43 / 96
43.口が勝手に動きます
しおりを挟む
勝負の約束などしていたかと記憶を探っていたところ。
「その考えはひとまず横に置いておこう」
ユージーン様がそのように仰るので、私は一旦自分で考えたことを忘れておきます。
と決めましても、気になってしまいますね。
勝負していたのでしたら、私ももっと鍛錬を頑張りましたのに。
私はこう見えて、意外と負けず嫌いなのですよ。
え?意外ではない?
それはアルにもよく言われていました。
私のどの辺りに意外性がないのかしら?
ごほん、ごほんと、ユージーン様が二度も咳をなさいます。
本当に変わった癖ですね。
それでもこの方は稀に見る健康体なのです。
「あいつの……ハルの言っていたことは事実なんだ。手助けをしてくれたのは陛下であって、別にあいつに恩を感じるつもりはないが」
ハルの言葉は事実?
どの言葉の話でしょう。
恩……恩に着せるなと仰られていましたね。
えぇと、その前にハルは何を……。
誰のおかげで私が手に入ったかとハルがユージーン様に問うておりました。
つまり……?
「有難いことに褒賞を頂く話があってな。何が良いかと問われたから、此度の王命を頂くように頼んでしまった」
王命を頼んだ?
え?王命って陛下に頼めるものだったのですか?
それも褒賞として?
その王命が…………私との結婚?
「君と──ミシェルとどうしても結婚したかったんだ。こうでもしないと、伯は絶対に君を手放してはくれぬと思ってな。昔からどうしても欲しいなら正当な手段で奪ってみせよと言っておられたし」
息を呑んでしまいました。
呼吸が止まって苦しくなっていたら、驚いたユージーン様が私の背中を撫でて「落ち着いて、息を吐いて吸え」と言ってくださいます。
すーはーと繰り返し息を整え、落ち着いたところで、ユージーン様のお顔を見ました。
いえ、心臓はまったく落ち着いてはおりませんでしたけれど。
収まるまで待てなかったのです。
「あのときに、あの部屋でしたお約束を守ろうとしてくださったのですね?」
「っ!──覚えていてくれたのか」
「記憶力だけはあるので」
ふわっと軽い笑みが零れました。
なんだか胸がじんわりと熱くなっていきます。
さらに心臓がどくどくと激しく脈打って、その激しさが止まらなくなりました。
稀に見る健康体は本当にどこへ行ってしまったのでしょうか?
今朝言っていただいたばかりですのに。
「はじめに言っておけばよかったな。あぁ、すまない。私が臆病だったあまりに」
臆病?
大変です。
また分からない話になっています。
聞き流すことなく、しっかり聞いておかなければ。
「君が全部忘れてしまっていると知ることが怖かったんだ。それで──遠回しに確認したく、昔話を聞き出すようなことをしていた」
そのための昔話だったのですか!
私はただお互いを早く知るために、幼い頃の話を共有しているのだと思っていました。
そういえば……お話の内容に共通点が多いなぁと思っていたのです。
こちらの領地にも、同じ花が咲いているみたいね。
とてもよく似た構造の騎士団の訓練場があるみたいだわ。
といったように。
「それで、このお部屋を?」
「気持ち悪くなかったか?」
聞いた答えではなく、ユージーン様からはそのように返ってきました。
私はどうしてここに来てからというもの、何度も気持ち悪くないかと問われているのでしょうか?
私が首を振りますと、ユージーン様はまた柔らかく微笑んでくださいました。
こういう笑顔になると、かつての面影が強まっていたのですね。
でももう可憐な天使とはいきません。
目を凝らして比較でもしなければ、その面影もすぐに見えなくなってしまうものでしたから、いまだにどこか、信じられない気持ちです。
「むしろこのお部屋が嬉しくて──」
あら?
また視界不良に……。
「あぁ、すまない。泣かせる気はなくてだな」
目が壊れてしまったのでしょうか?
自分でもどうして泣いているかが分かりません。
すでに何を考えているかもよく分からなくなっていました。
頭の中に白く靄が掛かっているみたい。
それなのに言葉は勝手に口から出ていきます。
「本当に、本当にユージーン様が、あのジンなのでしたら……どうしてですの?」
責める気持ちなどひとつもないのに、語気を強めてしまいました。
そして私の口はまだ止まってくれません。
「事前に教えてくださらなかったのはどうして?」
文を出す時間くらいはありました。
王命があってからも、一往復くらいなら余裕で出来たはずです。
でも、それよりも。
「お会いしてからも、距離を取っていましたよね?それはどうして?」
その理由が結婚したくなかったせいではないとしたら。
あの関所で久しぶりに再会した私にがっかりしたということですね?
