【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも

春風由実

文字の大きさ
54 / 96

54.かわいい従姉妹たちは庇護欲を誘います

しおりを挟む
 想像出来ない王都について、今まで従姉妹たちから聞いた話を思い出しながら、無理やり想像していますと。
 今度はミーネがいいました。

「そうですわ。侯爵様ともあろう御方が、古い領地の慣例に囚われて、第二夫人もお持ちにならないなんて。おいたわしい限りでしてよ」

 おいたわしい……。

 そんな、第二夫人がいないことがいたわしいことだったなんて。
 ではジンも第二夫人、第三夫人を──。

 なんだか胸の辺りが重たくなっていました。
 どうしましょう。本当にこれは重病なのではないかしら?

「ミシェル、大丈夫だよ。私には君だけだ。この場は私に任せてくれるね?」

 そう耳元で甘く囁かれましたら、何故か胸の重みがすーっと消えてしまいます。
 後ろから顔を覗き込まれると、とくんと胸が跳ねましたが、もう苦しさはありません。

「よしよし。分かってくれて良かった」

 ジンがふんわりと柔らかく笑ったときです。
 ほんの僅かに、かつての天使の残骸……表現が悪かったですわ。
 ほんの、ほんの、爪の先ほどの、天使らしさが垣間見えた瞬間でした。

 それはもう天使はいないということでは、ですって?
 そうね。そうかもしれませんわ。

 天使は思い出の中だけに──。

「そのように気遣う必要はありませんわよ、侯爵様。ミシェルお姉さまは反対しませんもの。ねぇ、そうですわよね、ミシェルお姉さま?」

 え?はい?
 何のお話でしたでしょうか?

「んもう、嫌だわ。話くらいちゃんと聞いていらして?こんなときにさえ役にも立たないなんて。呆れるわ」

 それは本当に申し訳なく思いますが。
 今すぐに会話を思い出し振り返るので──。

 あら、殺気を感じましたよ。
 話も聞けない私を怒って……違うみたいです。

「私の妻を悪く言うことはやめてもらおうか」

 ここ一番の低い声でした。
 戦場ならば、敵将も簡単に震え上がらせることが出来そうです。

 やはりあとで声色の変え方を教えて貰いましょう。
 ここぞというときには、私も声だけで敵将を震えさせてみせますわよ!

「おほほ。申し訳ありませんわ。ミシェルお姉さまとは慣れ親しんだ仲ですから、いつも通りに振る舞ってしまいましたの」

「つまり、いつもそのようにミシェルを愚弄していたということか」

「いえいえ、そんな。そんなことはございませんわ。おほほほほ」

「そうですわ。うふふ。ミシェルお姉さまとは気心知れた仲ですもの」

「妹の言う通りですわ。わたくしたち、ミシェルお姉さまとはとても仲良くしておりましたのよ。ですからミシェルお姉さまが結婚されると聞いてからはもう淋しくて──」

「そうです!淋しさに我慢出来なくて、一緒に嫁ぎたくなってしまったのですわ!それくらいミシェルお姉さまとは仲良しですのよ!」

 二人の笑って誤魔化そうとしている姿を久しぶりに見ました。
 母やアルに捕まると、二人ともよくこんな顔をしていたことを思い出します。

 そうして最後はいつも「ミシェルお姉さまと仲良くしていただけですわ!そうですわね、ミシェルお姉さま」というのですが。

「そうですわよね、ミシェルお姉さま?」

「わたくしたち、とても仲良くしてきましたわよね?」

 うるうると瞳を潤ませた二人に言われると、かわいい従姉妹たちを守らなければという使命感に燃えてきます。

「そ──」

「仲良くね──それで、王都で第二夫人を持つことが流行りというのは本当なのだな?」

 私の言葉はジンの言葉に遮られてしまいました。
 身内として、二人が何か失礼をしたのなら二人に代わって私から謝ろうと思っておりましたのに。

 もう私のことなどどうでもいい、そんな顔でレーネは語ります。

「えぇ、それはもう。皆様そのようになさっておいででしたわ!」

「第二夫人を持てない貴族は恥ずかしいくらいでしてよ!」

 レーネに続きミーネがそう言いますと。

「──と言っているが、どうなのだ?」

 ジンが遠いところに向かって、声を掛けました。
 その視線は応接室の壁に設置された大きな鏡に向かっているようなのですが……。

 どういうことかしら?

 不思議に想っていると、その鏡の向こうに突然ぽんっと気配が生じたのです。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

処理中です...