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47.修行が足りないようです
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「違う。そうではない。ミシェルはもう私の妻だ。書類はしかと受理されている」
良かったです。
文書偽造に加担してしまったかと思いました。
この結婚は陛下も欺く必要があるくらいの、陰謀に包まれた──なんて想像を膨らませるところでした。
いえ、もう大分想像は進んでおりましたけれど。
「無駄に想像させてすまない。もう妻にしたあとに言うことではなかったな。だが一度ちゃんと伝えて、答えを聞いておきたかったんだ。ミシェルは私が夫で嫌ではないか?」
首を振ったら、もう全身が捕まえられていて驚きました。
襲撃かと身構える間もありません。
ユージーン様になら、簡単に寝首を掻かれてしまう気がしますね。
もっと鍛錬しておいた方がいいかしら?
手合わせもするようですし。
でも──温かいですね。
トクトクと音がしています。ユージーン様の心の音です。
本当に大きくなって……。
目を閉じると、懐かしいあの部屋の中で約束した記憶が蘇ってきました。
女の子と見間違う可憐な少年が私の隣に座って笑っています。
そうですね、あのときも手を繋いでおりました。
小さな手は温かくて柔らかかったことも思い出せます。
『ミシェル。僕が将来、同じ部屋を用意してあげるからね。だから結婚しよう』
時間を切り取ったように人のことだけを覚えているのは、何故なのでしょうね。
どうしても私がこのとき何と答えたか、それが思い出せません。
あの頃のジンの言葉なら、いくらでも思い出せますのに。
『ミシェル、おいで。こっそり鍛えられそうないい場所が見付かったからね。皆には内緒だよ?』
『ミシェル、これもお食べ。美味しいものを沢山食べないと強くなれないんだよ?』
当時もよく手を引かれていたことを思い出しました。
幼い頃にあれが最新のお作法なのか、確認しておかなかったことを後悔します。
それからも次々と浮かぶ想い出の言葉を追い掛けていると、気付きました。
『ねぇ、結婚しよう?』
『僕が一番ミシェルの結婚相手に相応しいと思わない?』
『必ず結婚出来るようにするから。それまで他の誰とも結婚したらいけないよ?』
あのお部屋で言われただけではなかったのです。
ジンは頻繁に結婚の話題に触れていたのですね。
残念なことには、どのときの私の答えも分かりません。
けれどきっと、私は約束してしまっていたのでしょうね。
だからジンはこのように──。
「律儀に幼い頃の約束なんて守らなくても良かったのですよ?お断りしなかった私も悪いのですが」
「違うよ、ミシェル。それも違う」
私はまた間違えたようです。
「君は最後までいい返事をくれなかったけれど、私はずっと君が良くて──どうしても妻は君が良かった」
いい返事をくれなかった?
私は断っていたということでしょうか?
それとも……?
けれどもそれより気になることがございます。
どうしても知りたくなって聞いてしまいました。
「どうして私を妻にしたかったのですか?」
「──君が良かったからね」
その理由を知りたいのです。
「まぁ、それはおいおい──くっ。シシィのやつめ」
またシシィが遠隔で何かを伝えてきたのでしょうか?
シシィはやはり凄い人です。
弟子入りしたい……。
ごほん、ごほんと咳が続きます。
「まずはすべての憂いを取っ払ってからだ。ミシェル。この際だから、全部聞いておこうと思う。まだ何か気にしていることはないか」
「気にしていることですか?」
「あぁ。この結婚において何か心配事などあれば、もう全部言っておいて欲しい」
心配事……心配…………はっ!
私はもうひとつ明かさなければならない重大なことを思い出します。
「あの、ユージーン様」
「昔のようにジンと呼んでくれないか?」
「あうっ」
変な声が漏れてしまい、私は慌てて口を押さえました。
捕まっていない方の手を使いましたよ。
いくら引いても捕まっている方の手は、微塵も動きませんので。
背中に腕を回されているのに、なお手を捕えて離さないというこの体術。
どうなっているのかしら。
こちらも学びたいところです。
「ハルは良くて私は駄目な理由は何だ……」
すっかり落ち込んだ声に、私の心は先ほどまでとはまた違い落ち着かなくなりました。
ざわざわざわざわと胸に嫌な感じが広がる一方で、この方を早く元気にしなければ!と私の気が焦るのです。
いったいどうしたというのかしら?