私は結局、お飾りの妻にもなれませんか?
「その考えはひとまず横に置いておこう」
ユージーン様がそのように仰るので、私は一旦自分で考えたことを忘れておきます。
と決めましても、気になってしまいますね。
勝負していたのでしたら、私ももっと鍛錬を頑張りましたのに。
私はこう見えて、意外と負けず嫌いなのですよ。
え?意外ではない?
それはアルにもよく言われていました。
私のどの辺りに意外性がないのかしら?
ごほん、ごほんと、ユージーン様が二度も咳をなさいます。
本当に変わった癖ですね。
それでもこの方は稀に見る健康体なのです。
「あいつの……ハルの言っていたことは事実なんだ。手助けをしてくれたのは陛下であって、別にあいつに恩を感じるつもりはないが」
ハルの言葉は事実?
どの言葉の話でしょう。
恩……恩に着せるなと仰られていましたね。
えぇと、その前にハルは何を……。
誰のおかげで私が手に入ったかとハルがユージーン様に問うておりました。
つまり……?
「有難いことに褒賞を頂く話があってな。何が良いかと問われたから、此度の王命を頂くように頼んでしまった」
王命を頼んだ?
え?王命って陛下に頼めるものだったのですか?
それも褒賞として?
その王命が…………私との結婚?
「君と──ミシェルとどうしても結婚したかったんだ。こうでもしないと、伯は絶対に君を手放してはくれぬと思ってな。昔からどうしても欲しいなら正当な手段で奪ってみせよと言っておられたし」
息を呑んでしまいました。
呼吸が止まって苦しくなっていたら、驚いたユージーン様が私の背中を撫でて「落ち着いて、息を吐いて吸え」と言ってくださいます。
すーはーと繰り返し息を整え、落ち着いたところで、ユージーン様のお顔を見ました。
いえ、心臓はまったく落ち着いてはおりませんでしたけれど。
収まるまで待てなかったのです。
「あのときに、あの部屋でしたお約束を守ろうとしてくださったのですね?」
「っ!──覚えていてくれたのか」
「記憶力だけはあるので」
ふわっと軽い笑みが零れました。
なんだか胸がじんわりと熱くなっていきます。
さらに心臓がどくどくと激しく脈打って、その激しさが止まらなくなりました。
稀に見る健康体は本当にどこへ行ってしまったのでしょうか?
今朝言っていただいたばかりですのに。
「はじめに言っておけばよかったな。あぁ、すまない。私が臆病だったあまりに」
臆病?
大変です。
また分からない話になっています。
聞き流すことなく、しっかり聞いておかなければ。
「君が全部忘れてしまっていると知ることが怖かったんだ。それで──遠回しに確認したく、昔話を聞き出すようなことをしていた」
そのための昔話だったのですか!
私はただお互いを早く知るために、幼い頃の話を共有しているのだと思っていました。
そういえば……お話の内容に共通点が多いなぁと思っていたのです。
こちらの領地にも、同じ花が咲いているみたいね。
とてもよく似た構造の騎士団の訓練場があるみたいだわ。
といったように。
「それで、このお部屋を?」
「気持ち悪くなかったか?」
聞いた答えではなく、ユージーン様からはそのように返ってきました。
私はどうしてここに来てからというもの、何度も気持ち悪くないかと問われているのでしょうか?
私が首を振りますと、ユージーン様はまた柔らかく微笑んでくださいました。
こういう笑顔になると、かつての面影が強まっていたのですね。
でももう可憐な天使とはいきません。
目を凝らして比較でもしなければ、その面影もすぐに見えなくなってしまうものでしたから、いまだにどこか、信じられない気持ちです。
「むしろこのお部屋が嬉しくて──」
あら?
また視界不良に……。
「あぁ、すまない。泣かせる気はなくてだな」
目が壊れてしまったのでしょうか?
自分でもどうして泣いているかが分かりません。
すでに何を考えているかもよく分からなくなっていました。
頭の中に白く靄が掛かっているみたい。
それなのに言葉は勝手に口から出ていきます。
「本当に、本当にユージーン様が、あのジンなのでしたら……どうしてですの?」
責める気持ちなどひとつもないのに、語気を強めてしまいました。
そして私の口はまだ止まってくれません。
「事前に教えてくださらなかったのはどうして?」
文を出す時間くらいはありました。
王命があってからも、一往復くらいなら余裕で出来たはずです。
でも、それよりも。
「お会いしてからも、距離を取っていましたよね?それはどうして?」
その理由が結婚したくなかったせいではないとしたら。
あの関所で久しぶりに再会した私にがっかりしたということですね?
私は結局、お飾りの妻にもなれませんか?
13
あなたにおすすめの小説
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる