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番外編
叔父さまはこんな方でした その6
しおりを挟むそれは牢の中でそこそこにいい暮らしを続けることに男が慣れた頃のことでした。
最初の頃は迎えが遅いという苛立ちもありましたが、逃げ癖のある男は、いつここから出られるだろうかという考えを早々に手放して、毛布に包まり床に転がってはぶつぶつと一人で話すことで時間を潰しておりました。
あとは食べて寝る、それくらいです。
見張り役の騎士たちが自分と話さないことは二日目には気付きました。
すると男が話さなければ、いつまでもしんと静まる空間にいることになり、男はこれが怖ろしくて一人で話さずにはいられなくなっていたのです。
そんなときに、急に若者の声が聞こえたら。
男はそれを救世主の声とは受け止めませんでした。
怯えた表情で声がした鉄格子の向こうを見ると、知らない若い男が立っています。
「やぁ、おじさん。久しぶりでいいのかな?」
気安く語りかけられたところで、男は鉄格子の向こうにいる青年が誰か分かりません。
「おじさまって言わないと分からないか。でももう他人なんだよねぇ」
子憎たらしい若造だなと感じたあとに、男はこれが兄の子だと気付きました。
叔父さまと呼ばれるに相応しい者たちを男は記憶の片隅から引っ張り出すと、面影は感じませんがあの赤ん坊がこの若者に成長したのだろうと理解しました。
と分かれば男は強気な態度に変わります。
「遅いではないか!」
男はこの青年が自分を迎えに来たと信じたのです。
と同時に現れたのが身内で良かったとほっとしていました。
何度か話を聞きに来た無礼な者たちは、兄のように乱暴な人間だったために、男は怯えきっていたのです。
それは苦手な義姉でも来てくれて良かったと感じるほどで、ここでのそこそこにいい暮らしに順応することは彼らを思い出すことからの逃避にもなっていました。
「遅いって言われてもねぇ。おじさんがちゃんと答えなかったせいで、時間が掛かったんだよ?」
「叔父に向かい口答えとは無礼な!やはり兄の子だな。躾けがなっていない。いいか、私は今、迎えが遅いと怒っているのだぞ!」
「あー、僕の前でもこうなんだ。ふーん」
見目は違うのに中身は兄にそっくりだな、気に入らない!
男はそう感じておりましたが、誰に聞いても十中八九、この青年は心身共に父親似ではないと言うことでしょう。
ただ男が、気に入らないものをすべて兄に繋げて考えるようになっていただけのこと。
「その態度はなんだ!迎えが遅くなったことをまず詫びないか!」
「はは。本当に立場を分かっていないんだね。僕が説明したら、今度こそ分かってくれるかなぁ?」
「なんだと?私を馬鹿にしているのか?私は叔父なのだぞ?」
こてんと首を傾げた青年は、その仕草とは不釣り合いに、にやりと悪意ある形で口角を上げていた。
「おじさんは辺境伯家から除籍されたの。だから今は平民。僕は辺境伯家の嫡男。さすがにこれは分かるよね?だから、態度を改めるのはおじさんの方だよ」
「……は?」
「うわぁ、本当に分かっていなかったんだ。愚かだねぇ」
「嘘を言うなっ!兄が私を捨てるはずはなかろう!」
男は本当は分かっていたのです。
あれだけ嫌っている兄が、自分には甘いことを。
だから何をしても許されると信じていました。
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