【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実

文字の大きさ
22 / 96

22.こちらに恋は溢れていないそうです

しおりを挟む
 従姉妹たちは二人とも早期の結婚を望んでおりました。
 家のためにどこか余所の家へと嫁ぐ気でいたようです。

 叔父さまは後継ぎを考えなくてよい立場でしたから、それでよかったのでしょう。

 だからよく従姉妹たちは私に苦情を訴えていたのです。

 どうも私が先だからという理由で家を上げて嫁ぎ先を探すことがままならなかったそうで、私は構わないと言っていたのですが、母が許さなかったのかもしれません。
 そのたびに急ぎ母に伝え、お願いしてみると返していたのですが。
 従姉妹たちはそれはいいと断りました。

 それで苦情を言われましても、私とすれば一体どうすれば良いのやら、という感じでして……。

 あの頃は私がこんな遠くに嫁ぐ未来はもちろん見えていませんでした。
 領地に残り、父が見繕った相手と結婚し、弟を支えていく。漠然とそのような未来を描いたのです。

 ちなみに弟にはずっと以前から婚約者がおります。
 領内の分家筋の方ですが、何やら従姉妹たちが残念そうにしていたことには驚きました。

 私には早く結婚しろと言うのに、アルの相手を決めるには早過ぎたんだそうです。
 アルの将来がまとまっていた方が、家も領地も安泰だと思うのですが、従姉妹たちはそれは違うと憤っておりました。

 それで急遽王命による私の結婚が決まりましたときには、今度こそ従姉妹たちは喜んでくれると思ったのですが。
 ちょうど領地にいた二人は、ツンと上向きの同じ形をした鼻をさらに上にあげ、細い眉をきゅっと真ん中で結ぶように寄せていて、口を尖らせ現れたのです。

 私は困惑しました。

 だって彼女たち、突然私に立場を交換しなさいと言ってきたからです。
 そのうえ相手は顔が分からないでしょうから、私の名で嫁いでもいいと言っていました。

 国に叛意を示す行いを父が認めるわけはありませんし、そのような内容を語ることも不敬だと思ったのですが。
 従姉妹たちは同じ言葉を繰り返して、聞く耳を持ちません。

 侯爵様の想い人の存在について打ち明けられたのは、それからしばらくのことでした。
 私を不憫に想い、二人は立場を変わってくれようとしたのでしょうか。

 そういえば、最後にはまた二人が「王都には恋が溢れているのよ!ミシェルお姉さまも王都に立ち寄って行かれるとよろしいわ!」と強く訴えておりましたね。

 ですから恋って溢れていていいものですの?

 こちらに向かう途中に王都の側を通過するときには、どれほどのものか気になって仕方がなかったのですが。
 でも旅行ではないので、立ち寄りませんでしたよ。王都の屋敷に泊まってもいいとは言われておりましたけれど、叔父さまたちのことをよく知りませんので、遠慮しておきました。

 侯爵領ではどうなのでしょう?

「こちらでも恋は溢れているかしら?」

 聞く気はなかったのですが。うっかりと呟いていたみたいです。

 まぁ、とか。
 これは大変ね、とか。
 なんだか色々な声が聞こえてきました。

「溢れてはおりませんが、偏ったやたらと重たい恋を……いえ、一途に一人の方を想い続けていた人なら知っていますよ」

 こら。辞めておきなさい。
 と止める声も聞かれましたが、エレナは問います。

「幼い頃に恋に落ちて、その方と遠く離れても一人で勝手に想い続けて、手紙一通送れないくせに、ついに強引な手段を選び手に入れて、その割にうじうじと……奥様はこういう一途な方をどう思われますか?」

 うじうじと……の先が気になりますが。

「ずっとお一人を想われているのでしたら、素敵なことだと思います」

 一途であることは素晴らしいのではないでしょうか?
 父も……いえ、弟も婚約者を大切にしていました。

「素敵だと言って頂けて良かったです。ねぇ、旦那様?」

 旦那様?

「そろそろ用意が終わったかと思い、迎えに来たんだ」

 振り返ると、扉のところに侯爵様が立っていました。

 いつからそこにいたのかしら?

 また侍女から「ヘタレはいけません」という言葉が聞こえてきました。
 近付いて来た侯爵様はそれを聞こえていないような顔をして、頬に手を添え私を見ています。

「その……綺麗だと思う。お腹は空いただろうか?」

「はい!」

 思わず大きな声で返事をしてしまいました。
 実はお腹がぺこぺこだったのです。

 お食事前ですからと、マリーが小さなお菓子を何度か口に運んでくれまして、それは嬉しかったのですけれど。
 足りない。もっと食べたい。とそんな気持ちが余計に強まっておりました。

 いけませんね。
 夫人は満面の笑みなど見せてはならないもの。

 きゅっと顔を引き締め、母らしい顔をしてみせます。

「……では、共に食堂へ」

 妙な間がありましたが、侯爵様の手がさっとこちらに伸びました。

 エスコートですね。
 これは大丈夫、慣れています。練習してきましたからね。

 え?相手は弟でしたけれど。

 あぁ、アルは元気にしているでしょうか?



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

処理中です...