【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実

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39.きらきらしい人が現れました

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 シシィの二度目の言葉には、とても強い圧を感じました。
 その目を見るのはやめておき、私はすました顔をして、ソファーに深く腰を掛けたまま、薬草入りのお茶を味わいます。

 えぇ、素敵な目だと思いますし、憧れておりますとも。

 けれどもその目がこちらに向いた場合には、話が変わります。
 私だって蛇に睨まれた蛙にはなりたくないものです。

 ほほほ。相変わらず渋いお茶ですねぇ。

 お医者様の助言もありまして、今日は一日、お腹の体調を考慮した特別なお茶を用意してくださるのだとか。
 苦みが強くとても美味しくはありませんが、これも夫人らしく我慢です。


 そうです。お医者様といえば。
 今朝はとても嬉しいこともございました。

 朝食の直前にお医者様に診察して頂いたのですが、なんと私も「稀にみる健康体ですね」と言っていただけたのです。
 これは身体だけはユージーン様の隣に立つ夫人として相応しいと認められたということではないかしら?

 とても嬉しくて喜んでいたら、ユージーン様があの目を細めた渋いお顔をされておりました。

 あのとき、どこか気まずそうに、何か言いたげに見えていたのは、気のせいかしら?


 そうこうしているうちに、声がどんどんと近付いてございます。
 さすが。戻ってくる歩みもお速いっ。


「何故お前が来る!」

「関所の皆は叱らないでやってよ。僕が頼んだからさぁ」

「そういうことは聞いていない。何をしに来た!」

「前触れなく来たのはごめんね。だけど君に伝えったって、断られるだろう?」

「分かっているなら、来るな!」
 

 言葉がはっきりと聞き取れるようになりました。
 けれどもまだ何が起きているかは読めません。

 二人分の大声と共に、何故かお部屋に近付く足音はいくつも聞こえてございます。
 ユージーン様やタナトスの足音ではないようですが、その他隠す気のない足音は、どうも隊のようにぞろぞろと後方に列をなして先頭に続いているようなのです。

 一体何が起きているのでしょうか?
 危機を察したユージーン様が、邸内に一隊招き入れたということかしら?


 やがて先頭二人分の足音が止まりまして、扉がノックされました。

「何を勝手に人の妻の部屋をノックしている。それよりもだ。何故、妻の部屋を把握しているんだ!この屋敷に詳し過ぎるだろう!ミシェル、出なくていい」

 その声はユージーン様です。

 扉の向こうで何やら揉めているご様子。
 ガタガタと音が鳴っていますが、大丈夫なのかしら?

 闘いならば、内側からも応戦しますのに。
 もしや……誰か人質に取られ、あるいは痛いところを脅されて仕方なく邸内に敵の一団を……。


 やはりここは立ち上がって、内から応戦……近くから威圧を感じたのでおとなしく座っておきます。
 今は闘うときではないようです。


「どうしてさ!僕だって久々の再会なんだ。君はもう十分に楽しんだ後だろう?結婚式だって招待状が来ないから遠慮してやったというのに」

「誰が招待状なんぞ送るか。呼んでいないし、帰れ」

「誰のおかげで、ミシェルが手に入ったと思っているのさ」

「私の功績だ。恩に着せるな。人の妻を呼び捨てるな」


 声の雰囲気からは、闘いの最中にあるようには感じ取れません。
 揉めているようではありますが、殺気のようなものはございませんし、相手の出方を待つ探り合いの緊張感も感じられません。

 それどころか、とても気安い仲のような……?

 ご友人かしら?


「わー、怖い。妻にした途端にこれだから。ミシェル、入るね?」

「え?はい?え?」

 急に呼び掛けられてすっかり困惑してしまった私は、いいお返事を出来ませんでした。
 敵ではないお客さまでしたら、侯爵夫人らしく対応せねばと思っておりましたのに。

 今度こそと、急いでカップをテーブルに置いたあと、おそるおそるシシィを見ます。

 とても優しい目をして微笑んでおりました。

 許可と受け取り、ドレスを払いながら、立ち上がります。
 お行儀よく出来ていない気もしますが、まずはお客様をお出迎えしなければ。

 何故かお客様は私の名をよくご存知のようですし。
 知らない声ですが、夫人らしくしっかりとご挨拶をして、すでにお見知りおきくださったことにお礼を伝えねば。


「おい、妻の部屋には入るな!会うなら応接室で──」

「ミシェル!久しぶりだね!」


 ばっと勢いよく扉が開いて、入ってきたのは明るい髪をもつ若い男性でした。
 室内でも光を集め輝く髪は美しく、陽射しの中で見ればなお美しいことでしょう。と、余計なことを考えてしまったために一間空いてしまいましたが、すぐに目が合いまして。
 髪に負けず光を集める瞳は、瞬く間に私の記憶を引き出していったのです。


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