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29.遠い場所では空も太陽も違っていました
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お作法に関しては、アルに手紙を送ることとは別に、私も侍女たちに踏み込んで詳しく聞いた方が良さそうです。
というのも、軽く聞いてみましても、皆さん「それは旦那様に」と言ってすぐに別の話を始めてしまうからです。
侍女たちがそう言うのですから、ここはユージーン様に直接聞いた方がよろしいかしら?
作法も知らない妻が来たと、がっかりされないことを願います。
聞くとしたら、頭を撫でられている今でしょうか?
「次はどこに行きたい?」
今ではなかったようです。
まずは厨房。何を置いても厨房でした。
つまり厨房以外には、優先すべき場所は特になかったのです。
皆さんにご挨拶をしながら、最後に屋敷全体を把握出来ていたら嬉しいとは思います。
「特になければ私に任せてくれ。そうだな、陽が高いうちに──ではミシェル、行こうか」
手を差し出されたら、もうどうなるか分かっています。
がっしりと手を握り締められまして、連れられて来た場所はお庭でした。
どうしても捕獲され連行されていく気分になります。
そうそう。
食堂から見えたお庭を歩きたいと思っていたのでした。
驚いたことには、外に出るとシシィがさっと日傘をさしてくれたのです。
断ったのですが、どうしてもと言うので、では自分で持つと言ったら、今度は仕事を奪われては困ると言われ。
そういうものなのでしょうか?
日傘の存在は知っていますが、自分で使ったことがありません。
「我が領地と君の故郷では、陽射しの強さが違っているんだ」
「そんなことが?」
「あぁ。こちらは陽射しが強いから、君も慣れるまでは日傘をさしておいた方がいい。だが、そうだな。これでは二人になれ──いい、下がれ。私が持つ」
シシィからさっと日傘を奪ったユージーン様は、しかしながらとても悩んでおられました。
左手で私の手を握り締め、右手はご自身の胸に交差する形で日傘を私の上に翳してくださったのですが。
おそらく歩きにくいと感じたのでしょう。
ですから、どうしても必要ならば私が持ちますのに。
あるいは、手を離してくださっても。
「ですから旦那様。私がお持ちいたします」
「くっ──仕方ないか」
結局日傘はシシィの手元に戻りました。
ユージーン様が右を、シシィが私の左を歩いておりまして、やっぱり私は捕らわれた気分を味わいます。
けれども見事なお庭に目を奪われて、そんな気持ちはたちまち消え去っていきました。
「草花も様子が違って面白いだろう?」
「はい。見たことのないお花ばかり。面白いです」
それに空も綺麗。
なんだか故郷より濃い青に見えるのは気のせいかしら?
くっきりと鮮明な色を感じるのは、日傘の影との対比のせい?
同じ空のはずですのに。
太陽も確かにぎらぎらとしていて、故郷で見てきたものよりも力強い気がします。
空も太陽も場所によって違うなんてことはあるのかしら?
もしかして月も違っている?
そういえばまだ夜の月をこちらでは見ていません。
「君が気に入ってくれて良かった。だが庭をこうしたいという希望があれば、言ってくれていいからな」
とんでもございません。
こんなに素晴らしいお庭、もうそのままで素晴らしいです。
故郷では私が庭いじりをしますと、侍女たちが慌てて止めに来ていました。
庭師に希望を話したら、アルが急いで私の口を押さえることもありましたね。
だからここでもおとなしくしておいた方が良いと思うのです。
いえ、そんなことを言われていた気もします。
嫁ぎ先でもどうか、屋敷や庭をどうこうしようと思いませんように、と。
それも言った人は一人や二人ではありませんでしたね。
「あら、このお花。とても──」
目に留まる花があって、少し屈んだときでした。
背後から足音を立てずに急ぎ近付いてくる者がおりまして。
敵襲かと思った私はすぐにしゅっと背筋を伸ばし身構えておきましたのに。
何故かユージーン様が背中に回す形でぐっと私の肩に手を置いてございます。
私は守らなくても平気ですよ?
それよりシシィを守って頂いたほうが。いえ、私の侍女ですし、私が守りましょう。
シシィも目を見る限り強そうですがね。
ですから、ユージーン様。
動きやすいように肩から手を離してくださいませ。
見上げれば近距離で目が合いました。
すぐに微笑みを返されます。
目力に込めた想いはやはり伝わっていないようですね。
もしやここに来てから客間でだらだらと過ごしていたせいで、腕が鈍っているのではないかしら?
そういうことでしたのね?
今日からすぐにでも鍛錬を始めましょう。
ですが、どこでどう行いましょうか。
このお庭でそうするならば、夜にバルコニーからこっそりと抜け出して……。
それが侯爵夫人としてありかなしかが分かりません。
あら?懐かしい侍女の声が聞こえましたよ。
なしだそうです。
遠隔助言が出来るなんて。
故郷の侍女たちが有能過ぎます。
というのも、軽く聞いてみましても、皆さん「それは旦那様に」と言ってすぐに別の話を始めてしまうからです。
侍女たちがそう言うのですから、ここはユージーン様に直接聞いた方がよろしいかしら?
作法も知らない妻が来たと、がっかりされないことを願います。
聞くとしたら、頭を撫でられている今でしょうか?
「次はどこに行きたい?」
今ではなかったようです。
まずは厨房。何を置いても厨房でした。
つまり厨房以外には、優先すべき場所は特になかったのです。
皆さんにご挨拶をしながら、最後に屋敷全体を把握出来ていたら嬉しいとは思います。
「特になければ私に任せてくれ。そうだな、陽が高いうちに──ではミシェル、行こうか」
手を差し出されたら、もうどうなるか分かっています。
がっしりと手を握り締められまして、連れられて来た場所はお庭でした。
どうしても捕獲され連行されていく気分になります。
そうそう。
食堂から見えたお庭を歩きたいと思っていたのでした。
驚いたことには、外に出るとシシィがさっと日傘をさしてくれたのです。
断ったのですが、どうしてもと言うので、では自分で持つと言ったら、今度は仕事を奪われては困ると言われ。
そういうものなのでしょうか?
日傘の存在は知っていますが、自分で使ったことがありません。
「我が領地と君の故郷では、陽射しの強さが違っているんだ」
「そんなことが?」
「あぁ。こちらは陽射しが強いから、君も慣れるまでは日傘をさしておいた方がいい。だが、そうだな。これでは二人になれ──いい、下がれ。私が持つ」
シシィからさっと日傘を奪ったユージーン様は、しかしながらとても悩んでおられました。
左手で私の手を握り締め、右手はご自身の胸に交差する形で日傘を私の上に翳してくださったのですが。
おそらく歩きにくいと感じたのでしょう。
ですから、どうしても必要ならば私が持ちますのに。
あるいは、手を離してくださっても。
「ですから旦那様。私がお持ちいたします」
「くっ──仕方ないか」
結局日傘はシシィの手元に戻りました。
ユージーン様が右を、シシィが私の左を歩いておりまして、やっぱり私は捕らわれた気分を味わいます。
けれども見事なお庭に目を奪われて、そんな気持ちはたちまち消え去っていきました。
「草花も様子が違って面白いだろう?」
「はい。見たことのないお花ばかり。面白いです」
それに空も綺麗。
なんだか故郷より濃い青に見えるのは気のせいかしら?
くっきりと鮮明な色を感じるのは、日傘の影との対比のせい?
同じ空のはずですのに。
太陽も確かにぎらぎらとしていて、故郷で見てきたものよりも力強い気がします。
空も太陽も場所によって違うなんてことはあるのかしら?
もしかして月も違っている?
そういえばまだ夜の月をこちらでは見ていません。
「君が気に入ってくれて良かった。だが庭をこうしたいという希望があれば、言ってくれていいからな」
とんでもございません。
こんなに素晴らしいお庭、もうそのままで素晴らしいです。
故郷では私が庭いじりをしますと、侍女たちが慌てて止めに来ていました。
庭師に希望を話したら、アルが急いで私の口を押さえることもありましたね。
だからここでもおとなしくしておいた方が良いと思うのです。
いえ、そんなことを言われていた気もします。
嫁ぎ先でもどうか、屋敷や庭をどうこうしようと思いませんように、と。
それも言った人は一人や二人ではありませんでしたね。
「あら、このお花。とても──」
目に留まる花があって、少し屈んだときでした。
背後から足音を立てずに急ぎ近付いてくる者がおりまして。
敵襲かと思った私はすぐにしゅっと背筋を伸ばし身構えておきましたのに。
何故かユージーン様が背中に回す形でぐっと私の肩に手を置いてございます。
私は守らなくても平気ですよ?
それよりシシィを守って頂いたほうが。いえ、私の侍女ですし、私が守りましょう。
シシィも目を見る限り強そうですがね。
ですから、ユージーン様。
動きやすいように肩から手を離してくださいませ。
見上げれば近距離で目が合いました。
すぐに微笑みを返されます。
目力に込めた想いはやはり伝わっていないようですね。
もしやここに来てから客間でだらだらと過ごしていたせいで、腕が鈍っているのではないかしら?
そういうことでしたのね?
今日からすぐにでも鍛錬を始めましょう。
ですが、どこでどう行いましょうか。
このお庭でそうするならば、夜にバルコニーからこっそりと抜け出して……。
それが侯爵夫人としてありかなしかが分かりません。
あら?懐かしい侍女の声が聞こえましたよ。
なしだそうです。
遠隔助言が出来るなんて。
故郷の侍女たちが有能過ぎます。
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