こんなことは初めてです。
良かったです。
文書偽造に加担してしまったかと思いました。
この結婚は陛下も欺く必要があるくらいの、陰謀に包まれた──なんて想像を膨らませるところでした。
いえ、もう大分想像は進んでおりましたけれど。
「無駄に想像させてすまない。もう妻にしたあとに言うことではなかったな。だが一度ちゃんと伝えて、答えを聞いておきたかったんだ。ミシェルは私が夫で嫌ではないか?」
首を振ったら、もう全身が捕まえられていて驚きました。
襲撃かと身構える間もありません。
ユージーン様になら、簡単に寝首を掻かれてしまう気がしますね。
もっと鍛錬しておいた方がいいかしら?
手合わせもするようですし。
でも──温かいですね。
トクトクと音がしています。ユージーン様の心の音です。
本当に大きくなって……。
目を閉じると、懐かしいあの部屋の中で約束した記憶が蘇ってきました。
女の子と見間違う可憐な少年が私の隣に座って笑っています。
そうですね、あのときも手を繋いでおりました。
小さな手は温かくて柔らかかったことも思い出せます。
『ミシェル。僕が将来、同じ部屋を用意してあげるからね。だから結婚しよう』
時間を切り取ったように人のことだけを覚えているのは、何故なのでしょうね。
どうしても私がこのとき何と答えたか、それが思い出せません。
あの頃のジンの言葉なら、いくらでも思い出せますのに。
『ミシェル、おいで。こっそり鍛えられそうないい場所が見付かったからね。皆には内緒だよ?』
『ミシェル、これもお食べ。美味しいものを沢山食べないと強くなれないんだよ?』
当時もよく手を引かれていたことを思い出しました。
幼い頃にあれが最新のお作法なのか、確認しておかなかったことを後悔します。
それからも次々と浮かぶ想い出の言葉を追い掛けていると、気付きました。
『ねぇ、結婚しよう?』
『僕が一番ミシェルの結婚相手に相応しいと思わない?』
『必ず結婚出来るようにするから。それまで他の誰とも結婚したらいけないよ?』
あのお部屋で言われただけではなかったのです。
ジンは頻繁に結婚の話題に触れていたのですね。
残念なことには、どのときの私の答えも分かりません。
けれどきっと、私は約束してしまっていたのでしょうね。
だからジンはこのように──。
「律儀に幼い頃の約束なんて守らなくても良かったのですよ?お断りしなかった私も悪いのですが」
「違うよ、ミシェル。それも違う」
私はまた間違えたようです。
「君は最後までいい返事をくれなかったけれど、私はずっと君が良くて──どうしても妻は君が良かった」
いい返事をくれなかった?
私は断っていたということでしょうか?
それとも……?
けれどもそれより気になることがございます。
どうしても知りたくなって聞いてしまいました。
「どうして私を妻にしたかったのですか?」
「──君が良かったからね」
その理由を知りたいのです。
「まぁ、それはおいおい──くっ。シシィのやつめ」
またシシィが遠隔で何かを伝えてきたのでしょうか?
シシィはやはり凄い人です。
弟子入りしたい……。
ごほん、ごほんと咳が続きます。
「まずはすべての憂いを取っ払ってからだ。ミシェル。この際だから、全部聞いておこうと思う。まだ何か気にしていることはないか」
「気にしていることですか?」
「あぁ。この結婚において何か心配事などあれば、もう全部言っておいて欲しい」
心配事……心配…………はっ!
私はもうひとつ明かさなければならない重大なことを思い出します。
「あの、ユージーン様」
「昔のようにジンと呼んでくれないか?」
「あうっ」
変な声が漏れてしまい、私は慌てて口を押さえました。
捕まっていない方の手を使いましたよ。
いくら引いても捕まっている方の手は、微塵も動きませんので。
背中に腕を回されているのに、なお手を捕えて離さないというこの体術。
どうなっているのかしら。
こちらも学びたいところです。
「ハルは良くて私は駄目な理由は何だ……」
すっかり落ち込んだ声に、私の心は先ほどまでとはまた違い落ち着かなくなりました。
ざわざわざわざわと胸に嫌な感じが広がる一方で、この方を早く元気にしなければ!と私の気が焦るのです。
いったいどうしたというのかしら?
こんなことは初めてです。
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