思い、迎えに来たんだ」
振り返ると、扉のところに侯爵様が立っていました。
いつからそこにいたのかしら?
また侍女から「ヘタレはいけません」という言葉が聞こえてきました。
近付いて来た侯爵様はそれを聞こえていないような顔をして、頬に手を添え私を見ています。
「その……綺麗だと思う。お腹は空いただろうか?」
「はい!」
思わず大きな声で返事をしてしまいました。
実はお腹がぺこぺこだったのです。
お食事前ですからと、マリーが小さなお菓子を何度か口に運んでくれまして、それは嬉しかったのですけれど。
足りない。もっと食べたい。とそんな気持ちが余計に強まっておりました。
いけませんね。
夫人は満面の笑みなど見せてはならないもの。
きゅっと顔を引き締め、母らしい顔をしてみせます。
「……では、共に食堂へ」
妙な間がありましたが、侯爵様の手がさっとこちらに伸びました。
エスコートですね。
これは大丈夫、慣れています。練習してきましたからね。
え?相手は弟でしたけれど。
あぁ、アルは元気にしているでしょうか?
家のためにどこか余所の家へと嫁ぐ気でいたようです。
叔父さまは後継ぎを考えなくてよい立場でしたから、それでよかったのでしょう。
だからよく従姉妹たちは私に苦情を訴えていたのです。
どうも私が先だからという理由で家を上げて嫁ぎ先を探すことがままならなかったそうで、私は構わないと言っていたのですが、母が許さなかったのかもしれません。
そのたびに急ぎ母に伝え、お願いしてみると返していたのですが。
従姉妹たちはそれはいいと断りました。
それで苦情を言われましても、私とすれば一体どうすれば良いのやら、という感じでして……。
あの頃は私がこんな遠くに嫁ぐ未来はもちろん見えていませんでした。
領地に残り、父が見繕った相手と結婚し、弟を支えていく。漠然とそのような未来を描いたのです。
ちなみに弟にはずっと以前から婚約者がおります。
領内の分家筋の方ですが、何やら従姉妹たちが残念そうにしていたことには驚きました。
私には早く結婚しろと言うのに、アルの相手を決めるには早過ぎたんだそうです。
アルの将来がまとまっていた方が、家も領地も安泰だと思うのですが、従姉妹たちはそれは違うと憤っておりました。
それで急遽王命による私の結婚が決まりましたときには、今度こそ従姉妹たちは喜んでくれると思ったのですが。
ちょうど領地にいた二人は、ツンと上向きの同じ形をした鼻をさらに上にあげ、細い眉をきゅっと真ん中で結ぶように寄せていて、口を尖らせ現れたのです。
私は困惑しました。
だって彼女たち、突然私に立場を交換しなさいと言ってきたからです。
そのうえ相手は顔が分からないでしょうから、私の名で嫁いでもいいと言っていました。
国に叛意を示す行いを父が認めるわけはありませんし、そのような内容を語ることも不敬だと思ったのですが。
従姉妹たちは同じ言葉を繰り返して、聞く耳を持ちません。
侯爵様の想い人の存在について打ち明けられたのは、それからしばらくのことでした。
私を不憫に想い、二人は立場を変わってくれようとしたのでしょうか。
そういえば、最後にはまた二人が「王都には恋が溢れているのよ!ミシェルお姉さまも王都に立ち寄って行かれるとよろしいわ!」と強く訴えておりましたね。
ですから恋って溢れていていいものですの?
こちらに向かう途中に王都の側を通過するときには、どれほどのものか気になって仕方がなかったのですが。
でも旅行ではないので、立ち寄りませんでしたよ。王都の屋敷に泊まってもいいとは言われておりましたけれど、叔父さまたちのことをよく知りませんので、遠慮しておきました。
侯爵領ではどうなのでしょう?
「こちらでも恋は溢れているかしら?」
聞く気はなかったのですが。うっかりと呟いていたみたいです。
まぁ、とか。
これは大変ね、とか。
なんだか色々な声が聞こえてきました。
「溢れてはおりませんが、偏ったやたらと重たい恋を……いえ、一途に一人の方を想い続けていた人なら知っていますよ」
こら。辞めておきなさい。
と止める声も聞かれましたが、エレナは問います。
「幼い頃に恋に落ちて、その方と遠く離れても一人で勝手に想い続けて、手紙一通送れないくせに、ついに強引な手段を選び手に入れて、その割にうじうじと……奥様はこういう一途な方をどう思われますか?」
うじうじと……の先が気になりますが。
「ずっとお一人を想われているのでしたら、素敵なことだと思います」
一途であることは素晴らしいのではないでしょうか?
父も……いえ、弟も婚約者を大切にしていました。
「素敵だと言って頂けて良かったです。ねぇ、旦那様?」
旦那様?
「そろそろ用意が終わったかと思い、迎えに来たんだ」
振り返ると、扉のところに侯爵様が立っていました。
いつからそこにいたのかしら?
また侍女から「ヘタレはいけません」という言葉が聞こえてきました。
近付いて来た侯爵様はそれを聞こえていないような顔をして、頬に手を添え私を見ています。
「その……綺麗だと思う。お腹は空いただろうか?」
「はい!」
思わず大きな声で返事をしてしまいました。
実はお腹がぺこぺこだったのです。
お食事前ですからと、マリーが小さなお菓子を何度か口に運んでくれまして、それは嬉しかったのですけれど。
足りない。もっと食べたい。とそんな気持ちが余計に強まっておりました。
いけませんね。
夫人は満面の笑みなど見せてはならないもの。
きゅっと顔を引き締め、母らしい顔をしてみせます。
「……では、共に食堂へ」
妙な間がありましたが、侯爵様の手がさっとこちらに伸びました。
エスコートですね。
これは大丈夫、慣れています。練習してきましたからね。
え?相手は弟でしたけれど。
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